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Bernadette
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 君はきっと彼を憎むだろう。だが同時に慕いもする。なぜなら君は人間だからだ。複雑で矛盾した感情を持つことを許されている。
 くるくるまわる環状線の中で君と彼は出会った。出会って七日目で君と彼は別れた。七日間は君の中に何を残したのだろうか。過去は君の中で生き続け、そうして明日は墓の中で眠る。
 僕が君のことを語るのはまったくもって烏滸がましいことではあるけれど。しかしながら僕以外に君と彼を見つめる人達など居なかったのだから、許して欲しい。語り手として最上ではないけれど、最低でもないはずだ。
 だから僕は最初からゆっくりと語っていこう。これは誰もいない環状線に乗った君と彼、二人が出会った月曜日から始まる。


・ソロモン・グランディーの七日間
・昼間だけど誰もいない電車の中
・澄み渡る青空
・月面へご招待!

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 あなたはずっと少女のままでいてね。母の言葉が頭の中で響く。
 まるで呪いのようにわたしの頭に、耳に、体に染みついた言葉は鎖となって、この手を縛り付けてくる。わたしはそれを振り切って穴を掘る。さして広くもない庭に、深い深い穴を掘る。小さな玩具みたいなスコップは軽いはずなのに重い。鮮やかに芽吹き始めた草を踏みにじり、指先で残酷にむしり、少しずつ土を削り、削られた土は山となって積もっていく。
 あなたはずっと少女のままでいてね。スコップで地面を穿つたびに母の声はわたしの中で再生されて、そのたびに鎖の締め付けが酷くなる。体が上手く動かない。半開きの唇から涎がつう、と落ちて土に丸く模様を描いた。糸を引いたそれは落ちきると、ぷつんと音も立てずに途切れた。湿った唇は冷えた外気に晒され、生温さを奪われていく。
 決して寒いくはない。日々落ちるのが遅くなる太陽は今、わたしのちょうど頭の上で輝き眩しい金色を地面に放つ。遠いアスファルトが陽炎をたちのぼらせ、道端のつぼみは今か今かと花咲く時を待っている。春がやってくるのだ。寒い冬が終わり新しい季節に移り変わろうとしている。
 だというのにわたしの手はみっともなく震え、白く晒された手首は泥にまみれて見る影もない。伸びた爪に土が挟まり、指先が窮屈だった。
 それでもわたしは無言で穴を掘る。埋めるために。埋めた物がもう二度と日の目を見ることがないように。深く深く穴を掘る。穴の底にいくつもの思い出を埋め、その上に土をかけて葬るのだ。
 振り向けば、土の山に隠れるようにわたしの思い出達が転がっている。青いリボン。赤い髪留め。甘い香りのする消しゴム。カラフルなサインペン。きらきらしたネックレス。さして高くもない指輪。わたしの過去が、少女だったわたしが、そこに転がっている。
 あなたはずっと少女のままでいてね。
 あるいは母の言葉はただの願いだったのかもしれない。腹を痛めて生んだ子供がどうか純粋に育ちますように、という母親らしいエゴだったのかもしれない。わたしの目を見つめる母はいつも、きれいな目だとほめてくれた。美しく澄んだ瞳が淀まぬよう、拙い祈りをこめた願いだったのかもしれない。
 だが母の言葉は毒のように私の体を蝕んでいく。吐き気がした。もうとっくの昔に収まったはずの吐き気は母の声に同じように響いて、わたしの体を腹からだんだんと浸食していく。頭を振れば、日光に照らされ熱を持った髪が乾いた音をたてた。くらくらした。陽炎がゆらゆら揺れているように、頭の中も揺れている。きっと今のわたしの瞳は暗く沈んだ色を宿していることだろう。
「……ふ、う、うぅ」
 また涎が垂れたと思ったが、それは口からではなく目から落ちたものだった。泣いているのだと気付くのに少し時間がかかった。不明瞭な呻き声は低くひび割れ、まるで老婆のようだ。
 土を掴んだ左手の薬指が光る。銀色の光はとがめるようにわたしの目を突き刺す。わたしは少女のままではいられなかった。少女でいるにはあまりにも多くのことを知りすぎたのだ。腹が痛む。吐き気がする。体が重い。人に愛される喜びはわたしの腹にもう一つの命を宿した。それがひどく痛み、わたしの体を圧迫する。腕に絡みついた鎖が腹にまで伸びてしまったように体がうまく動いてくれない。それでも必死に子供じみたスコップを動かし、地面を削っていく。
(あなたはしょうじょのままで)
 壊れたレコードが同じことを繰り返し続け、だんだん狂っていく。もうやめて、と耳を塞ぎたかったのに、わたしの手は穴を掘るだけしか出来なくなっていた。みっともない泣き声をあげながら、わたしは声を振り払おうと必死で目の前に視線を落とす。
 そうして掘り終えた穴は、底なし沼のように黒く濁っていた。



