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Bernadette
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 ジーンズのホットパンツに灰色のニーハイソックスと、鮮やかなコバルトブルーのパンプスが、妙に目に焼き付いて離れない。ホットパンツとソックスの間から覗く肌は艶めかしくも白く、触れれば柔らかいだろうことは容易に想像出来た。ニーハイソックスに包まれた足は芸術品のように見事な造形をしている。
 ぷらぷらと爪先で揺れるパンプスが、音を立てて落ちた。
「ナギー」
「ご自分でどうぞ」
 なにせ、私は自分のことで手一杯なので。美脚の主は不満げな声を上げたが、私は知らない振りを通した。さっきまでその足に見とれていたヤツがなんてことを言ってるんだと思わなくもないが、しかし現段階で私の本来の目的は、明日提出するレポートを書き上げることだ。なので、私はそのまま開いたノートパソコンの画面に向き合った。
 画面の向こう側に座った世御坂は、やはり不満げな顔をしていたが、結局は自分でパンプスを取り上げた。そして流れるような動作でそれを身につけ、足首のストラップをきちんと留める。あるべきところに収まったことを誇るように、コバルトブルーエナメルは艶やかに光を反射した。
「ナギ、まだー」
「まだまだです。なんなら、先に帰っても」
「待つよ。ここまできたんだし。どうせ暇だし」
 そう言って世御坂はテーブルの上で頬杖をつき、じっと那岐を見つめる。さらり、と長い黒髪が額から滑り、テーブルに軽い音を立てて落ちた。退屈そうに小さく頬をふくらませているが、美人はどんな表情をしても美人らしい。しかし那岐は、す、と視線を逸らして食堂の外を向いた。
 世御坂が笑う。
「さっさとでかせよ。それで、買い物行こうぜ」
「でも、あと一時間くらいかかりますよ」
「三十分」
「一時間」
「三十分」
「……五十分」
「三十五分」
「無茶言わないで下さい」
 半ば呆れて溜息をつけば、世御坂は頬杖を止めて腕を組んだ。
「買い物買い物。俺、そろそろ冬物欲しい」
「はあ」
「というかナギ、どうせならマフラー編めよ。出来るだろ」
「出来ますけどね。出来るんですけどね編み物くらい」
「そんな卑屈になるなよ。良いだろ、別に男が手芸好きだって」
「……そうですね、貴方に言われると、大した問題ではないようにも思えます」
「だろう」
 そう言って、世御坂は真っ平らな胸を誇らしげ張る。あっさりとした色のブラウスを押し上げる胸は世御坂にはない。それも当然のことだ、そもそも世御坂は女ではないのだから。
 性別を差し引いても人の目を引く外見美女は、退屈そうな表情のまま那岐に詰め寄った。
「だからさっさと課題終わらせろ」
「一時間でなんとかしますよ」
「三十分だ」
「三十五分って言ったじゃないですか」
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いろいろな設定を流用する

世御坂
・女装男子。身長は165cmくらい。ハイヒールを履いてもぎりぎり大丈夫。美脚。
・女装していようがなんだろうが口調は男そのもの。一人称は「俺」、二人称は「お前」。動作は綺麗で粗野ではないので、声が低くて口調が男らしい女性と見られないこともない。
・髪は長く伸ばしている。男物も着ると言えば着るが、普段は女物で生活している。小学校くらいからずっと女装しているが、別に女性になりたいわけではなく、好きだから着ている程度。似合っているし、本人も女顔なので特に違和感がないから問題ないだろう、といったところ。


那岐
・イケメン。長身かつそれなりに筋肉のついたモデル体型。
・だというのに根暗。気付けば部屋の隅っこにいる。自分のアパートから出たくない。人と目を合わせたくない。何も喋らず話しかけられず静かに空気の如くそこにいたい。イケメンだから女の子によく狙われるけどノーサンキュー。
・いっそ紙袋やポリバケツを被っていたいと思っているが、さすがに自重している。
・料理や手芸が趣味。部屋には手作りクッションやコースターやランチョンマットがある。ぬいぐるみも作る。
・昔から手芸が趣味だったおかげで人にいじられ、それから根暗になった。今でも人に自分の趣味を伝えることが苦手。
・運動神経は悪くない。むしろ良い方。頭も良く、顔も良いうえに手先が器用という恵まれっぷりだが、本人の性格で全てプラマイゼロ。
・初恋は世御坂だった。
Ib「忘れられた肖像ED」後の小話



