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Bernadette
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CD
 あとは簡単だった。
 その足でCDショップに走った。ポップスで埋め尽くされた棚には目もくれず、インディーズの中を探した。たった一枚、置かれたそのCDは去年出たアルバムらしかった。ためらいなくそれを買った。
 帰り道、ずっと頭の中であのギターのフレーズが唸っていた。




・ひきこもりに見えて実はバンドをやっている人
・それを見ている人
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 やりきれない気分だった。
 かちかちと音をたててライターに火をともす。口に銜えた煙草に火を近づけ、炙る。
「炙るだけじゃダメだぜ」
 ハンドルを握る男が言う。
「それだと不味くなるんだ。……火ィつけて、そう、息を吸う」
 喉を突く煙の感触と、舌を刺激する甘い香り。吸ったのは一瞬で、すぐに口から離して咳き込んだ。
「それで、初めての煙草はどうだ?」
 からかうでもなく、運転席の男は問う。
「最悪だな」
 まとわりつく潮風と、汗で湿った肌が焼ける感覚。足を進めるたびに潮騒が近づいてくる。鳥の鳴く声が頭上を過ぎ去った。それを追うように視線を移すと、青空と海が見えた。
 白い砂浜が道のように伸びた先に、緑が茂る小さな島が見えた。満潮が近づいているせいか、道のような砂浜が今は更に細い。
 履いていたスニーカーを両手に持って白い砂に足をのせる。熱い砂に足が埋まる。歩を進めなければ、熱された砂で足が焼けてしまうような気がした。そしてそれは錯覚ではない。白のような金のような日差しに目を細めながら、島へと一歩一歩進んでいく。
 その島には名前が付けられているのだが、あいにくテルは知らない。途中何度か砂に足を取られ、転びそうになりながら到着した島は、木々の湿ったにおいがした。
 背負っていたリュックをおろして中からタオルを取り出すと、テルはそれで足を拭った。真っ白なタオルに細かな砂が絡みつく。指の間まで念入りに拭い、そうしてよういやくスニーカーに足を通す。安っぽい白色をしたスニーカーは熱い砂に慣れた足にはずいぶんと冷たく感じられた。
 リュックを背負いなおし、テルはまず島の入り口にたてられた古びた看板を見た。島の全体図が描かれた看板には島の名前が書かれていたはずだが、長年の風雨にさらされたせいか、あるいは誰かのいたずらか、今では読めない。
 彼女の訃報を聞いたのは、作品展が始まって二日目のことだった。
 眠るように、静かに息を引き取ったという。
 壁にかかった自分の写真を見た。あの日、海を見続けていた女性の写真だ。写真の下には私の名前と作品のタイトルが書かれた紙と金色の帯がぶらさがっている。審査員の言葉を思い出した。右側に座る女性を置き、左側に海を大きく大胆に入れた構図がすばらしい。空間の描き方が上手い。女性のうなだれた姿から彼女の心情が想像できる。人の想像力を引き出す、すばらしい作品だ。
 心の中であざ笑った。たかだかこんな写真一枚で、その中に写った人の心情が思い描けるなど妄想も甚だしい。こんな、たった一瞬言葉も音も何もない、時間を切り取っただけの一枚で何が分かるというのか。
 気づけば手の中の手紙を握りつぶしていた。込めていた力を抜いて、ぐしゃぐしゃの紙を広げた。女性が死ぬ前に書いたという、私宛の手紙だ。
 彼女は最後のそのときまで待ち続けたのだろう。決してこの世では会うことの出来ない人を待ち続けたのだろう。徒労と知りながら海の向こうを眺め、残り少ない日々を過ごし、そうして死んでいったのだろう。死んだ後の一瞬にしか出会えないその人に会いたいと、意識が消える瞬間まで切に願い続けたはずだ。
 その願いの切実さなどこの写真のどこにも写っていないのだ!
 私は写真に背を向けた。もう、これ以上見るものなどない。声をかけようとする人の視線と手をかわしながら会場の出口へ足を向けた。
 耳の奥ではただ、あの日の潮騒が鳴り響いていた。
 別に良いんじゃないかな、体売ったって。自分の体だし。親が泣くよ、と言っても親はこっちを見てくれる訳じゃないし。体売って金稼がないと生きていけないし。
 そんなことを言うとたいていの人(男も女も)は変な顔、もしくは酷い顔をする。理解できない物を見る目。別に良いけど。そんな目で見られようが何だろうが、あんまり気にしないしする必要もないでしょう。


「金髪に染めたら?」
「金髪、ねえ」
「阿婆擦れっぽくて良いと思うよ」
 そう言って男は笑った。阿婆擦れなんて、久々に聞いた言葉だ。昔はよくそう罵られたけど、この男の言葉は罵るニュアンスなんて全くなかった。むしろプラス方向に移動しそうで逆に怖い。あんまり教育にはよろしくない言葉なのにね。
 そんなものになるつもりはほとんどなくて、生きることに精一杯の自分にはこれが限界だった。最良の選択ではないけれど最悪の選択でもないと思ってる。
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