 愚かなわたしは盲目にも信じているのだ。すべてを埋めてしまえばきっとわたしは楽になれると。
 腹の中で子供が泣いている。早く生まれたい。早く日の光を浴びたい。早く温かな腕に抱かれたい。愛されたい。必死でわたしの腹を蹴り、もがき、生きようとしている。この子供は、大人になってしまった証明なのだとわたしは思う。
 ごめんなさい、お母さん。わたしは悪い子です。あなたが望んだ通り、少女のままでいられませんでした。
 それでもきっと、わたしもまた母のように自分の子に願うのだろう。母が私に望んだように、どうか純粋な少女のままでいてくれますように、と。何もかも埋めてしまっても、掘り起こすことなく呪いは次へ次へと繋がっていく。少女であることは永遠ではないのに、呪いは永遠なのだ。
「もういいんだ」
 震えた体を抱きしめ、彼はもう一度繰り返す。その腕は暖かで、冷えた体をじわりじわりと侵していく。それが今は、ひどく恐ろしいことのように思えた。けれどそれとは正反対にわたしはぬくもりを貪るように泥だらけの手で縋る。ぽたり、落ちたのはわたしの涙だった。未だ埋まりきらない少女だったわたしは、涙でぼやけた視界の中で白く輝いていた。

世御坂カイエ(よみさか―)
・男でも女でもない。見る人によって印象は違う。カイエの姉は妹と呼び、久霧は女と言い、シズルは男だと思い、飼い犬は主は主だと性別を気にしない。
・一人称が「自分」。基本的に敬語は使わない。そもそもそんな偉い人に会いに行かない。25~28歳くらい。
・仏頂面。辛辣そうに見えて意外と面倒見は良い、というより子供には優しい。でも中身は善人ではない。口が悪い。
・身長は160~165cm、痩せ型、不健康な意味で色白、長い黒髪、白いシャツ、黒いスラックス。上に女物の羽織やショール、寒い日はカーディガンに更に手袋、外出時に外套、マフラーは必須。男物が基本だが、小物は女物にすることが多い。なので手袋や髪飾り、ペーパーナイフ、手鏡、櫛といった物は女物。
・姉によくしつけられたおかげで洋裁、和裁、花道、茶道といった礼儀作法やいわゆる女性らしいことには慣れている。そして姉の死後、その私物を全て預かったおかげで部屋の中は大変女らしい。時々姉の遺品を眺めたり、姉の服を着たりしている。その内いくらかはシズルに譲ろうかと思っている。
・料理が得意で美食家だが、いかんせん食が細い。トウギミは味が分からないしシズルも小食だし、作り甲斐がないのが残念なところ。
・トウギミは犬だなんだと言っているが、なんだかんだ頼れる相棒だし自分を信用、かつ慕ってくれているので悪い気はしない。シズルは子供なので保護すべき対象だし、自分のことを慕ってくれているのが分かるのでやっぱり悪い気はしない。久霧は好きじゃないけど姉を愛してくれているのは分かるし家のしがらみがあるので、知人程度に収めておきたい。


