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Bernadette
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二瓶は悪夢喰いだ。
悪夢喰いが一体何であるのか、八坂にはおおよそのことしか分からない。彼は神出鬼没である。喪服のような黒いスリーピースのスーツを着て、金色のタイピンをつけた男は、悪夢を見た者の元へ現れたかと思うとふらりと消える。悪夢を見た者の頭から、黒い奇妙な何かを掴み出して。

「私が何者かなど、知ろうが知るまいが問題はないだろう」

夜明けが近づく中、彼は言った。外した手袋を元通りに填め、八坂の横に座っていた。
彼が八坂の元に現れたのはだいぶ昔のことだ。八坂はよく悪夢を見る。幼い頃、怖い夢を見たと一人泣いている時、彼は唐突に現れた。今と同じように八坂は彼の手を掴み、彼は苦笑しながら片手で頭を撫でた。そしてゆっくりと黒い何かを頭から引きずり出しそれを喰った。得体の知れないものが何者か分からない誰かに目の前で喰われていくことに、幼い八坂は不思議と安心感を得た。それは今も変わらず、彼が悪夢を喰ってくれた後は、凪いだ海のように穏やかな気分になる。
今と昔の八坂の違うところと言えば、彼が黒い何かを食べるその場面を見なくなったことだろうか。

「・・・あの黒いの」
「うん?」
「あれって、おいしいんですか」

悪夢が形をなしたものだというあの黒い何かを食べる二瓶は、しかし微妙な顔をした。

「味、という概念はないな。そもそも悪夢なんてものが美味かったらやりきれない気分にならないか」
「それはそうですけど。じゃあなんで二瓶さんは食べるんですか」
「決まっているだろう。私は悪夢喰いだからだ」

至極当然なことを二瓶は言い、その視線を窓に向けた。カーテンの隙間からのぞく空は既に白み始めている。

「もうこんな時間か」

スプリングが軋み、二瓶が立ち上がる。つられて八坂も上体を上げた。彼はタイピンを軽くいじったかと思うと、いつものように、

「ではな」
「はい、それでは」

その一言を残してふわりと消えた。
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