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鮮やかな翼に似たオレンジと青を開く極楽鳥花を一本、彼はそこにいた。
ストレリチア。統一性のない色を持つ、架空の鳥に似た植物。

「花ってさ、いつか枯れるから綺麗なんだと思う」

ない花瓶の代わりに縦長のグラスに水を注いで花を生ける。花屋で買ったという一本はしおれることなく姿を保っている。緑の茎に小さな鳥が一羽止まっているようだった。

「よく分かんないけどさ。この花がずっとこのままなら、おれはきっと、持って来なかった」
「……」
「よく、分かんないけど」

もう一度繰り返して彼はソファーに身を沈めた。甘い煙草と僅かな汗のにおいが一瞬香り、すぐに消える。彼が放り投げたジャケットがフローリングに落ちる前に受け取りハンガーに掛けた。
ジャケットには彼の匂いが強く強く染み付いていた。紅茶に似た煙草の匂いが呼吸をするたびに嗅覚を刺激する。

「どうして花って枯れるんだろうな」

振り向くと、彼が指先で極楽鳥花をいじっていた。

「でも、枯れるからこそ綺麗なんだろう」

数分前に彼が発した言葉をそのまま返す。彼はゆるやかに笑って見せた。はばたくことなき極楽鳥は彼の指先で鮮やかに咲き誇っている。枯れる瞬間まで、彼はきっとその花を愛すだろう。そして枯れた時、きっと悲しむに違いない。続かないからこそ美しい。彼はきっとそれを、心の底から知っている。
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