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Bernadette
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体の端からだんだんと食われていく夢を見た。
起きてなお体に残る、貪り食われる感覚に吐き気を催した。荒い息を押さえようとベッドの中で体を丸め、口を押さえた。生理的な涙が目から溢れてシーツに落ちる。体がかたかたと震えていた。
指先からじわじわと這い上がってくる舌や、骨を囓り砕く音が、体験したこともないのに妙にリアルに響いていた。夢の中で食われていた八坂は、しかし、そのことに一切痛みを感じていなかった。むしろそれが、八坂の精神に効いたのかもしれなかった。感覚無しに自分の体が無くなっていく様を見続ける、とんでもない悪夢だった。
毛布の中からなんとか顔を出し、部屋の中に視線を巡らせる。壁に掛かった時計は朝の三時を過ぎたことを知らせていた。その時計の下に、男が立っていた。

「にへい、さん」

暗がりに溶けるような黒いスリーピースのスーツの中で、金色のタイピンが輝いている。いつも手にしている黒いアタッシュケースは今は無い。そこにいるのかいないのか、存在感がまるで感じられない男は、不思議なほど穏やかな目で八坂を見ていた。
たすけてくださいと、絞り出すように小さな声は確かに男に届いたようだった。二瓶は苦笑を一つ、八坂のベッドへ近付いた。すがりつくように伸ばした八坂の手を、手袋に包まれた手が握る。手袋越しにヒトより低い体温が伝わってきて、それがひどく心地よかった。

「仕方ないな」

片手の手袋を口で取り、二瓶はそっと囁いた。

「そんなに恐ろしければ、目を背けるという選択肢もあるんだぞ」

手袋に包まれていない手がなだめるように髪を撫で、同時にずるり、と奇妙な黒い何かを掴む。確かな形を持たないそれは八坂の頭から引きずり出され、彼の手の中で悶え苦しんでいた。
八坂は静かに目を閉じた。二瓶の片手を強く握りしめ、更に体を小さく丸める。悪夢喰いが悪夢の残滓を喰う。自分を助けてくれる行為だというのに、それすら恐ろしく感じた自分を心の中で嘲笑う。恐ろしければ目を背けるという選択肢もある。悪夢喰いが悪夢を咀嚼する音がする。ごめんなさい、二瓶さん。唇だけを動かした謝罪は午前三時の薄闇に溶けて消えた。
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