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加藤瑞樹の書く小説のお題は、『お花見』『美少女』『虚構世界』です。




 軽い音がして見上げれば、伸びた手が桜の枝を折り取っていた。その拍子に花びらがひとひら、音もなく落ちる。
 桜を折り取ったのは男の手だった。だが手の持ち主へ視線を動かした時には、そこにいるのは男ではなく、美しい容貌を持った少女へと変わっていた。目の前の朔をイメージしたのか、まったく同じ制服に、同じほどの身長に、同じほどの年齢の少女は、しかし、無表情に立っている。ある種まがまがしい気配を感じるのは間違いではない。
「……もったいない」
「何が?」
「桜」
「折ったのが?」
「どうして折ったの」
「なんとなく」
 かわいらしい声は平坦だった。姿と中身の差がひどく不愉快で、朔は静かに眉をひそめて抗議を表した。それを目の前にしても変わらないのがこの、美少女の姿をした「何か」だった。
「折るな、とは言われていない」
「そりゃ、言ってないけど。不文律みたいなもんだよ」
「不文律?」
 そこで初めて、美少女は表情を変えた。可憐な顔立ちに、鬱蒼とした笑みを浮かべて。
「まさかこんなところで、そんな物を持ち出すとは」
 こんなところ、と言われ、朔は周囲をぐるりと見渡した。傍に立った大きな桜の木が一本、そのほかは何もない。あとはただひたすら暗く、広い。
 そういえばそうだった、と朔はやはり無言のまま眉をひそめた。それを愉快気に、美少女は笑う。
「そういうことだ。気分はどうだ、朔」
「どうもこうも。とても不愉快」
「俺は愉快だ」
「黙ってろ悪魔」
「ばかだなあ、お前も」
 ぼう、と音を立てて枝が燃える。少女に手折られた桜の枝はあっという間に火に包まれ周囲を照らした。燃えた花びらがやはり、音もなく散った。
 朔はちらりと美少女を見やり、桜に背を向けた。
「その格好。似合わないからやめたら?」
「そうか」
 次に聞こえた声は可憐な響きのそれではなく、
「なら、そうしよう」
 低く、平坦な、男の声だった。
 目を閉じれば周囲の闇よりさらに深い、まぶたの裏の闇が迫ってくる。一本だけ咲いた桜が崩れる音がした。さして見もしなかった桜の木をもっと鑑賞しておけばよかった、と今更のように思う。
 季節外れの花見は終わり、一歩踏み外した世界は次の瞬間には終わっている。


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