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 彼女の訃報を聞いたのは、作品展が始まって二日目のことだった。
 眠るように、静かに息を引き取ったという。
 壁にかかった自分の写真を見た。あの日、海を見続けていた女性の写真だ。写真の下には私の名前と作品のタイトルが書かれた紙と金色の帯がぶらさがっている。審査員の言葉を思い出した。右側に座る女性を置き、左側に海を大きく大胆に入れた構図がすばらしい。空間の描き方が上手い。女性のうなだれた姿から彼女の心情が想像できる。人の想像力を引き出す、すばらしい作品だ。
 心の中であざ笑った。たかだかこんな写真一枚で、その中に写った人の心情が思い描けるなど妄想も甚だしい。こんな、たった一瞬言葉も音も何もない、時間を切り取っただけの一枚で何が分かるというのか。
 気づけば手の中の手紙を握りつぶしていた。込めていた力を抜いて、ぐしゃぐしゃの紙を広げた。女性が死ぬ前に書いたという、私宛の手紙だ。
 彼女は最後のそのときまで待ち続けたのだろう。決してこの世では会うことの出来ない人を待ち続けたのだろう。徒労と知りながら海の向こうを眺め、残り少ない日々を過ごし、そうして死んでいったのだろう。死んだ後の一瞬にしか出会えないその人に会いたいと、意識が消える瞬間まで切に願い続けたはずだ。
 その願いの切実さなどこの写真のどこにも写っていないのだ!
 私は写真に背を向けた。もう、これ以上見るものなどない。声をかけようとする人の視線と手をかわしながら会場の出口へ足を向けた。
 耳の奥ではただ、あの日の潮騒が鳴り響いていた。
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