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Bernadette
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 それでは私はいつまでも、あなたを待っていましょうとその人は言った。
 愚かなことだ、と笑うことは出来なかった。いや、あるいはその時は笑ったかもしれない。半分程度なら。だが残り半分はおそらく、笑うことも何も出来ないただ諦観と悲観の混ざった思いを抱いていたはずだ。
 いつまでも待つなど不可能だ。ヒトである限りいつかは死ぬ。そして自らが死へと向かっていることに気付いた時、きっと待つことを止めるだろう。その頃にはもう、待つことの意義を見失ってすらいるかもしれない。そう、待ち続けることは辛い。待ち人がいつ来るか分からないのならばなおさらだ。終わるとも分からない苦しみの中に一人佇んでいることが、はたして出来るだろうか?
 不可能だと思っていた。だからこそ、その言葉に期待など一つもしていなかった。あと六十年、七十年。それくらい経った頃にはどうせ潰えている命に、望みを持つことそのものに諦めを感じていたのかもしれなかった。諦めは無気力を産む。くだらぬ妄言と一息で笑い、捨てることすら面倒になっていくのだ。いや、だが、もしかすればその時、その瞬間だけは、いくらかの期待を寄せていたのかもしれない。それもまた、時間が経つにつれて失われていったに違いないが。
 だから百年近く経った今、気まぐれを起こした、その結果もまた自分の中では勝手に予想が出来ていた。――どうせ無駄だ。そう思っていたのだ。



「どうぞ」
 重いドアはとうに開け慣れている。たてつけが悪いのか、ドアノブを持ち上げるように開かなければ床に擦れて嫌な音をたてる。だからこの部屋のドアを開ける時には少しばかり力が必要だった。
 朝に開けたカーテンが揺れているのは、空気を入れ換える為に窓を開け放したままだからだ。一人で寝るには大きい、しかし二人横たわるには若干狭いサイズのベッドと机、本棚には何も残っていないが、クローゼットには替えのシーツやタオル、そして成人男性用の着替えが一式揃っている。一ヶ月前に夏物に替えたばかりで、ハンガーから下がっているのはシャツと薄手のスラックスだけのはずだ。しまい込んだジャケットやセーターがそろそろ型遅れだったことを思い出し、あとで買い直すことを決めた。何よりきっと、あのジャケットやセーターは似合わない。ちらりと後ろを振り向き一人納得する。
 美しい男は驚きに目を見張っていた。呼吸することすら忘れたかのように呆然と立ち尽くし、夏の匂いを含んだ部屋を、ぎこちない動きで見回す。
「……ここは」
「曾祖母の代からずっと、管理するように言われてきたんです。いつ帰ってきても良いように」
「誰が」
「貴方でしょう。きっと」
 毎日部屋を掃除して、シーツを替え、布団を干し、季節に合わせてクローゼットの中身を変える。百年近く続いてきたその伝統の意味を、実際の所よくは知らなかった。ただ誰かが来ても良いように、いつ帰ってきても良いように部屋を美しく、過ごしやすく保っていなさいと、祖母に、母に言われてきたのだ。
 そうしてその人は今この部屋に帰ってきたのだ。曾祖母が祖母に言い、祖母が母に言い、母が自分に言い聞かせてきた、いつか帰ってくるその人が。
「多分、曾祖母が生きていたら」
 生涯、その人を待ち続けた曾祖母ならば。
「おかえりなさい、と、言っていたでしょうね」
 美しい男は何も言わなかった。ただ、ぽとり、とその鮮やかな瞳から一粒、涙を落としただけだった。

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 風が吹く。砂が舞う。小さな足跡がかき消され、今まで歩んできた道のりが何もかも分からなくなる。右か左か、前か後ろか、それすら曖昧だ。目の前に広がるのは荒涼とした大地だ。はたしてどこから来たのか、知ろうにもどこもかしこも同じ風景だ、きっと分からないに違いない。
