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Bernadette
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時計を見る。時計を見る。時計を見る。チクタク歩く秒針を殺す。時計を落とす。力強く踏みつぶす。足下でガラスが粉々に割れた。
カウントを始めよう。180秒。こうしている間にも時間はどんどん過ぎていく。あと何秒だ? あと160秒。3分あるならカップラーメンでも作ってりゃいいんじゃねえの? 俺は嫌いだけど。安っぽいし。不味いし。
あと140秒。140? 139じゃなくて? そんなことどうでも良いだろう。頭の中で秒針が歩く。うるせえ黙れ。お前なんてお呼びじゃない。
あと120秒。あと2分。生ゴミに香水をぶちまけたような悪臭がする。鼻がもげそうだ。息を吸うことすら面倒で、気持ち悪い。呼吸を止めてみようか。ああでも、カウントをしなければ。カウント、カウント。0になるのをひたすら待つ。
あと97秒。中途半端。それならキリの良い時間まで沈黙でもしてみようか。



あと60秒。あと1分。カップラーメンもあと1分。少し固めが好きなら今から食えば良いんじゃね? ただし自己責任でな。
あと40秒。心臓が高鳴った。緊張、安堵、そして高揚。もうちょっと頑張ってくれ。あと35秒でなんとかなるからさ。
あと30秒。フライングオーケー?
あと20秒。ノー。
あと10秒。だってほら、もう少しだし。
あと5秒。フライングしても意味ないだろ?

なあ、そうだろう?

あと0秒。

さあ始めよう。はじめまして、さようなら。
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彼が意識を取り戻したと聞いて駆けつけた病室は、花の匂いがした。ベッドの上で体を起こしている彼は白い入院着を着ていて、その腕から点滴のチューブが伸びている。私が入ってきたことに気付いているだろうに、彼はぴくりとも動かずぼんやり宙を眺めていた。
花の匂いがした。彼の手が花を握りしめていた。見舞いには到底そぐわない、真っ赤な薔薇だ。ベッドの上とその辺りに赤い花びらが散っていた。

「おはよう」

ドアを閉めてゆっくり近付く。彼の顔がこちらを見た。うっすら開いた唇が不健康に青ざめていた。頬は白い。生きているのか分からない彼は、けれど生きているし血も流れいてるようだった。薔薇を握りしめている手から、僅かに血が流れているのが見えた。
かさり。花びらを踏みつぶす。彼の横に立ち尽くす。どろどろに濁った闇色の目が私を見た。

「それで、死ねなかったのね?」

一瞬の間を置いて彼は頷いた。そして視線を逸らし、自分が手にした薔薇へと向き直った。そして何も言わないまま薔薇の花びらをむしり取り始めた。哀れな薔薇はその赤色を散らされ、あっという間に花のない植物へと成り下がる。そこまで見て、私はそれが花屋で売られているような物ではなく、誰かが直接刈り取ってきた薔薇なのだと気付いた。みずみずしい緑色の茎にはたくさんの棘が並んでいた。

「水、が、くちからはいってきて、苦しかった」
「そう」
「でも、死ななかった。なんか、よく分かんないけど。よく分かんないけど、車にひかれたときのこと、おもいだした」
「そう」
「だんだん苦しいのがきもちよくなってって、でも体中きもちわるかった。水、まずかった。目、あけたら手がみえたけど、たぶん、あれは」

そこまで言って彼は別の薔薇を手に取った。花びらが半分ちぎり取られたそれを更にちぎり取る。

「んで、きづいたら救急車っぽいのにのせられて、でもすぐに真っ暗になった。真っ暗。死んだと思ったのに」
「でも、死ねなかったのね」

無言は肯定。握りしめられた花びらが乾いた音をたてた。彼の細い手が私に差し出されたので手を出すと、手のひらにぐしゃぐしゃの花びらが載せられた。
花の匂いがする。彼の折れそうなうなじを見て、私は自分が安心しているのか失望しているのか分からなくなった。彼のそのうなじや白い頬や青白い唇にこの薔薇のような赤い液体が流れているのは確かで、けれどそれは私の心に平穏をもたらす訳じゃない。
いっそ目覚めなければ良かったのにね。唇だけを動かして呟いた。彼が意識を無くしたまま、そのままの白さでいてくれたら良かったのにね。死ねない彼がもう二度と動かなければ良い。こうして、彼が死のうとする度に胸が締め付けられるような苦しさも、無事だったことを知らされた時の安堵も、何も感じなくなれば良い。
そうして私はきっと、彼の隣で微笑んでいるのだろう。動かず、ただ人形のようにそこに存在する彼をそうしてやっと、心の底から愛せるのだろう。


ねえ、でも、それはただの人形遊びに過ぎないんじゃない?
こんな雨の日は古傷が痛む。そう言って彼の手が髪の毛を掻き上げた。左のこめかみにひきつった傷跡が一つ。赤紫に歪んだ線は肌色には到底なじまない。

