Ib「再会の約束」ED後の小話。
ピンクや黄色、ミントグリーンの、ころころとしたお菓子が透明なセロファンに包まれている。それが更に柔らかな不織布の袋に詰められ、口には青いリボンが結ばれていた。袋自体はとても軽い。お菓子そのものが軽いからだ。そしてそれはイヴの手のひらより少しばかり大きいが、両手で包み込める程度には小さいプレゼントだった。
ハンバーガーのような形、と彼が言ったとおり、そのお菓子はメレンゲや砂糖を混ぜた生地の間にクリームやジャムを挟んでいるという。味見に一つ食べたが、さくさくと軽い感触とほのかな甘みが舌に広がるお菓子だった。マカロンという名前そのものも、まるで口の中をふわふわと転がるような不思議な響きだとイブは思う。そして、彼によく似合っている、とも思った。
触れ合いカサカサと音を立てるマカロン達を、大事な宝物のように抱きしめる。抱きしめてから、自分の体温で悪くなってしまわないだろうかと気付いて慌てて体から離した。その拍子にリボンの形が少し崩れているのにも気付き、一人マカロンの袋を手に固まる。せっかくプレゼントにと用意したお菓子もその飾りも、ぼろぼろになっては意味がない。よれたリボンを結び直そうと思ったが、母親に教えてもらった蝶々結びは未だに一人では上手く結べない。仕方なく指先でリボンの形を整えるにとどめた。光沢のある青いリボンは誇らしげに、マカロンが詰まった袋を飾っている。
普段から赤い物を身につけているせいか、青いリボンはそれだけでどこか違和感を抱かせた。それでもこのマカロンを包むリボンは青色だと、最初から決めていたのだ。
「イヴ!」
あの奇妙な美術館から二人、一緒に手を繋いで抜け出した。空いた手に握られた花の色は現実には存在しない、鮮やかな青色だった。
だからイヴにとって、彼の色は青色なのだ。
名前を呼ばれ左右に視線を巡らせる。彼の姿はすぐに見つかった。ゲルテナの作品に囲まれた中、きっと一緒にいた時間は長くなかっただろう。だが、彼の姿はイヴの記憶の中に、今も鮮明に残っている。コートに包まれた細い体を認めた瞬間、イヴはマカロンを抱えたまま大きく手を振った。
「ギャリー!」
そういえば、こんなに大きな声で彼の名を呼ぶのは初めてかもしれなかった。ボロボロのコートとひょろりとした長身の青年が笑う。美術館で別れた時と同じ、朗らかな笑みでもう一度、彼は少女の名前を呼ぶのだ。
「久しぶり、イヴ!」
ピンクや黄色、ミントグリーンの、ころころとしたお菓子が透明なセロファンに包まれている。それが更に柔らかな不織布の袋に詰められ、口には青いリボンが結ばれていた。袋自体はとても軽い。お菓子そのものが軽いからだ。そしてそれはイヴの手のひらより少しばかり大きいが、両手で包み込める程度には小さいプレゼントだった。
ハンバーガーのような形、と彼が言ったとおり、そのお菓子はメレンゲや砂糖を混ぜた生地の間にクリームやジャムを挟んでいるという。味見に一つ食べたが、さくさくと軽い感触とほのかな甘みが舌に広がるお菓子だった。マカロンという名前そのものも、まるで口の中をふわふわと転がるような不思議な響きだとイブは思う。そして、彼によく似合っている、とも思った。
触れ合いカサカサと音を立てるマカロン達を、大事な宝物のように抱きしめる。抱きしめてから、自分の体温で悪くなってしまわないだろうかと気付いて慌てて体から離した。その拍子にリボンの形が少し崩れているのにも気付き、一人マカロンの袋を手に固まる。せっかくプレゼントにと用意したお菓子もその飾りも、ぼろぼろになっては意味がない。よれたリボンを結び直そうと思ったが、母親に教えてもらった蝶々結びは未だに一人では上手く結べない。仕方なく指先でリボンの形を整えるにとどめた。光沢のある青いリボンは誇らしげに、マカロンが詰まった袋を飾っている。
普段から赤い物を身につけているせいか、青いリボンはそれだけでどこか違和感を抱かせた。それでもこのマカロンを包むリボンは青色だと、最初から決めていたのだ。
「イヴ!」
あの奇妙な美術館から二人、一緒に手を繋いで抜け出した。空いた手に握られた花の色は現実には存在しない、鮮やかな青色だった。
だからイヴにとって、彼の色は青色なのだ。
名前を呼ばれ左右に視線を巡らせる。彼の姿はすぐに見つかった。ゲルテナの作品に囲まれた中、きっと一緒にいた時間は長くなかっただろう。だが、彼の姿はイヴの記憶の中に、今も鮮明に残っている。コートに包まれた細い体を認めた瞬間、イヴはマカロンを抱えたまま大きく手を振った。
「ギャリー!」
そういえば、こんなに大きな声で彼の名を呼ぶのは初めてかもしれなかった。ボロボロのコートとひょろりとした長身の青年が笑う。美術館で別れた時と同じ、朗らかな笑みでもう一度、彼は少女の名前を呼ぶのだ。
「久しぶり、イヴ!」
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