忍者ブログ
Admin*Write*Comment
Bernadette
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Ib「忘れられた肖像ED」後の小話



 からころ、から、ころ。口の中をキャンディが転がる。転がる。転がる。そして、かみ砕く。飴の破片が口の中を突き刺さる。鼻が痛いのはきっと、レモンの味が酸っぱすぎるだけなのだ。
 から、ころ。から。半分になった飴玉が、鋭利な断面で口の中を削る。痛いのかもしれない。目が熱い。泣き出す瞬間のそれに、よく似ていた。
「……ギャリー」
 目の前で、うつむき座り込む青年はぴくりとも動かない。
「ギャリー」
 返事はない。
 レモンキャンディを強く、強くかみ砕く。
 がりっ。


「美術館、楽しかった?」
 手を引く母が、振り返りつつイヴに問う。ほんの少しの間を置いて、イヴは小さく頷いた。いまだ美術館の穏やかな静寂が耳の中に残っていて、声を発することも大きく動くことも躊躇われたのだ。
 そう、と母親は微笑んだ。笑みには安堵も含んでいたのかもしれない。まだ九歳のイヴが美術館を楽しめるか心配していたのだろう。イヴは小さな声で、楽しかった、と呟いた。反対側を歩く父親もまた、満足げな顔をした。
「じゃあせっかくだし、どこか喫茶店にでも寄りましょう」
「そうしようか。歩いていたら喉が渇いたし」
 母親の提案に父親も同意する。間に挟まったイヴは無言でもう一度頷いた。そして手を引かれるままに両親についていく。きっとこのまま彼ら行きつけの喫茶店へ向かうのだろう。コーヒーの香りが漂う空間を想像して、唐突に甘いお菓子が食べたくなった。
 洋菓子店の前を通り過ぎる。なんとはなしにショーウインドウに目をやれば、カラフルなお菓子が可愛らしく飾られていた。
「イヴ?」
 足の運びがわずかに鈍り、それを母が訝しむ。なんでもないと首を横に振り、イヴは目に飛び込んできたお菓子達を振り切った。それらは視界から消え去ると、あっという間に色褪せ何でもない記憶に分類される。最初から無かった物のように、見てはいけなかった物のように、色鮮やかなお菓子はイヴの頭の中で封印される。
 口の中が妙に乾いていた。そして、甘い風味がした。美術館に来る前に、甘い物を食べた覚えはない。そして、美術館にいるときも、美術館を出た後も。
 舌で歯の裏を、口の中を、撫でるように確かめる。まだ小さな歯にくっつているのは何か食べた跡のそれなのか。まるで飴玉をかみ砕いた跡のようだ、と一人思う。飴を食べた記憶など、ここ数時間は無いというのに。
「お、良かった、開いてるみたいだ」
 父親の嬉しそうな声に現実に引き戻される。気付けば喫茶店は目の前にあった。
 口の中がひどく甘い。娘の奇妙な違和感を知らない両親は、いつものように笑っていた。
「さ、何を飲もうか、イヴ」
 ドアを開ける。ベルが鳴る。店員の声がする。コーヒーとクリームの匂い、そして人の気配。頭の中をよぎったのは、洋菓子店のショーウインドウだった。あのお菓子の名前はなんだったのか、イヴは知らない。ただ、何かを飲みたかった。冷たい水でも、酸っぱく甘いオレンジジュースでも、飲んだことのないコーヒーでも、とにかく何かを飲んで胃の中に流し込んでしまいたい。口の中のこのレモンに似た風味が消え去るなら、もうなんでも良い気がした。
 ただ、一刻も早く忘れたいのだ。


 がりり、と、砕いた飴の破片は突き刺さり、痛い痛いと泣き叫ぶ。
 あるいは、泣き叫んでいるのはイヴの、心だったのかもしれなかった。
PR
Ib「再会の約束」ED後の小話。


 ピンクや黄色、ミントグリーンの、ころころとしたお菓子が透明なセロファンに包まれている。それが更に柔らかな不織布の袋に詰められ、口には青いリボンが結ばれていた。袋自体はとても軽い。お菓子そのものが軽いからだ。そしてそれはイヴの手のひらより少しばかり大きいが、両手で包み込める程度には小さいプレゼントだった。
 ハンバーガーのような形、と彼が言ったとおり、そのお菓子はメレンゲや砂糖を混ぜた生地の間にクリームやジャムを挟んでいるという。味見に一つ食べたが、さくさくと軽い感触とほのかな甘みが舌に広がるお菓子だった。マカロンという名前そのものも、まるで口の中をふわふわと転がるような不思議な響きだとイブは思う。そして、彼によく似合っている、とも思った。
 触れ合いカサカサと音を立てるマカロン達を、大事な宝物のように抱きしめる。抱きしめてから、自分の体温で悪くなってしまわないだろうかと気付いて慌てて体から離した。その拍子にリボンの形が少し崩れているのにも気付き、一人マカロンの袋を手に固まる。せっかくプレゼントにと用意したお菓子もその飾りも、ぼろぼろになっては意味がない。よれたリボンを結び直そうと思ったが、母親に教えてもらった蝶々結びは未だに一人では上手く結べない。仕方なく指先でリボンの形を整えるにとどめた。光沢のある青いリボンは誇らしげに、マカロンが詰まった袋を飾っている。
 普段から赤い物を身につけているせいか、青いリボンはそれだけでどこか違和感を抱かせた。それでもこのマカロンを包むリボンは青色だと、最初から決めていたのだ。

「イヴ!」

 あの奇妙な美術館から二人、一緒に手を繋いで抜け出した。空いた手に握られた花の色は現実には存在しない、鮮やかな青色だった。
 だからイヴにとって、彼の色は青色なのだ。
 名前を呼ばれ左右に視線を巡らせる。彼の姿はすぐに見つかった。ゲルテナの作品に囲まれた中、きっと一緒にいた時間は長くなかっただろう。だが、彼の姿はイヴの記憶の中に、今も鮮明に残っている。コートに包まれた細い体を認めた瞬間、イヴはマカロンを抱えたまま大きく手を振った。

「ギャリー!」

 そういえば、こんなに大きな声で彼の名を呼ぶのは初めてかもしれなかった。ボロボロのコートとひょろりとした長身の青年が笑う。美術館で別れた時と同じ、朗らかな笑みでもう一度、彼は少女の名前を呼ぶのだ。

「久しぶり、イヴ!」
 二次創作って言うわけではないけれど世界観が二次創作。
 何をトチ狂ったか某ネトゲのキャラクターで適当に話を組んでみた。
 某@ラスゲーに久しぶりにたぎった結果が数年ぶりの二次創作という。
 最近ブームの大天使とヒトだった悪魔の話。
* HOME *
  • ABOUT
ネタ帳。思いついた文章を投下するだけの場所。
  • カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
  • プロフィール
HN:
瑞樹
性別:
非公開
  • ブログ内検索
Copyright © Bernadette All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]