焼きたてのパンを目の前に、指先でそれを千切った。熱く硬い表面が裂け、中の生地がふわりと白い湯気と芳香をあげる。皿に盛った赤いストロベリージャムを掬い口に放り込めば、酸味と甘みとパンの香ばしい香りが口いっぱいに広がった。ゆっくりとパンの欠片を噛みしめ、飲み込む。
「パンはイエス・キリストの体らしいぞ」
棒読みめいた言い方で、向かいの席から声がかかる。千切る手を一瞬止めたが、気にせずまた再開した。
「命の象徴らしい。それを食べる気分はどうだ」
目の前の男の顔は見なかった。声の調子は平坦だったがどんな表情をしているのか容易に想像できた。それに抗うように表情を殺し、食事を続ける。
視界の隅に映ったのは、一切手のつけられていない朝食一セットだった。冷めていく焼きたてのパンも、スクランブルエッグも、新鮮な野菜も、男は一切、口にしようとしない。
心の中で笑う。それを食べる気分はどうだと聞く、アンタはいったいどうなのか。命の象徴であるものは湯気を立て食欲を誘う。それらすべてを切り捨てる、目の前の男は。
気づけば、千切るパンはなくなっていた。
「パンはイエス・キリストの体らしいぞ」
棒読みめいた言い方で、向かいの席から声がかかる。千切る手を一瞬止めたが、気にせずまた再開した。
「命の象徴らしい。それを食べる気分はどうだ」
目の前の男の顔は見なかった。声の調子は平坦だったがどんな表情をしているのか容易に想像できた。それに抗うように表情を殺し、食事を続ける。
視界の隅に映ったのは、一切手のつけられていない朝食一セットだった。冷めていく焼きたてのパンも、スクランブルエッグも、新鮮な野菜も、男は一切、口にしようとしない。
心の中で笑う。それを食べる気分はどうだと聞く、アンタはいったいどうなのか。命の象徴であるものは湯気を立て食欲を誘う。それらすべてを切り捨てる、目の前の男は。
気づけば、千切るパンはなくなっていた。
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