 何もかも死んだように静かで、ただ風の音だけが耳元で叫ぶ。その風も時間が経てば消え去るだろう。そして広がるのは荒れ果てた大地のみで、そこに少女は一人たたずむのだ。白いワンピースから伸びた足に砂が絡みつく。なびいた髪が景色を遮る。何も見えなくなる。
 不意に名前を呼ばれた気がして振り向いたが、しかしその先に誰かがいる訳もなかった。その拍子にずれた花冠の、みずみずしい香りが鼻に届く。ぱたぱたとワンピースがはためく。少女は静かに花冠を手に持ち、目を眇める。
 何もない世界にただひとり、取り残されたのはいつの頃だろうか。繁栄を極めた人類も、その文化も、あるいはその外側にあったものも、気付けば滅びて残ったのは広い大地だけだ。時間の流れがよく分からないのは少女自身が人ではないからなのかもしれない。かつてふれあった人々の姿は昨日のように鮮やかで、しかし同時に色褪せてもいた。きっと長い時間が経っているのだ。日が昇り、沈み、また昇る。一定のサイクルはそれを必要とする者がいなければ、きっと何の意味もない。そして少女にそれは必要なかった。
「……あのね」
 だが、もしかすれば。花冠を形作る花の、眩しい白が一枚はがれて風に舞う。
「あのね、私ね」
 振り返るのを止め、もう一度前を向く。どの方角が少女にとって前なのか、足跡が消えかけた今ではもう分からない。だが、結局のところ、どこでもかまわないのだ。少女の足が届く先まで、そこまで行ければ良いのだ。
 歩み続けたその先に、何か一つでもあればそれで十分なのだ。
「待ってるよ。ずっと待ってる」
 もう一枚、もう一枚と花びらが散る。風は強くない。乾いた地面に転々と花びらを落としながら少女は歩く。まとわりついた髪を払い、過ぎていく時間を追うように、ひたすらに目の前を進み続ける。
 人の声や木々の擦れ合う音はない。だが、このまま待ち続けたらいつか聞こえるのだろうか。かつての繁栄ほどでなくてかまわない。ほんの小さなものでも良い。何かが誰かが生きる、その時を待っている。
 そしていつか出会えたら、少女はほほえみながら見守るのだろう。
「私はここにいるよ」
 止み始めた風に背中を押され、まだ細い足を一歩一歩ゆっくり踏み出す。花冠を頭に載せようとしたが、ふと思って宙に放り投げた。天に向けて投げられた花々は、やがて歩む少女の背後に小さな音を立てて落ちる。拾い上げる者のいないまま、静かに朽ちていくのだろう。
 けれどもしかしたら、その朽ちた残骸が跡形もなく消え去った頃には、また新しく始まっているのかもしれない。少女は自分の足下を見て小さく笑う。
 一歩、大きく踏み出した。その足下に芽を出した、小さな草を踏まないように。
「うまいか」
 まだまろい幼い手が、ローストビーフを音もなくナイフで切り分け、フォークで突き刺し口に運ぶ。ソースが垂れて皿やテーブルクロスを汚すようなまねはしない。薄ピンクの小さな唇が上品に咀嚼する。俺の目の前の小さな子供は、まるで自分の手の延長のようにナイフとフォークを操って食事をしている。
「はい。とても」
 子供はにっこり笑った。年齢に不相応なほど大人びた食事マナーで、しかし浮かべたのは年相応の無邪気な笑みだ。パールホワイトのワンピースに赤いリボンの少女は、それはそれはうれしそうに笑うのだ。ふうん、と俺は気のない相槌を打つ。肩肘張ったフルコースのディナーは趣味ではないが、この子供が美味いと言うなら良いだろう。面倒な仕事に不味い飯と二段重ねできたらやる気が削がれることこの上ない。
 とはいえ、目の前の子供に限って、そんなことはないんだろうが。きっとこの子供は、どんな厄介な仕事だろうと遂行し、不味い食事にやる気が削がれることもない。幼い頃からそう教育されてきたのだから。
