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女・二十代、カフェ店員、純情
男・三十代、サラリーマン、純情


 君からはコーヒーの香りがする、と言われた。
 白いシャツも黒いスラックスもカフェの香りが移り、まるで香水のように体にまとわりつく。それを隠すように羽織ったコートに彼は鼻を近づけ、すんすんと香りを嗅いでいた。子供じみた動作に小さく笑うと、男の綺麗な目と合った。

「なに?」
「子供みたいだなって」
「随分と大きな子供だ」

 横を駆けていったのは二人の子供だった。閉園が近づき始めた遊園地の、明るいライトが子供の背中を照らしていた。それを目で追うと、子供達は親らしき人影に突進していた。
 男と二人並んで歩く。めまいを起こしそうなほどきらきら輝くメリーゴーランドを通り過ぎ、目指すのは観覧車だ。仕事の後、ただ二人で歩くことすら幸福な気分になるのは浮かれ過ぎだろうか。ふと横の男に視線を向けると、彼からコーヒーの香りが漂った気がした。

「あなたからも」
「うん?」
「あなたからも、コーヒーのにおい」

 それをとらえたのは勘違いだったのだろうか。今度はスーツの袖を鼻に近づけ、男は首を傾げた。やはり子供のような動作だった。だが笑う顔は子供ではない。からかうように唇の端を持ち上げ、彼は囁く。

「君の匂いが移ったのかもしれない」

 一瞬で頬が熱くなったのが分かって顔を背けると、男が声に出さず笑う気配がした。勢いよく顔を背けたせいか、自分の髪の毛からコーヒーの香りが微かに漂った気がした。

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