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Bernadette
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 何もかも腐り落ちそうなほどに暑い日だった。

 最初はボストンバッグにしようと思っていたが、この季節にボストンバッグは暑い、と却下され、次に段ボール、と言ったが居心地悪いから、と却下され、結果として朔は荷物をバスケットに入れて両手に抱えることになった。両手が塞がって不便だと抗議したものの、荷物はがんとして譲らなかった。
「ワガママすぎる」
 呟き、藤で編まれたバスケットを抱え直す。朔の声は雑踏に飲み込まれ、おそらく誰の耳にも届かないだろう。歩く人々は皆無関心に歩を進めていく。その中で一際ゆっくり朔は歩いた。
 バスケットの中でもぞもぞと動く気配がする。
「ワガママ? 失礼なことを言うな。誰だって居心地が悪いのは嫌だろう」
 低く、平坦な男の声はやはり、音の波に巻き込まれて人の耳に届くことはない。唯一朔だけが聞いていた。
 唇を尖らせ、額の汗を拭う。制服のシャツがべたべたと背中に張り付いていた。
「その通りだけどさ。でもさあ、そうなった原因は誰のせいなんだって」
「俺だな」
「なんで体なんてなくすのさ。それでなんで生きてるの、生首だけなのに」
「何を今更。悪魔だからに決まってるだろ」
 バスケットの中から聞こえる声は、どこまでも淡々としていた。いっそどこかに置いて捨ててしまおうかとも思ったが、一般人に見つかって良いものではないし、何よりこのバスケットの中身が後々報復にきそうで恐ろしい。結局、バスケットの外側を軽く小突くにとどまった。
 何もかも腐り落ちそうなほどに暑い日だった。
「アンタの体、今頃腐ってるんじゃないの?」
 ふざけて言ってみれば、バスケットの中身の生首は、珍しく神妙そうな声色で答えた。
「それは困る。俺はゾンビになる趣味はない」
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加藤瑞樹の書く小説のお題は、『お花見』『美少女』『虚構世界』です。




 軽い音がして見上げれば、伸びた手が桜の枝を折り取っていた。その拍子に花びらがひとひら、音もなく落ちる。
 桜を折り取ったのは男の手だった。だが手の持ち主へ視線を動かした時には、そこにいるのは男ではなく、美しい容貌を持った少女へと変わっていた。目の前の朔をイメージしたのか、まったく同じ制服に、同じほどの身長に、同じほどの年齢の少女は、しかし、無表情に立っている。ある種まがまがしい気配を感じるのは間違いではない。
「……もったいない」
「何が?」
「桜」
「折ったのが?」
「どうして折ったの」
「なんとなく」
 かわいらしい声は平坦だった。姿と中身の差がひどく不愉快で、朔は静かに眉をひそめて抗議を表した。それを目の前にしても変わらないのがこの、美少女の姿をした「何か」だった。
「折るな、とは言われていない」
「そりゃ、言ってないけど。不文律みたいなもんだよ」
「不文律?」
 そこで初めて、美少女は表情を変えた。可憐な顔立ちに、鬱蒼とした笑みを浮かべて。
「まさかこんなところで、そんな物を持ち出すとは」
 こんなところ、と言われ、朔は周囲をぐるりと見渡した。傍に立った大きな桜の木が一本、そのほかは何もない。あとはただひたすら暗く、広い。
 そういえばそうだった、と朔はやはり無言のまま眉をひそめた。それを愉快気に、美少女は笑う。
「そういうことだ。気分はどうだ、朔」
「どうもこうも。とても不愉快」
「俺は愉快だ」
「黙ってろ悪魔」
「ばかだなあ、お前も」
 ぼう、と音を立てて枝が燃える。少女に手折られた桜の枝はあっという間に火に包まれ周囲を照らした。燃えた花びらがやはり、音もなく散った。
 朔はちらりと美少女を見やり、桜に背を向けた。
「その格好。似合わないからやめたら?」
「そうか」
 次に聞こえた声は可憐な響きのそれではなく、
「なら、そうしよう」
 低く、平坦な、男の声だった。
 目を閉じれば周囲の闇よりさらに深い、まぶたの裏の闇が迫ってくる。一本だけ咲いた桜が崩れる音がした。さして見もしなかった桜の木をもっと鑑賞しておけばよかった、と今更のように思う。
 季節外れの花見は終わり、一歩踏み外した世界は次の瞬間には終わっている。


自分の中の魔法使いキャラを吐き出す。

・蓮(Which Is Witch)
 魔女であり悪魔や精霊を召喚出来る召喚師。契約した悪魔の影響で、未来予知に近いことが出来る。20代前半の姿のまま、不老。
 記憶力がよい。普段は占い師か何かをやっている。他の魔女との繋がりが薄い。

・蝶子(Which Is Witch)
 蓮の母親であり魔女。呪いで若返った影響で記憶の一切と魔女としての能力の一切を失った。
 母親である以前に魔女で、魔女である以前に女だった。女としての自分を優先させたが為に蓮を捨ててしまった人。結果として、憎いけど愛しい人と出会うことは出来た。

・魔法使い(夕暮サンドリヨン)
 男。年齢不詳。鍵を使っていろんな場所に行ける。攻撃魔法なんて使えない平和な人。
 無実の罪で魔法使い連中に追い掛けられ、幼女を誘拐したと思われているが為に警察に追われている。甘い物、特にココアが好き。よく舌を火傷する。それでなくても話し方が途切れ途切れ。