 静かに歩み寄ってきたボーイが食べ終わった皿を持って行く。いつの間にか、子供も食べ終えナプキンで口元を押さえていた。大きな緑の目が瞬きをする。俺を見る子供の目はあくまで純粋だ。
「次はデザートですか」
「何かの果物のムースらしい」
「おいしそう」
「なんなら俺の分も食うか」
 甘い物はさして好きではない。あまり行儀の良いものではないが、まあ、子供が居るんだ、大目に見てもらえるだろう。やはりにこにこと笑った子供は大きく頷いた。ライトブラウンの柔らかな髪が、抑えられた照明の下でうっすら透けて見える。ふとその頭を撫で回してみたいと思ったが、さすがにそれは実行しなかった。


 目の前の子供は物心つく前から教育されてきた、立派な暗殺者だ。
 およそどこにでもある話だが、スラム街の孤児や捨て子を拾い集め、殺し屋として教育するその場所を、この国ではファームと言う。ファームで育てられた子供たちは人の殺し方だけではなく、一般常識や立ち居振る舞い、それなりのレベルの知識を詰め込まれ、大きくなれば人に売られて仕事を始める。どこぞの企業社長、マフィア、あるいは政治家。自分の身を守る術がほしい連中にうってつけの商品だ。強ければ強いほど、頭が良ければ良いほど高い値が付き、その金でファームはまた子供たちを増やして教育する。それに見た目の良さも付け加われば価値はもっと上がるという訳だ。
 俺がこの子供を買ったのもやはりファームで、だ。正確にはファームのそういう販売人がリストアップした候補の中から選んだのだ。なるべく賢く、なるべく優秀な、暗殺に秀でた子供を、という希望通りにそいつは五人ほどの候補を上げた。その中から選んだのはライトブラウンの癖毛と緑の目をした、まだ十歳にも満たない少女だった。
 最初は、こんなに幼い子供が仕事なんて出来るんだろうかと疑いもしたが杞憂だった。俺に買われたその日から、無邪気な笑顔を浮かべた子供は忠実に仕事をこなした。高い金を払っただけの価値はあったということだ。ファームの販売人が雄弁にこの子供のすばらしさを説いていたのを思い出す。
 レストランから出て、五十階に予約していた寝室に向かう。時計を見れば子供は寝ていてもおかしくない時間だったが、小さな暗殺者は眠気の欠片も見せず俺の後ろに従っていた。腰の後ろで結んだ大きなリボンが、ワンピースの裾が、頭の赤いリボンが、歩くたびにふわふわなびいていた。
 荷物はすでに部屋に運び込まれていた。入るなり、子供は部屋中をくまなく見た。さすが高級ホテルの五十階、たかだか一泊のためだけに使うには惜しいくらい部屋は広々として、調度品は値段が張ることが一目で分かる。それでいてやたらと豪奢に見えない辺りは品が良いと言えるだろう。もっとも子供はそんなの知ったこっちゃないので、絵の裏だとかベッドのスプリングの下だとか、コンセントの周辺だとかを調べ回る。およそ十分くらいで部屋中を見終わって、子供は大丈夫です、と言った。
「盗聴器などは、ないみたいです」
「そうか」
「これでお仕事が出来ますね」
 子供はそう言って、自分のトランクを床の上に広げた。かわいらしい外見のトランクは、しかし中身はまったくかわいらしくない。着替えが詰め込まれた中に、巧妙に、人を殺すための道具が隠されているのだ。
「念のため言っておくが、ターゲットはこの更に上、六十階だ」
「はい。更に、七時にはボーイが部屋に来ますから、その前にこのホテルをチェックアウトしなければなりません」
「部屋の前には警備員もいるだろうしな。どうするつもりだ?」
「空調に、仕掛けをしてみようかと」
 床に座り込み、子供は言う。
「あたしは小さいので、空調ダクトを通ることが出来ます。少し時間はかかりますが、監視カメラを少しいじって死角をつくって、そこから空調ダクトを通って部屋に行きたいと思います。直接ナイフや銃で殺すのが確実ですが、部屋に降りてそこにカメラがないとは限りませんから、今回は毒殺です」