東海野シズル(東海野シズル)
・少女。詳しくは決めていないが目になんらかの問題がある。千里眼か、人の寿命、真名が見えるか。
・「わたし」。基本的に名前+さん付け。おとなしい性格だがしたたか。親に捨てられたことを恨んでいないわけではないが、後々ざまあみろとか言い出すかもしれない。
・転校先では上手くやっている。基本装備は黒セーラー+革靴+革鞄。
・150~155cm。カイエより身長は低い。小食だが体型に関しては将来有望。実はクォーター(あるいはハーフ)なので髪の色が明るく、ふわふわしている。扱いづらいので三つ編みにすることが多く、他の人と違う髪の毛がコンプレックス。それと分からないくらいに目の色も違うかもしれない。人種的な意味で色白。
・親に捨てられた、ということはあるが、それを気にしたくない。故に親が居ないことをわざわざ取り上げる必要もないとするカイエやトウギミを慕っている。特に学費や小遣いまで出してまともな生活をさせてくれるカイエには親に向けるそれに似た愛情を持っている。男性だとは思っているが、異性と捉えるにはいろいろ特殊すぎる。トウギミは異性だときちんと思っているので、着替えやら何やらを見られたら叩きのめす。が、今までそんな事件が起きたことはない。カイエは父親、トウギミは兄、と言った感覚。


トウギミ
・男。カイエと同じくらいか、上か、下か。とりあえず20代。
・「私」。カイエは「主」、他は基本的に名前+さん付けか様付け。ただし久霧のみ名前で呼ばない。大嫌いだから。それ以外の人に対しては落ち着いた口調で、丁寧に話す。
・カイエに犬扱いされているが立派な人間にして半分人外。味覚障害があり、基本的に人の食べ物を食べても味を感じない。極端に辛い、甘い、酸っぱいじゃないと分からない。なのでコーヒー紅茶は飽和状態になるまで砂糖を入れ、更にミルクを入れる。あまり人の物を食べたがらないが食べないと上記二人に無理矢理食べさせられる特典付き。
・目が見えすぎて、この世の物とそうでない物との区別が付かない。見えないはずの物、見えてはいけない物が見える。包帯で目を覆っているが、きちんと見えている。包帯はただのフェイクであり精神安定。
・唯一味が分かるのが「あちら側の物」を食べた時だけ。とんでもない悪食家。呪いや幽霊やそういう類の物でなければ味を感じることが出来ない。だが本人にはどれがあちら側の物なのか分からない。ので、カイエがそれの判別をしている。カイエ無しでは普通に生きていく事すらままならない。
・180cm前後。一番背が高い。きちんと鍛えているので脱ぐとそれなりにすごい。白シャツ、黒スラックス、時々ベストやジャケット。両目は包帯。髪の毛は黒で、癖がないショートカットでちょっと長い。前髪が目にかかる、襟足が首にかかる程度。美形。包帯を外すと愁いを含んだ目をしたとんでもない美形だけど中身は味覚がおかしくて悪食家でやばい目を持っててしかも刀振り回すだけの危険人物。ある意味バランスが取れた残念なイケメン。
・上記の通りカイエには頭が上がらないし、自分の半身と言って良いほど重要な人。シズルは「シズル様」と呼んではいるが、実際は妹感覚。困ったことがあれば力になりたい。彼氏を連れてきたら「お父さんは許しませんよ!」と言う係。久霧は自分の大切な人を勘違いしてるし妻扱いするしで嫌いという感覚を通り越して殺意しか抱けない。いつかその首を切り落としたいと本気で考えている。


