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Bernadette
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 あたしの目の前で缶のプルタブを開ける、その手が好き。
「どうぞ」
「ん」
 クリームソーダ色の爪。せっかく塗ったネイルが剥がれないようにと、彼は静かに笑ってプルタブを開けてくれた。恥ずかしいような嬉しいような気持ちでいっぱいになって、言葉少なに受け取りそっと口を付ける。温かいカフェオレはいつもより甘い気がした。
 彼も温かい飲み物を選んだけれど、それはあたしとは違う、ブラックコーヒーだった。苦い香りが隣のあたしにまで届いてくる。普段は甘党なのに、ブラックコーヒーなのが不思議だった。
「ね、なんでブラックなの?」
 するりと口からでた疑問は、彼を困らせたようだ。言葉を探すように視線が泳ぐ。答えにくい事情があるのかと思ったけれど、そういうわけではないみたいだ。
「昔は、男で甘党なのが恥ずかしかったから、我慢してブラックに近いのを飲んでた。確か中学生くらいの頃」
「若いねー」
「俺はまだ若いよ」
 茶化すと、やはり困ったように笑って見せた。
「でも、今は? 普通に甘党のままでしょ」
「甘党だな。なんでだろ。分からない」
 結構真剣に悩み始めたので、慌てて止めた。
「別に良いよ、真剣に考えなくて」
「そう?」
 小さく首を傾げて、彼はコーヒーに口を付けた。あたしは缶を握りしめて暖をとる。北風が冷たい。マフラーに口元を埋めると、カフェオレの香りがした。
「さむーい」
「寒いな。今日は雪が降るかも。電車止まるかな」
「考えることが現実的すぎるよ」
「俺はリアリストなんです」
「嘘つき」
 ふざけ半分で彼のマフラーを引っ張ると、予想以上に体が傾き彼の顔が近くなった。
 あ、ブラックコーヒーの香り。
「・・・・・・あたしもブラックコーヒー、飲んでみようかな」
「ん?」
 あたしの唐突な呟きに、彼は不思議そうな顔をした。なんでもないとごまかしてマフラーを離した。コーヒーの香りは冷たい風に吹かれてあっさりと消えてしまう。名残惜しい気分を無理矢理カフェオレと一緒に飲み込んだ。その横で平然とノンシュガーの、彼。
 クリームソーダ色の爪を見る。明日は彼のような、ブラックコーヒーのような、そんな黒にしてみようか。
「ねえねえ、明日、マニキュア塗って。黒いの」
「俺が?」
「あたしの爪を塗るの。ずっと前やってくれたでしょ」
「俺、そんなに上手くないぞ。知ってるだろ」
「良いの、見てるこっちは楽しいから」
 そういえば、小さい頃はブラックコーヒーを飲める人は大人に見えていた。けれど実際はそんなことなどないのだ。あたしはまだ苦いコーヒーは飲めない。
 けれど、そういう意味でなら彼は大人なんだろう。じゃあ、あたしは子供のままで良いや。
「失敗しても知らないからな」
 小さくため息をつく彼は、やはりブラックコーヒーの香りがした。



・成人前後のイメージ。
・女の子一人称。
・真冬。
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