「……そうか」
 淀みなく計画を述べた子供を後目に、俺はソファーに深く腰を沈めた。そうしている間にも少女はポシェットに毒やら何やらを詰め込んだ。ワンピースと靴を脱ぐと半ズボンとフリルシャツに着替える。万が一見つかっても大丈夫なように、それなりにフォーマルかつ動きやすい格好をするらしい。
 最後に、編み上げのブーツの紐を固く結んで髪の毛を一つに縛る。トランクに荷物をすべて詰め込んで、それで準備は終わりだった。
「行ってこい」
「はい、いってきます」
 小さな暗殺者はやはり、笑う。


 幼い頃からそうなるよう育てられた優秀なアサシンは、しかし、決定的な歪みを内包しているのだと販売人は言う。
「人が人を殺すと言うことは、その精神に深い影響を与えます。生まれつきの殺人鬼ならばそうでもないでしょうが、ごくごくふつうの精神を持った子供であれば無事に済むことはありません。必ずどこか、歪みがあります。そこがファーム製の殺し屋の欠点です」
 そりゃそうだ。人殺しなんてまったく関係ない世の中に住んでいても、歪む人間は必ずどこかにいるもんだ。最初から歪んだ環境にいる子供ならなおさらだ。大人よりも柔軟で、それ故に影響を受けやすい精神が無事であるはずもない。
 だが彼らはとても、とても優秀な殺し屋だ。
「ですから、我々はその精神にも教育を施すのです。その内容は子供の状態や適正によってバラバラですが。たとえば、人を殺したらその分だけ食事を楽しむ。音楽を聴く。本を読む。運動をする。人を殺すストレスを必ずどこかで発散するように教育します。そうして精神のバランスを保ち、完璧な殺し屋として育て上げるのです」
 では、あの子供はどうなのか。俺と初めて出会ったときから、ずっとうれしげな笑みを浮かべる子供はどうなのか。もしや笑顔を浮かべることで発散でもしているのか。
 しかし、販売人は苦笑して頭を横に振った。まだ取引は成立していない時だった。子供は販売人の横に並びながら、その大きな緑の目で俺をじっと見ていた。
「ますたー」
 そして、今、その目が俺の顔をのぞき込んでいた。
 驚いた俺が上体を起こすより早く、子供は俺の顔から距離をとって頭と頭をぶつけるような事態を回避した。腰の辺りに妙な重さがあると思ったら、いつの間にか子供が俺の上に乗っていたのだった。ソファーに横になっていた俺に、更に子供が乗っていた、という状況である。
 子供はすでに、元のワンピースに着替えていた。いつの間に帰ったのか。時計をみようとしたが、どう言うわけかこの部屋には壁掛け時計がない。仕方なく腕時計を見る。子供が出て行ってから、優に三時間は経っていた。
「ただいまかえりました、マスター」
「……そうかい、おかえり」
「はい」
 行く前となんら変わりのない姿だった。少しばかり埃っぽいのは、空調ダクトを通って仕事をしたからだろう。だとすれば服も相当汚れたはずだ。なるほど、それで元のワンピースに着替えているということか。
 ウェーブがかった髪についていた埃を、指先で摘む。
「首尾は」
「問題ありません。ターゲットは殺しました」
 埃を落とし、そのまま子供の頭を撫でる。細い髪に指を絡め、かきあげるように何度も梳く。暖かい。子供の体温は冷たい俺の手にはとても心地よい暖かさを持っていた。子供は心地良さそうに目を閉じて、猫のように俺の手にすり合わせた。
「マスター」
 甘えるような動作だと思ったが、まさしく甘えているので言い間違いではないだろう。起こした俺の上体に抱きつく子供はとても軽い。埃っぽさにまじって少しばかり甘い香りがした。
「がんばったな」
「はい」
「明日は帰ったら何がほしい」
「なにもいりません。でも、マスターと一緒にいたいです」