「痛みますか」
「それなりに」
「じゃあ、雨の日は大変でしょう」
「そうだな。雨は嫌いだ」

そっと吐いた息はため息だった。彼の左手が髪の毛を離し、傷跡はまた隠れた。いつも通りの彼の横顔に戻る。
霧雨はけぶるように街を濡らしている。手持ちぶさたにビニール傘を回すと、しずくがビニールをつう、と伝って落ちた。

「雨、止むと良いですね」

目の前で信号が、赤から青に変わった。人混みが一斉に向こう側へと渡っていく。足音と水音、そして声。彼の手が動いたかと思うと、傷跡をなぞるように指がこめかみを這った。痛みますか、ともう一度聞くと、痛い、と答えが返ってきた。雨は止まない。
END/and,

・男……メンソール。マールボロブラック。
・男の友人……バニラ。キャスター。


黒友

・黒崎
通常→マールボロブラック。
時々吸う→ケント。紅茶。
(チョコレートフレーバーのブラックデビルとかも良いかもしれない)
・誠也……マイルドセブン。詳細は未定。


原稿関連

・店主……バニラ。キャスター。またはアークロイヤル。
「不思議だな、これで七回目だ」
 石を投げる。ざらりとした灰色の石は二回水面を跳ねて川底へ沈んだ。音の存在を忘れるほど穏やか流れは、川でありながら海のようでもある。広い水面を漂う霧で対岸は見えず、どこを見ようともそこには川と霧と桟橋と、石の転がる河原しかない。
 あちら側とこちら側を隔てる川は、いつものように静かに流れている。
「あっちに渡るための桟橋はいくつもあるっていうのにな。なんであんただけは何回も、この桟橋にくるんだろう」
 黒ずくめの男は石を拾い、桟橋に腰掛ける女に問いかけた。僅かに明るさのある髪を緩く一つにまとめた、若い女は小さく首を振った。
「わたしにも分からないわ」
 ワンピースからのぞく白い足が桟橋から水面へと伸びる。水面に触れたサンダルの爪先が川に波紋を生み出したが、それはすぐに流れに消えた。女の足は子供のように川面を叩く。水しぶきが少し離れた男の黒衣や、フードに半分近く隠れた頬に当たった。
 彼岸と此岸の間を流れる川の水は冷たい。あちら側へ渡るための船は、いまだこちらに戻ってこない。
「俺も長くここにいるが、生まれ変わってもこうして、同じ桟橋にくるようなのはあんただけだよ」
 ぱしゃりぱしゃりと水音が河原の静寂を破り捨てる。男は手にしていた石を川に投げた。その音も、女の足が作り出す水音にかき消された。
 だが、唐突にその音は止んだ。何事かと視線を向けると、女が困ったような顔で川をのぞき込んでいた。その左足にサンダルはない。
 ああ、と男は納得した。
「おいおい、何をしているんだ」
「だって、暇だったもの」
「それにしたって馬鹿なことをするもんだ。何よりこの川の水は冷たいだろうに」
 特に何を考えたわけでもなく、男は川に入り、女の足下をじっと凝視した。桟橋近くは浅く、水は澄んでいる。膝まで濡らしつつ水底を探すと、サンダルは簡単に見つかった。真っ白なそれの足の甲部分には薄桃色の花の飾りがついていて、踵はずいぶんと高かった。果たしてこれで歩けるものなのかと疑問に思ったが、口には出さなかった。
 視線を上げると女の華奢な足が目に入った。冷たい水で遊んでいたせいなのだろう、肌は赤く色づいている。その爪が不思議に光っていることに気づき、男は首を傾げた。
「爪、なんで光ってるんだ」
「爪? ・・・・・・ああ、これはね、ネイルアートっていうの。爪をきれいに整えて、色をつけて、おしゃれにすることよ」
「おしゃれ、ねえ。あんた、好きなのか」
「好きよ。きれいになることは好き」
「ふうん。それなのに死んだのか。死んだらその、ネイルアートっていうヤツもできないだろうに」
 更に視線を上げると女と目が合った。女の憂いを含んだ瞳が伏せられる。
「そうね、きっと、きれいになっても喜んでくれる人がいなくなってしまったから」
 そうして女は悲しげにほほえんだ。
「結婚式前にね、私の夫になるはずだった人が死んでしまったのよ」
「・・・・・・」
「愛していたのに、ね」
 じゃあ今は愛していないのか。男はささやくように尋ねた。
 女は頭を振った。
「分からない。死のうと思ってあの人と同じように飛び降りた、その瞬間までは愛していたと思う。けれど、落ちていくうちに何か変わってしまったような気がするの」
 サンダルを差し出すと、やはり華奢な手が受け取った。左手の薬指では銀色の指輪が輝いている。女はそれを眩しげに見つめていた。
「落ちていく時間がとても長く感じられたわ。その中でね、どうしてかしら、あなたに会いたいと思ったの」
「俺かい?」
「そう」
 一瞬の沈黙の後、女は深くため息をついた。
「前世の記憶って言うのかしらね、昔からそうだった。その時代を生きたわたしが死んで、河原であなたと会う。その繰り返しが六回分。ずっと覚えていたの」
「ふうん」
「小さい時から、その景色が頭の中にあったわ。大きくなるにつれて夢だと思うようになったし、本当に、それは幼いわたしの妄想だと信じてた」
「だけど、違ったんだろう。夢じゃなかった」
「そう。死ぬ瞬間に、ああ、これは夢や妄想なんかじゃなかったんだって気づいたわ」
 冷たい川の中に立ち尽くしながら、男は女の顔を見つめた。
「六回生きて、七回目の人生を終わらせたわたしと、一度も変わっていないあなた。ねえ、わたしはあなたの目に、どう映っているのかしら」
 いっそ穏やかとも言える女の瞳が、布越しに男の目をとらえたような気がした。
 記憶を遡り、はるか昔から続く女との再会を思い出す。今この瞬間を含めて七回、そのどれも、女はそう歳をとっていなかった。早死にと言ってもいいくらいの年齢で、男とこの河原で顔を合わせている。時の流れに沿って顔形や体型は多少変わっているが、そのどれもが悲しげな微笑を浮かべていた。
 悲しげな微笑。長いまつげが濡れたように黒い。緩やかな憂いを含んだ瞳の中に、静かな不安が沈んでいるようにも見えた。
「・・・・・・変わらんさ。昔も今も、あんたは変わってない」
 水に何かが落ちる音が響いた。男の目の前で水しぶきが上がった。女の右足からサンダルが落ちたのだ。気泡が水面を揺るがして弾け、一瞬だけ水が白く濁り、また元の透明に戻る。白いサンダルは水の青さを映して青白く、ものも言わずに底に沈んでいた。
 またサンダルを取ろうと前かがみになった男の頭を、優しく撫でる手があった。被っているフードが軽く引っ張られ男は静かに抵抗した。それを見越していたように女の手がするりと離れた。視界の端で銀色が瞬く。
「そう、変わっていないのね」
 安堵したような声が聞こえた。
「どれだけ長い時間がたっても、変わらないものはあるのね」
「俺は変わらないさ」
「あなたが変わらないのなら、私もきっと変わらないわ」
「そうかねえ」
「そうよ。何度生まれ変わっても必ずここにくる。死ぬ寸前にあなたのことを思いだして、そしてまた同じことを繰り返す」
 今度こそ、水底からサンダルを掬い上げた。濡れた偽物の花が水を滴らせ、白いエナメルが男の手から熱を奪う。桟橋からふらりと揺れる女の足は裸足だ。指輪とはまた違うネイルの輝きは、花と同じ薄桃色だった。
「悲しいもんだな。死ぬために生きるもんじゃないか」
「だとしてもわたしはきっと幸せだわ」
「幸せ、ねえ。これが幸せならあんた、報われないぞ。不毛な人生だ」
 ひょいと男の手からサンダルを取り上げ女は笑った。悲しげではない、およそ初めて見る美しい笑みだった。
「そういうものなのよ。わたしがここにくる理由は」