 からころ、から、ころ。口の中をキャンディが転がる。転がる。転がる。そして、かみ砕く。飴の破片が口の中を突き刺さる。鼻が痛いのはきっと、レモンの味が酸っぱすぎるだけなのだ。
 から、ころ。から。半分になった飴玉が、鋭利な断面で口の中を削る。痛いのかもしれない。目が熱い。泣き出す瞬間のそれに、よく似ていた。
「……ギャリー」
 目の前で、うつむき座り込む青年はぴくりとも動かない。
「ギャリー」
 返事はない。
 レモンキャンディを強く、強くかみ砕く。
 がりっ。


「美術館、楽しかった?」
 手を引く母が、振り返りつつイヴに問う。ほんの少しの間を置いて、イヴは小さく頷いた。いまだ美術館の穏やかな静寂が耳の中に残っていて、声を発することも大きく動くことも躊躇われたのだ。
 そう、と母親は微笑んだ。笑みには安堵も含んでいたのかもしれない。まだ九歳のイヴが美術館を楽しめるか心配していたのだろう。イヴは小さな声で、楽しかった、と呟いた。反対側を歩く父親もまた、満足げな顔をした。
「じゃあせっかくだし、どこか喫茶店にでも寄りましょう」
「そうしようか。歩いていたら喉が渇いたし」
 母親の提案に父親も同意する。間に挟まったイヴは無言でもう一度頷いた。そして手を引かれるままに両親についていく。きっとこのまま彼ら行きつけの喫茶店へ向かうのだろう。コーヒーの香りが漂う空間を想像して、唐突に甘いお菓子が食べたくなった。
 洋菓子店の前を通り過ぎる。なんとはなしにショーウインドウに目をやれば、カラフルなお菓子が可愛らしく飾られていた。
「イヴ?」
 足の運びがわずかに鈍り、それを母が訝しむ。なんでもないと首を横に振り、イヴは目に飛び込んできたお菓子達を振り切った。それらは視界から消え去ると、あっという間に色褪せ何でもない記憶に分類される。最初から無かった物のように、見てはいけなかった物のように、色鮮やかなお菓子はイヴの頭の中で封印される。
 口の中が妙に乾いていた。そして、甘い風味がした。美術館に来る前に、甘い物を食べた覚えはない。そして、美術館にいるときも、美術館を出た後も。
 舌で歯の裏を、口の中を、撫でるように確かめる。まだ小さな歯にくっつているのは何か食べた跡のそれなのか。まるで飴玉をかみ砕いた跡のようだ、と一人思う。飴を食べた記憶など、ここ数時間は無いというのに。
「お、良かった、開いてるみたいだ」
 父親の嬉しそうな声に現実に引き戻される。気付けば喫茶店は目の前にあった。
 口の中がひどく甘い。娘の奇妙な違和感を知らない両親は、いつものように笑っていた。
「さ、何を飲もうか、イヴ」
 ドアを開ける。ベルが鳴る。店員の声がする。コーヒーとクリームの匂い、そして人の気配。頭の中をよぎったのは、洋菓子店のショーウインドウだった。あのお菓子の名前はなんだったのか、イヴは知らない。ただ、何かを飲みたかった。冷たい水でも、酸っぱく甘いオレンジジュースでも、飲んだことのないコーヒーでも、とにかく何かを飲んで胃の中に流し込んでしまいたい。口の中のこのレモンに似た風味が消え去るなら、もうなんでも良い気がした。
 ただ、一刻も早く忘れたいのだ。