 胸にしなだれかかる子供はいつもそれだけを望む。そうか、と俺は呟くように答え、髪の毛を梳いた。白い手がシャツを握りしめる。母親に愛情を求める子供と言うよりは、恋人に甘える女によく似ていた。まだ十歳にもならない子供だが、確かに女なのだろう。背中に手を回すと、浮いた背骨の細さにただ単純に驚きを覚える。
 この子供はとても優秀だと説いた販売人を思い出した。何をもって優秀とするかは人によって定義は異なるが、少なくとも俺にとって、この子供を選ぶことは最良の選択肢と言えた。暗殺者としての能力に優れているだけではない。この子供は俺を裏切ることはない。
 人を殺すことで乱れた精神バランスを、元の状態に戻すために子供たちは教育を受ける。そして自分に合ったバランスの取り方を学ぶ。俺にすがる子供にとって、バランスの取り方は自分の主に恋をすることだった。ある種盲目的な恋だ。生まれた時からその人のためだけに存在するのだと信じ込み、自らを鍛え、そして出会った主に心の底からの信頼と愛情と忠誠を向ける。運が良い、とも販売人は言った。それは、俺にとって運が良かったのか、子供にとって運が良かったのかは分からない。あるいは販売人にとって運が良かったのかもしれない。今では真実なんぞ知ることは出来ないが。
 ただ一人、自分の主に恋をする子供が、その主を裏切るようなことはない。つくづく、愛情とは恐ろしいものだ。それを利用している俺が言うのも的外れな気がするが、あいにくそれに痛むような良心の持ち合わせはない。それを知ってなお、子供は俺に笑顔を向ける。恋をしているのだと、全身で訴えかける。


 やけに静かだと思って目線を下に向ければ、子供はうとうとと瞼を降ろしつつあった。それでも俺の視線に気付くと、眠たげな目のまま微笑んだ。
 頭をもう一度、軽く撫でる。
「寝るか」
「はい」
 よりいっそう強くシャツを掴んだので、離すな、ということなのだろう。子供を抱えたまま眠るのは別に良いが、うっかり寝返りを打って押しつぶしたりはしないだろうかと不安になった。
 子供は俺の不安などきっと知らないのだろう。緑の目を閉じ、年相応の寝顔で腕の中に収まっていた。
やたらアグレッシブな女装男子と引きこもりたい憂い顔イケメンが、何でもお探しします。


<世御坂>
・男、20歳、165~170cm、痩せ型だが怪力。手足が長い。美脚。現在大学二年生。
・「俺」「あんた」など。口調はぶっきらぼうな感じだが、決して乱暴ではない。誰に対してもそれなりに対応出来るので、コミュニケーション能力はそれなりに高い。性格も極端に明るいというほどでは無いが、外見に反して取っつきやすく、波長が合う人間には無条件で懐かれるタイプ。波長が合わなくても、一定ラインまでは会話出来る、器用な人。
・女装男子。ただし中身は男前。あくまで女性の格好をするのが趣味なだけ。所作はそれに合わせて女性らしいものにしているが、別に女性になりたいわけではなく、ただ単に、自分が着たいから着ているだけ。
・足のラインが出やすい格好をする。ホットパンツが好き。他、プリーツスカートなど。あまり胸元が露出する服は着ない(胸が無くて奇妙に空くので)。
・元の顔が女性らしいので女装してもなんら問題ない。女性の格好をする時は必ずメイクをする。少し目つきが鋭い美女に変身。なお、髪は元から伸ばしていて現在腰くらいに届いている。
・男物の服も勿論持っているがあまり着ない。よっぽどのことがない限り女装。
・結構神経が図太い。どんな環境でも安眠出来る。活動的で、よく動いてよく食べてよく寝るという人。
・見えてはいけない物が見える体質だがあまり気にしていない。見えるのは家系の問題。
・料理をすると、何故か目標から少し進んだ先に飛んだ物が出来る。例:野菜炒めを作ろうとしたら野菜スープが出来てた。その割に健啖家。
・世御坂家を姉が継いでいるが、その姉にこき使われている。


<那岐>