 小舟が軋み声をあげて彼岸からやってくる。そこでようやく男は桟橋に上がった。黒衣の水気を絞り終える頃には、女は濡れたサンダルを履いて桟橋の端に立ち、船がくる方をじっと見つめていた。
「・・・・・・なああんた、人を愛するって言うのは、どんな気分なんだ?」
 女の一歩後ろに立ち、同じように船の到着を待つ。男の疑問に女の艶やかに掠れた声が答えた。
「会いたい、話したい、触れたい。そういう思いが積もって積もって切なくなる。そんな気分よ」
「ふうむ、分からんねえ。それは人間じゃないと理解できないことなのかもしれん」
「そうかしら。きっとあなたにも分かると思うわ」
 船が近づいてくる。
「俺には無理さ。なにせ、人間として生きたことはない」
「人間であることと愛することは別物よ。それでも信じられないのなら、そうね、待っていて」
「待つ?」
「ここで待っていて。わたしはまたここに来るわ。その時にきっと分かるから」
 約束よ、と女は左手の小指を差し出した。何事かと首を傾げる男の片手をとり、その小指と小指を結ぶ。結んでいたのはほんの数秒で、女の小指はするりと離れた。
 静寂を切り裂く船の音は、もう目の前にある。寡黙な船守が無言で女を促した。
 ワンピースの裾が、長い髪が、河原の冷たい空気にふわりと揺れた。
「それじゃ、また」
「・・・・・・ああ、また、いつか」
 笑顔を一つ、女は船へ乗り込んだ。細い背中は二度と振り返らず、男はただ静かにその姿を見守る。船守がそっと会釈をして舵を取った。
 川を渡っていく船を見つめながら、結んだ小指に触れてみる。およそ初めて触れた人の肌は柔らかく、男よりもずっと温かだった。あの女のために、よく分からない誰かへ何かを祈ってみようかと、男はそっと小指を握りしめた。

 白い霧と川を進む船の中、きっと女は振り返らない。
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