青。
水槽の中をたった一匹、青い魚が泳ぐ。熱帯魚のようなはっきりとした青ではない。空に似た涼しげな薄青の鱗を持った魚だ。
この魚の名前を、夏野は知らない。
一匹のためだけに用意された水槽は、魚に似た青色のライトで照らされている。夕方を過ぎ夜になった部屋の中、そのライトだけが煌々と光っていた。手にしていた鞄を放り投げ、制服のまま水槽の前に座り込む。夏野の手のひらにのる程度の大きさの魚は悠々と水の中を泳いでいた。
青。
その魚は、だんだんと形を変えている。
最初は金魚のように小さく愛らしい形をしていたそれは、もはやその原形をとどめていない。一回りも二回りも大きくなった魚のシルエットは奇妙というほかない。えらの辺りから人のような腕を生じ、伸びた頭近くは人の上半身に形を似せ、日々顔らしき物を形成している。
今もまた、それは生まれたばかりの腕を伸ばし泳いでいる。魚だったはずのものはもう魚とは呼べない。
青いライトに照らされたアクアリウムをひたすら見つめながら夏野は思う。中途半端に人の形を取ったこの生物が完成したら。
それは、人魚というものになるのではないだろうか。
水槽の中をたった一匹、青い魚が泳ぐ。熱帯魚のようなはっきりとした青ではない。空に似た涼しげな薄青の鱗を持った魚だ。
この魚の名前を、夏野は知らない。
一匹のためだけに用意された水槽は、魚に似た青色のライトで照らされている。夕方を過ぎ夜になった部屋の中、そのライトだけが煌々と光っていた。手にしていた鞄を放り投げ、制服のまま水槽の前に座り込む。夏野の手のひらにのる程度の大きさの魚は悠々と水の中を泳いでいた。
青。
その魚は、だんだんと形を変えている。
最初は金魚のように小さく愛らしい形をしていたそれは、もはやその原形をとどめていない。一回りも二回りも大きくなった魚のシルエットは奇妙というほかない。えらの辺りから人のような腕を生じ、伸びた頭近くは人の上半身に形を似せ、日々顔らしき物を形成している。
今もまた、それは生まれたばかりの腕を伸ばし泳いでいる。魚だったはずのものはもう魚とは呼べない。
青いライトに照らされたアクアリウムをひたすら見つめながら夏野は思う。中途半端に人の形を取ったこの生物が完成したら。
それは、人魚というものになるのではないだろうか。
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