・男、21歳、180~190cm、それなりに筋肉が付いている。現在、一年の休学を挟んで大学二年生。
・「私」「あなた」など。誰に対しても、親兄弟にも敬語。人と距離を置きたい、あまり明るくないタイプ。騒がれたくない、ほっといて欲しい、といつも思っている。
・手芸が得意なイケメン。勉強出来る、運動出来る、基本紳士的、顔も良いと良いとこ尽くめだが、それが逆に不幸を呼んで女運がない。大学一年の後半、本人のあずかり知らぬところで女性関係の騒動があり、ぶっちぎれて一年休学。現在も気付けば引きこもっている。出来れば一日中家に居て縫い物してたい。
・なお、高校時代も微妙に女運が悪かった。おかげで憂い顔のイケメンになりつつある。もうバケツとか紙袋被って生きていたい。
・異常な物に対して鼻が利く。さらに、物を探すのが得意。見つけてはいけない物すら簡単に見つけてしまうので本人も困っている。それで人間関係にもヒビが入ったことが何度かある。
・身長が高いため、時々額をぶつける。身長低い人と話す時に体を屈めるのが結構億劫。また、その身長のおかげで初対面の人に圧迫感を感じさせてしまうのが申し訳ない。
・世御坂の姉とは仲が良い。姪が可愛い。
・料理はそれなりに得意。手先が器用なので大体のことは練習すれば出来るようになる。


・世御坂の姉と那岐の兄が結婚して娘が一人いる。実質二人は義兄弟ということになる。
・世御坂は姉とは14歳差、那岐は兄と12歳差という年の差で、かつ二人ともそれぞれのきょうだいと顔と口調がよく似ているという奇妙な一致。
・世御坂家は地区ではそれなりの地主で、家を継いでいるのは姉の方。那岐の兄は入り婿。夫婦仲円満らしい。若干オカルトな家系で、家業にもその影響がある。よく人が出入りするが、オカルト関係の相談などを受けているらしい。そして姉は弟をこき使う。
・那岐家もある種そういう家系なので、この二家はいろんなところが共通している。なお、那岐家は世御坂家の隣の市にある。
・姪は世御坂と那岐どちらにも懐いているが、よく人形の服やお菓子を作ってくれる那岐の方に傾きつつある。世御坂邸で何かある時は、よく那岐のアパートに来る。

 ギイ、ギイ、と音がする。こういう時は、目を開いてはいけない。
 異臭。それは幻だと言い聞かせる。妙に鼻が利いてしまうこの体質が恨めしい。張り替えたばかりの青い畳の匂いが、どす黒く変わってしまったようだ。心なしか部屋の空気が冷たい。エアコンは確かに効いているが、それとは違う、薄ら寒さが私の肌を粟立たせる。
 もぞ、と動くのは、私の隣に眠る相棒だ。妙に神経の図太い彼はきっと、この空間の変化に気付かず眠り続けているのだろう。うらやましいことだ。ため息をつきそうになって止める。代わりに布団の中に潜り込んだ。私の体温を吸い込んで生ぬるい布が、今だけは心強い味方だった。
 音がする方向へ、顔を向けてはいけない。目を開いてはいけない。見ては、いけない。私は自分に言い聞かせる。背筋を冷たい汗が流れた。目を開けていないので何時なのか分からない。部屋の状況が分からない。分からないことに囲まれるのは恐ろしい。ただ一刻も早く朝が来れば良い。祈る気持ちで体を丸める。
 吐息が聞こえた。やはり相棒は、眠り続けているらしかった。どうせなら私も彼くらい、深い眠りにつきたいものだ。


 たとえ真夏であろうと、山中の朝は肌寒い。勢いよくカーテンが引かれ、ついで窓が開け放たれる。そうすると、冷房とはまた違った冷たい空気が部屋に流れ込んできた。新鮮な緑の匂いだ。山の空気は澄んでいて気持ちが良い。
 布団に寝ころんだまま、光が差し込む窓辺をぼんやり眺める。カーテンと窓を開けた本人は、そのままさっさと窓辺から自分の荷物を置いたところへ移動した。長い髪が動きに合わせて軌跡を描く。手触りの良さそうな黒髪だ、と考えたところで、馬鹿馬鹿しくなって体を起こした。
「おう、起きたか」
