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 二次創作って言うわけではないけれど世界観が二次創作。
 何をトチ狂ったか某ネトゲのキャラクターで適当に話を組んでみた。



 鬱蒼とした緑に土のにおい、そして水の音。踏みしめられ固まった土色の道から外れると、さっきまで歩いていた道とは正反対の青々とした草が生い茂っている。黒いブーツの底で踏みつければ、草は柔らかに沈み足跡が点々とついていく。足下からは真新しい草のにおいがした。
 スーツのポケットから飴玉を取り出し口に含む。体に溜まった疲れが甘さに和らいでいくようだ。口の中で転がしながら黒崎は草を踏みつけ先に進む。気付けば周りは薄暗く、夕方が過ぎて夜に近付いていた。夜のナカノは奇妙に茂った草や木で、よりいっそう夜が深い色をしている。薄ぼんやりと見えるのは、ナカノを漂う外道たちだろう。事情を知らない人々が見れば、幽霊だと叫んで逃げることが容易に想像できた。
 だが彼らは幽霊よりよっぽどタチの悪い存在だということを、黒崎は知っている。
 藍色に染まり始めた空を明るく照らしているのは新宿バベルの光だ。多くの人々が集まり暮らす街の中でも一際目立つ建造物が、黒崎の位置からも確かに見えた。それこそ天にまで届きそうな建造物は大体どこにいても見えるのだから、その大きさが知れるというものだ。いざ迷ったらあれに向かって歩いていけば、いつかは新宿バベルに着く。
 スカイブルーの瞳を瞬かせ、黒崎はしばらく立ち尽くした。新宿バベルの光は近いようで遠い。今は何時か確認しようと左腕を上げたところで、そこにあるべき物がないことを思い出し大きなため息をついた。
「……あー」
 何やってんだか、と頭を掻く。奇妙に軽い左腕に、デビルバスターの証であるCOMPはない。悪魔を召喚し使役するデビルバスターとしては致命的な忘れ物だ。それでもなんとか武器は忘れなかったおかげで、全力疾走で悪魔から逃げるという無様なまねは免れている。
 だが、COMPがないのは予想以上に不便だった。悪魔を召喚するだけではない、友人とのコンタクトの取り合いや時間や月齢の確認、地図の表示。大半のデビルバスターはそれらすべてをCOMPに頼っている。それがない今、黒崎はスギナミから、地図も何もなしにひたすら歩き続けているのだ。
 ころり、と口の中で転がした飴を噛み砕き、止めていた歩みを再開した。どんどん暗くなる周囲に、半ば諦めたような気分になる。このまま暗い中を歩くよりも、ナカノにある廃墟で一晩を過ごした方が楽な上に安全な気がしたのだ。少し頑張れば山羊屋も見つかるかもしれない。店主に事情を話して一晩だけ中に入れさせてもらっても良いだろう。
 そう考えながらもやはり一晩、COMPもなしに過ごすのは気が引けた。友人からの連絡もあるだろうし、仲魔の様子も気になる。何より安全なところでゆっくり休みたい。
 ナカノで一晩過ごすことを諦めて、刀を握り直す。歩を早めたその背後で足音と羽音が聞こえ、黒崎は足を止めた。ナカノで人とすれ違うことは少なくない。それは悪魔も同様だ。いつでも刀を振れるように切っ先を持ち上げた背に、女の声がかかった。
「黒崎」
「……綺堂?」
 聞き覚えのある声が名前を呼び、黒崎は安堵の表情を浮かべて振り向いた。
 露出の多い、青いドレスを着た綺堂が銃を手にそこにいた。高く結った黒髪が揺れ、金色の瞳がかすかな光を受けて輝いている。長身の彼女のすぐ後ろには、小柄で青い肌の大天使が翼を揺らして浮かんでいた。
「おまえ、アルカディアにいたんじゃなかったのか」
「いたんだけどね。第三ホームに用事があって」
 まさかここで会うとは思っていなかったのは綺堂も同じだったようで、お互い歩み寄りつつも言葉は少なかった。第三ホームで用事を済ませた彼女は、このまま徒歩でアルカディアまで行くつもりだったらしい。健脚なことだと揶揄すると、騎乗用悪魔を出すのが面倒だし、と肩を竦めて見せた。
「でも、さすがにCOMPなしに移動したりはしないかな」
「悪うございました。自分でもなんでこんなことしたのか分からない」
 元々、黒崎も第三ホームに行かなければならなかったのだ。ところが新宿バベルから一瞬でそちらに行ける転送装置が使えず、騎乗用悪魔に乗るためのインタリオも壊れかけていた。だから歩いて第三ホームまで行き、そこでようやくCOMPを忘れたことに気付いたのだ。
 地図のある綺堂に案内を頼み、彼女の一歩後ろをついていく。同じように後ろに付き従う未熟なウリエルは黒崎をちらりとも見ない。他のデビルバスターがこの悪魔を使っているのは何度か見たことがあるが、まじまじと見たのは初めてだ。銃を好んで使う綺堂が剣を持つウリエルを選んだのは、ある意味バランスの良いことだろう。
 自分の部屋に置いてきたCOMPの中の相棒を思いだし、黒崎は大きくため息をついた。
「帰りてえ……」
 だから帰ってる途中なんでしょ、とよく的を得た綺堂の言葉が返ってきて、それもそうか、と黒崎は無言で頷いた。


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