・メイ(夜街)
 皐月荘の女主人。皐月荘の従業員である子供達は皆、メイによって制御されている一種の人形。
 まさしく母親。蝶子とは正反対に母親であり魔女。女というより本当に、母親。だから誰に対しても厳しく優しい。
 魔法使いが使えるのは、鍵を使った魔法なのだという。

「この鍵。これを使えば、どんな扉でも、その鍵で繋がった場所、に行ける」

 アンティークゴールドの輪に大量にぶら下がった鍵はいろいろな形や色や、飾りが付いている。魔法使いは慣れた手つきで一本摘んだ。銀色の、普通の鍵だ。マンションとか家とかの鍵とそう変わらない。
 前髪から雫が垂れる。突然の雨に濡れたから服と体を乾かそう、という話をしていたのだ。魔法使いは滅多に魔法を使いたがらないけれど、宿や休めるところが見当たらないから仕方なく、と言ったところだろう。私はこの国のことをよく知らないから、魔法使いのコートにしがみつき、彼の体に隠れるようにして作業を見守った。
 えい、と相変わらず気の抜けた声で彼は通りに面した扉の鍵穴に、銀色の鍵を差し込んだ。嵌るはずのないサイズだというのに、鍵穴に鍵がきちんと収まって、彼が手をくるりと回せばかちりと音を立てて錠が開いた。

「よし」

 満足そうに笑った魔法使いがノブに手を掛け扉を開いた。
 開けた先は、シャツを着た人達が慌ただしげに仕事をしている、どこかのオフィスだった。

「……」
「……」

 と思ったけれど、壁に掛かった濃い色の制服に見覚えがとてもあって、そう言えばこの人は他の魔法使いと警察の、両方に追い掛けられていたなあ、と思い出した。ぎょっとした顔でその場にいた人達がこちらを見た。それはそうだ。警察のオフィスの扉を、いきなり黒いコートの男と子供が開けたのだから。

「……間違えた」

 ぽかんとした表情をしていた魔法使いは、正気に返ってそんなことを呟いた。失礼した、バタン。扉は閉まってしまった。
 鍵を引き抜き、魔法使いはそのままのポーズで扉の前に立ち尽くす。

「……」
「……」
「……改めて」
「うん」

 そして何事もなかったかのように、別の銀色の鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。



まほうつかいがポカンとして「間違えた」とか言ってたら面白いwwbyたす子氏
ねーC、親に捨てられた優等生と身に覚えのない罪で逃亡してる人物とのファンタジー書いてー。



「わたしは実は、魔法使いなのだ、よ」

 相変わらずどこか舌っ足らずな調子で、彼はふうふうと熱いティーカップの中身を吹き冷ましながら私に言った。年の割に話し方がこんななのは、実は数時間前に熱い缶ココアを飲んで舌を火傷したからである。それを見た私は思わず大笑いしたのだが、彼はいまだに根に持っているらしく、ここ数時間は少し不機嫌気味だった。
 そんな男は魔法使いなのだという。黒いコートを着た、この人は。
「まほうつかい」
「まほうつかい」
「うそだあ」
「なにを根拠に、うそだと言うのだね」
「それっぽくない」
「ひとを、見た目で判断しては、いけない。道端、で寝転がっている人が賢者の可能性も、なきにしもあらず、だ」
 全国チェーンのコーヒーショップの一番奥、薄暗い照明とコーヒーのにおい、私は目の前の温められたスコーンを崩す。ぽろぽろのスコーンはフォークで刺すたびにかけらになって、結局私の口にはあまり入ってくれない。思わず指先でつまんで口に放り込んでから、私はびくりと肩を震わせた。怒られる、と思ったからだ。
 けれど目の前の自称魔法使いは、やっぱりティーカップに息を吹きかけていた。私を叱る大人はここにはいないのだ。
「魔法使えるのね」
「まほうつかい、だからな」
「だから逃げてるの」
「そうかもしれない」
「あいまいね」
「秘密、だからだ」
「魔法も?」
「魔法も」
「使ってくれないの」
 私はこの人の名前を知らない。歳を知らない。どこから来たのか知らない。何も知らない。何を聞いても秘密、というからだ。ただ、彼は逃げている、とだけ教えてくれた。あとは彼の行動から推し量る。寒がり。温かい飲み物をよく飲む。甘いものが特に好き。一週間のうち、ココアを飲んだ回数は18回。コーヒーは0回。今飲み終わったのはミルクティー、これは3回。寒がりのくせに私にマフラーを貸しているものだから、しょっちゅう首元を擦っている。少しだけ申し訳ない。
 目の前の魔法使いは少しだけ悲しそうに笑った。
「わたしの魔法では、君が本当にほしいものを、与えることは、できない」
 だから、使わない、と言い切って、男の人はミルクティーを飲みきった。私の前にはいまだ食べ終わらないスコーンが三分の二。汚れた指先をナプキンで拭う。行儀が悪いと怒る人は、学校で頑張れば褒めてくれる人は、もういない。
 魔法使いがひょい、とスコーンのかけらを勝手にとって食べてしまった。私のスコーン、とつぶやけば、ごちそうさま、と返ってくる。そうじゃない。きっと私がほしいのはそういう言葉じゃないのだ。それを目の前の人に望むこと自体、間違っていると分かっているのに。
 滲んだ目の前で魔法使いの指先が踊る。ふわり、漂った白い煙はティーカップからあふれてきた。甘いミルクティーの香りがする。空っぽだったカップをまた両手に持ってふうふう息を吹きかけて。
「ゆっくり、食べなさい。なんなら別の、注文してきていい」
「別の」
「子供は食べ盛りだから、な」
 じゃあミルクティーがいい、と鼻を鳴らして言えば、魔法使いはにっこり笑ってよろしい、と指を鳴らした。


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