 黒髪の主は事も無げに私を見やり、洗面用具を片手に部屋を出ていった。声をかける隙もなかったが、それはただ単に寝起きの私の反応速度の問題だ。いまいち血圧が上がらない私は、寝起きがひどく悪い。おそらく気を抜けばまた布団に戻ることになるだろう。それはそれで魅力的だが、あいにく今は二度寝できる環境ではない。時計を見れば、六時三十七分、七時までもう少しだった。朝食は七時から、この宿の一階の食堂でとることになっている。
 まるで衣服の脱着を覚え始めた幼児のごとく、もそもそと動いて寝間着からポロシャツとジーンズに着替えた。靴下を履こうと座りながら前傾姿勢をとったところで、何を間違えたかそのまま布団に横に転がった。それに羞恥心を覚える、ことはない。いつものことだ。寝起きは自分でも、何をしているのか分からないことをしてしまう。
 年代物の扉が開き、顔を洗ってきたのだろう彼が戻ってくる。体を丸めるように横になった私を見て呆れたらしい。ずかずかと布団の上を歩いて彼は近くに寄ってきた。
「何やってんだよナギ」
「……おはようございます、よみさか」
「ああおはよう。だが俺が言いたいのはそこじゃない」
 何、と言われても、靴下を履こうとして失敗しただけだ。見て分からないのか。まあ分からないだろう、世御坂はすらりと長く伸びた足を躊躇い無く私の横腹に乗せた。体重がのっていないので重くはないが、圧迫感はある。そしてそこでようやく気付いたが、世御坂はすでに着替え終わっているようだった。
 ぐりぐりと生足が私の脇腹をえぐるように動く。マッサージのようだがどうせマッサージをするなら、背中をやってもらいたい。
「ほら起きろ。飯だ」
「……」
「衆人環視の中の飯だ。喜べナギ。今日は朝からカツを揚げてくれたらしい」
 もしや洗顔ついでに食堂に行ってきたのだろうか。相棒の行動力には目を見張るしかない。だが朝からカツとは、私や世御坂は良いとしても、他の女性陣はどうなのだろうか。あと衆人環視は冗談ではないので止めてほしい。私は目立たずひっそりと生きていきたい。
 世御坂の足に体重がかかる。
「あと五分で七時だ」
「……はい」
「さっさと靴下履けよ、転がってないで」
 幸か不幸か、世御坂は私の行動の意味をちゃんと分かってくれていたらしい。それはそれで良いのだが、さっさと足をどけてほしい。起きあがろうにも起きあがれない。
 タイミングを見計らったように、世御坂の足がよせられる。むくりと起きあがった私の目の前に立っているのは、少しばかり目つきの鋭い美女だった。
「……おはようございます」
「おはよう」
 ジーンズのホットパンツから惜しげもなく晒された足は余分な筋肉も脂肪もなく、傷すらない。ミントグリーンのキャミソールは後ろでリボンが結ばれ、長い黒髪がまとめられたおかげで白いうなじがよく見えた。夏とはいえさすがに涼しいからか、手にはカーディガンらしきものを持っていた。
 モデルもかくやと言わんばかりの脚線美と引き締まった体に、化粧せずとも白い肌、薄桃色の唇。とはいえノーメイクは趣味じゃないと常日頃から言っている世御坂のことだ、うっすらとだが化粧をしているのだろう。さすがにそういうものと縁のない私には、よく分からないのだが。
 なんとなく、残念だと思う。遠目から見れば、いや、近くで見ても、違和感のほとんどないその外見に。
「よし、行くぞ」
 靴下を無事履き終えた私を引きずるように、世御坂が襟元を掴む。とんでもない力だ。180cmを優に越える私をなんでもないかのように引っ張る力は、到底ふつうの女性とは思えない。艶やかだが高くない、むしろ女性としてはかなり低い声に、出た喉仏、そして膨らみのない胸部。なんとなく残念だ。
 まあ、それも当然のことだ。世御坂はれっきとした男なのだから。

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