久霧(くぎり)
・男。三十代。正統派イケメン。三つ揃いのスーツがよく似合う。トウギミが憂い系イケメンで、こっちが優しい系イケメン。久霧は名家で、その跡継ぎ。軍人でかなり上部の人。さすが名家出身、動作がいちいち優雅。
・カイエの姉(アヤメ)の夫だった。ただしアヤメを愛するあまり彼女の死後、きょうだいだったカイエをアヤメと思い込んでしまったある種の狂人。面倒なのはカイエ=アヤメなのではなく、カイエ=アヤメでありカイエである、というあり得ない公式が彼の頭の中で成り立ってしまっている点。なのでいきなりカイエと呼んだりアヤメと呼んだり忙しい。
・ただしそれはカイエに対してだけなので、それを知らない周りから見ればスペックの高いイケメン。軍でも人望が厚いらしい。
・軍の中ではあちら側のことや怪奇が絡む仕事を主に担当。ただし軍は軍なので、絶対何とか出来る訳では無い。なのでどうしても無理な場合はカイエに持ってくる。そうするとカイエがなんとかして悪い物はトウギミが食べてくれる。つまり久霧はトウギミに助けられ、トウギミは久霧に餌付けされているのだが、二人はまだこのことに気付いていない。
・上記のことからカイエに対してとんでもない執着心を持っている。それがトウギミには気に食わない。そして自分の妻であるアヤメでそのきょうだいのカイエにまとわりつくトウギミが久霧には許せない。よって二人は仲が悪い。
・170~175cm。お偉方とはいえ一応軍人なので、見た目はしっかりとしている。今で言う運動部系のイケメンか。ただし最近はデスクワークなので、意外と体力がないかもしれない。いつでもきっちりしているので、髪はオールバックか。軍服や三つ揃いのスーツ。ただし頭の中身は三分の一くらい奥さんのことで埋まっているので三分の一狂人の残念なイケメンその2。

「事情は聞いているがねお嬢さん。改めて名乗ってくれないか」
 長い黒髪を揺らしたその人は、白いシャツに黒いスラックス姿で椅子に深く腰掛けていた。
 奇妙な人だった。白いシャツも黒いスラックスも男物だが、肩にかけたショールは女物のそれだ。温かな桜色をしたショールは白と黒のみで構成されたその人の、唯一の色のようだった。
 だが、とシズルは思う。黒と白で構成されたその人はきっと灰色なのだろう。男とも女ともつかない顔立ちと体の作り、そして低くも高くもない声は、正しい判別が出来そうもない。二十は過ぎたであろう大人の痩せた手首は白く、病人のようだった。
 無言のシズルをどう受け取ったか、目の前のその人は微かに唇の端を歪めた。同じように黒い目がシズルを見る。
「とは言ったが、こっちが名乗らんのも失礼か。……自分は世御坂カイエという。ヨミサカでもカイエでも、どちらでも好きな方で呼んでくれ」
 手にした荷物がいつの間にか無くなっていることに気付いた。慌てて手元を見たが、足下に置いていた鞄すらそこにはない。愕然としたシズルの正面で、カイエは微かな笑い声を上げた。
「気にすることはないよお嬢さん。お嬢さんの手には少々重そうだったんでね、うちの犬が君の部屋に持って行っただけさ」
「犬? 犬なんてどこにも」
「後で紹介しよう。少しばかり凶暴だが、何、取って食ったりはしないさ。安心してくれ」
 ひどく不穏な言葉が聞こえた気がして、シズルは自分の体が固まるのを自覚した。同時に、ここにやってきたことを深く後悔した。だが振り返ってもシズルを連れてきた家の使用人の姿は既に無く、帰り道は分からない。
 入り口の上につけられた窓から夕日が射し込んできた。
「さて、お嬢さん。お名前を聞こうじゃないか」
 まるで悪魔か何かのように、世御坂カイエは言う。
「……東海野シズルです」
 そして目の前の悪魔に、シズルは自分の名前を告げた。
・高校生とか?
・雷が怖い人
・大雨なのに迷子になって、しかも傘を持っていない人
・なあ、入れてくれないか
・見知らぬ人だというのに、何故か傘を貸してあげようと思った
・ひとりは寂しいだろう
・そうか、お前が言うなら、そうなんだろうな

・さて、俺は帰らなきゃならない
・お願いがあるんだ、ずっと見ていてくれないか、俺が戻るまで
・そう言って彼は、
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