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 イサナは変わった男だ。夜街を歩き回り見張る宵待衆の彼は、ほかの宵待衆よりも外に行く機会が多い。別に誰も、夜街すらもそれを止めないので、きっと許されていることなのだろう。三日に一度は必ず門をくぐり山道を行き、鳥居をくぐって外に出る。時々私を抱いて、だ。
 イサナはチョコレートが好きだ。一日一枚、多いときだと五枚、板の形状をしたそれを貪り食う。ぱきんぱきん、と鋭い歯で折って、無表情に飲み込む。なぜ板チョコばっかりなのかというと、それが一番効率がよいからだという。ゴミも最小限で済むし、味も無難なのだと言っていた。彼が外に頻繁に行くのは、このチョコレートが欲しいからだというのも理由の一つだ。
 宵待衆の詰め所の屋根に乗り、のんびりあくびをしていると、黒い布で顔を覆ったイサナが私を呼んだ。見回りが終わったのだ。入れ違いにトオツが詰め所から出て、イサナと見回りを交代する。イサナよりも一回り大きな体はするりと街の中に消えていった。
 詰め所に入るイサナを追って、私は屋根から降りて彼の足にすり寄った。ごろごろと喉を鳴らすと、彼の手が私を抱き上げる。チョコレートの匂いが染み着いた手だ。甘い匂いは、私は決して食べないけれど嫌いじゃない。ごろごろ、ごろごろ。
 詰め所には今はイサナしかいない。夜街の見回りだけではない、夜街に続く入り口の見張りもしなければならないからだ。たぶん、もう少ししたら別の見回りが帰ってくる。そうしたらイサナはまた行くのだろう。彼は私を抱いたままチョコレートを取り出し、黒い布をつけたまま食べ始めた。小気味の良い音を立ててチョコレートが割れる。甘い匂いがする。
 軽い足音がしたのは、彼が今日の分の板チョコを残り四分の一まで減らした時だった。
 私はイサナの腕を蹴って降り、入り口まで近づく。イサナが首を傾げながら後ろをついてきた。足音は躊躇いがちに近づいてくる。目を凝らすと、詰め所に向かって子供がぼんやり歩いてきていた。
 にゃあ、と私はイサナに向かって鳴いた。あの子供、どうするの?
 気付いたイサナはチョコレートを仕舞い込むと、慎重に足を踏み出した。


 ワンピースを着た子供は茫洋とした目でふらふらと歩いていた。詰め所から出てきたイサナに気付いた様子もなく、惰性のように足を踏み出しては地面を蹴り、踏み出しては蹴る。裸足だった。
 イサナは無言で子供の肩をつかんだ。子供は何も反応しない。動きを止めようともしない。イサナが強く揺さぶる。どことも知れないどこかを見ていた子供の目が緩やかに瞬いた。
「もしもし?」
 耳元で声をかけると、また瞬きをした。ぱちぱち。ぱちぱち。私はにゃあと鳴く。子供の目が私を見た。
「……ねこ」
 そうですよ、私は猫ですよ。イサナが身を引いた。子供は夢から覚めたように顔を上げ、おそるおそる周りを見渡した。乾いた髪が頭を振るたびに揺れる。不安げな顔をした子供は小さな手でワンピースの裾をつかみ、目を潤ませた。
「ここ、どこ」
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