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 綺麗なものですね、と男は言う。
 白い着物を着たタマズサの髪を一房、シラヌイの手がとった。骨張った男の手は、まだ十歳といくらかを過ぎたくらいのタマズサのそれと比べれば格段に大きい。タマズサはシラヌイの手が好きだ。銀色の毛並みを思い出させる白い手だ。だが女のような弱さはない。彼の男らしい手は暖かい。
 焼けた色合いの尻尾を振る。タマズサは目を細めて彼の手を取った。それに頬を擦り寄せればシラヌイは優しく髪の毛を撫でてくれる。彼の隣で丸まって眠りたいと思ったが、そうすれば着物が乱れてしまうだろう。重く真っ白な着物をまた着る苦労を考えて止めた。

「きれい?」
「ええ、綺麗ですよ」

 お世辞でもなんでもない、彼の心からの言葉だと言うことをタマズサは知っている。彼は滅多に表情を崩さない。冷たい印象を受ける白い面は、しかし慣れたタマズサには怖いものではない。むしろ表情がかすかに揺れる、その小さな変化から彼がどう思っているのか読み取れるくらいには成長した。
 そして成長したタマズサの目は、彼の表情が僅かな悲しみに沈んでいるのを認めた。
 細やかな雨が降る音がする。空からは白い日差しが降り注ぎ、糸のように細い雨が反射する。日照雨だ。シラヌイの手がタマズサの小さな手から逃れて外に伸ばされ、雨を掴むように二、三度開閉する。ふわりと視界の端で揺れたのは、彼の銀色の尻尾だった。雨が気持ち良いのか、同じように銀色の耳も上下した。

「狐の嫁入り、ですね」

 いつもと変わらない調子を装った声は、しかしそうではない。タマズサは自らの体を見下ろした。まだ成熟しきっていない体に纏った白い着物は日差しのように眩しく、同時に忌々しい。
 だからタマズサは彼の手に縋るのだ。降り出した雨が止む頃、きっとタマズサは彼と引き離されてしまうだろう。嫁入りなどしたくはない。だが、それを口に出すことはタマズサには出来ない。既に決められたことはもう覆せないのだ。

「ねえ、シラヌイ」

 こうして甘えることが出来る時間は、もう残り少ない。
 ねえシラヌイ、連れてって。このまま手を握りしめて、どこかに連れ去って。飛び出しそうになった言葉を喉の奥で飲み込んだ。それを言ったら、彼は手を振り払ってしまうような気がしたのだ。飲み込んだ言葉が喉に突っかかって何も出てこない。呼びかけた言葉は宙に消える。
 それ以上言おうとしないタマズサの髪の毛を、シラヌイは撫で続ける。

「……タマズサさん」
「……うん」
「あなたは、とても綺麗です」

 男の手が髪を辿り、焦がした砂糖のような耳に触れた。壊れ物に触れるような手つきに悲しくなる。目の奥が熱かった。両手で彼の空いた手を包み込み、一層強く握りしめる。
 雨が去る気配が近付いている。日照雨が止めば、タマズサは嫁入りをする。

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