 がりり、と、砕いた飴の破片は突き刺さり、痛い痛いと泣き叫ぶ。
 あるいは、泣き叫んでいるのはイヴの、心だったのかもしれなかった。
エーヤ
・魔女であり便利屋。
・中性的な容貌。長身、チョコレートブラウンの長髪をハーフアップ、藤色の瞳。「私」「あんた」「君」「~だろ」「~だな」と男口調。
・動きやすさ重視の服。便利屋なので、いろんなところを走り回る。
・どこに行くにしてもヴィヴィアンを連れて行く。人形師からタダでもらってしまった人形だが、そろそろ愛着が湧いてきたらしい。
・基本的には一人で行動する。魔女のコミュニティに所属したりはしているが、あまり関わりたがらない。
・まほうつかいとは旧知の仲。一応まほうつかいを捕まえるように依頼は来ていたりするが、友人なのでさすがに断っている。


ヴィヴィアン
・とある人形師によって作られた自動人形。うなじにぜんまいを挿す穴がある。
・ミルクティー色の髪の毛にエメラルドの目。100cmくらい。服装は、関節が見えないように長袖に靴下など。「僕」「君」「~でしょ」「~じゃない」一応女子型。
・人形師が作ったシリーズ七体のうち一体。人形師の作品の中でも特に癖が強いシリーズだが、それが逆に人気で好事家達が揃って手に入れたがる。
・基本的におとなしいが嫉妬深く、クールな素振りをしつつも持ち主のエーヤが大好き。
Ib「再会の約束」ED後の小話。


 ピンクや黄色、ミントグリーンの、ころころとしたお菓子が透明なセロファンに包まれている。それが更に柔らかな不織布の袋に詰められ、口には青いリボンが結ばれていた。袋自体はとても軽い。お菓子そのものが軽いからだ。そしてそれはイヴの手のひらより少しばかり大きいが、両手で包み込める程度には小さいプレゼントだった。
 ハンバーガーのような形、と彼が言ったとおり、そのお菓子はメレンゲや砂糖を混ぜた生地の間にクリームやジャムを挟んでいるという。味見に一つ食べたが、さくさくと軽い感触とほのかな甘みが舌に広がるお菓子だった。マカロンという名前そのものも、まるで口の中をふわふわと転がるような不思議な響きだとイブは思う。そして、彼によく似合っている、とも思った。
 触れ合いカサカサと音を立てるマカロン達を、大事な宝物のように抱きしめる。抱きしめてから、自分の体温で悪くなってしまわないだろうかと気付いて慌てて体から離した。その拍子にリボンの形が少し崩れているのにも気付き、一人マカロンの袋を手に固まる。せっかくプレゼントにと用意したお菓子もその飾りも、ぼろぼろになっては意味がない。よれたリボンを結び直そうと思ったが、母親に教えてもらった蝶々結びは未だに一人では上手く結べない。仕方なく指先でリボンの形を整えるにとどめた。光沢のある青いリボンは誇らしげに、マカロンが詰まった袋を飾っている。
 普段から赤い物を身につけているせいか、青いリボンはそれだけでどこか違和感を抱かせた。それでもこのマカロンを包むリボンは青色だと、最初から決めていたのだ。

「イヴ!」

 あの奇妙な美術館から二人、一緒に手を繋いで抜け出した。空いた手に握られた花の色は現実には存在しない、鮮やかな青色だった。
 だからイヴにとって、彼の色は青色なのだ。
 名前を呼ばれ左右に視線を巡らせる。彼の姿はすぐに見つかった。ゲルテナの作品に囲まれた中、きっと一緒にいた時間は長くなかっただろう。だが、彼の姿はイヴの記憶の中に、今も鮮明に残っている。コートに包まれた細い体を認めた瞬間、イヴはマカロンを抱えたまま大きく手を振った。

「ギャリー!」

 そういえば、こんなに大きな声で彼の名を呼ぶのは初めてかもしれなかった。ボロボロのコートとひょろりとした長身の青年が笑う。美術館で別れた時と同じ、朗らかな笑みでもう一度、彼は少女の名前を呼ぶのだ。

「久しぶり、イヴ!」
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