レンが帰宅すると、真っ黒な獣が足下にすり寄ってきた。犬とも狼ともつかない、黒い毛並みの獣は大きい。うっかり押し倒されそうになりながらなんとかバランスをとりつつ、レンは靴を脱いだ。
「ただいま」
ふんふんと匂いを嗅いでいるのは、今日は貧血検査で血を抜かれたからだろうか。獣は艶やかな瞳でレンを見上げている。視線はおそらく、小さな傷のついた耳たぶへいっているのだろう。獣の頭をぐいぐいと撫でる。不機嫌そうに獣が鼻を鳴らした。
「オイ、俺は犬じゃない」
「知ってますよ」
その割に動作は犬ですけどね、と言いながら廊下を歩いていると、後ろから軽く体当たりされた。その拍子に壁に鞄が当たって鈍い音を立てる。レンは何かを叩く音が嫌いだ。獣を睨むと目を逸らされた。
鞄は部屋に放り込み、着ていたブレザーもベッドに投げつける。皺になるぞ、と獣が言ったが無視した。その獣はずっとレンの後ろをついてくる。手を洗うために洗面所に行けばその前で待ち、何か飲もうとキッチンに入れば横にちょこんと腰掛けている。図体が大きく口の悪い割に、どうにもこの獣はレンにべったりらしい。
「ただいま」
ふんふんと匂いを嗅いでいるのは、今日は貧血検査で血を抜かれたからだろうか。獣は艶やかな瞳でレンを見上げている。視線はおそらく、小さな傷のついた耳たぶへいっているのだろう。獣の頭をぐいぐいと撫でる。不機嫌そうに獣が鼻を鳴らした。
「オイ、俺は犬じゃない」
「知ってますよ」
その割に動作は犬ですけどね、と言いながら廊下を歩いていると、後ろから軽く体当たりされた。その拍子に壁に鞄が当たって鈍い音を立てる。レンは何かを叩く音が嫌いだ。獣を睨むと目を逸らされた。
鞄は部屋に放り込み、着ていたブレザーもベッドに投げつける。皺になるぞ、と獣が言ったが無視した。その獣はずっとレンの後ろをついてくる。手を洗うために洗面所に行けばその前で待ち、何か飲もうとキッチンに入れば横にちょこんと腰掛けている。図体が大きく口の悪い割に、どうにもこの獣はレンにべったりらしい。
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紙は意外と鋭い。うっかり紙の端に滑らせた指先に赤い線が滲んだかと思うと、そこからぷつりと小さな血の玉ができてあっと言う間に崩れた。指を血が這っていく。私は慌てて手にしていた本を離れたところに置き、あたふたとティッシュを探した。カウンターの下に放置されていたティッシュをなんとか一枚取り出して、指先に押しつける。あまり痛くはないが、熱を持っているような気がする。
更にカウンターの下を漁ると、小さな救急箱があった。中から絆創膏を取り出して、慎重にフィルムを剥がす。ティッシュを交換してもう一度押さえ、血が止まり始めたのを確認してから絆創膏を貼った。
この古書店で働くようになって結構経つが、未だに紙で指を切るのはよくやってしまう。不注意だと言われればそれまでだが、紙がまさかそんな危ない物だという認識はいまいち私の中に根を張っていないのだ。おかげで埃を被っていた店主の救急箱がよく役に立っている。
絆創膏の白いガーゼ部分に赤い液体がじわりと滲んでいくのを見ながら、私はそっと置いた本に手を伸ばす。私の指を切りつけた憎い文庫本は少し色褪せた背表紙をさらしていた。
「またやったのか」
呆れたような声で、少し離れた本棚を整理していた店主がため息をついた。中年と言うには若いが、青年と言うにはもうちょっと歳をとっている、長身の男だ。白いシャツに黒いスラックス、その上に黒いエプロンを身につけ片手に本を抱えている。目つきが悪い上に少しばかり前髪が長いので、人相は良くない。
「学習しないヤツだな」
「たぶん、本に嫌われてるんだと思います」
言い返すと鼻で笑われた。鋭い目が笑ったことで更に細くなる。きっと私は苦虫を噛み潰した顔をしているだろう。馬鹿にされていることは明らかだが、彼の言うことは正論なのでそれ以上は反論できない。仕方なく文庫本に値札を挟む作業を再開する。店主はいつの間にか高い踏み台を持ち出して、その一番上に腰掛けていた。
芥川という男が経営している古書店での仕事は、主に掃除とレジ打ち、本の値札付け、あとはせいぜい梱包だ。単なるアルバイトの私は持ち込まれる本の価値など分からない。それは店主の仕事で、彼は人々が持ってきた本を査定して買い、売る時の値段を決める。私はそれを聞いて紙に値段を書いて本に挟む。そして時々指を切る。
さすがにもう、絆創膏の血のしみは広がっていない。
「谷崎さん、その山片付けたらあっちの棚よろしく」
「はーい」
店内は入り口の横にカウンターがあり、その真っ正面は棚の代わりにただのテーブルが設置されている。テーブルは和本を置くための場所だ。私は国文学専攻でもなんでもないのでよく分からないのだが、和綴じの本はふつうの本のように縦に置いてはいけないらしい。おかげで一番下の和本を取るときは大変だ。上に置かれた和本達をいちいち取り下げて抜かなければいけない。
とはいっても私が主に掃除や整理をするのはふつうの単行本や文庫本の棚だ。それに関しては少しだけ安心する。和本の扱い方はよく分からない。百年以上の年月を経た紙を自分で汚したり破ったりして台無しにしてしまうと思うとぞっとする。単行本や文庫本も値段が高い物はよくあるが、それでも和本と比べるとこちらの方が扱いやすいイメージがある。
最後の一冊に値札を挟み終わると、私はカウンターから出て奥の棚に向かった。全集ばかりがずらりと並んだ棚だ。それが作者順、巻数順に並んでいるか確認しながら、取り出しやすいように手前に引いていく。がたがたと音がしたのは、おそらく店主が金属製の踏み台を動かしたからだろう。彼は踏み台に腰掛ける癖がある。
更にカウンターの下を漁ると、小さな救急箱があった。中から絆創膏を取り出して、慎重にフィルムを剥がす。ティッシュを交換してもう一度押さえ、血が止まり始めたのを確認してから絆創膏を貼った。
この古書店で働くようになって結構経つが、未だに紙で指を切るのはよくやってしまう。不注意だと言われればそれまでだが、紙がまさかそんな危ない物だという認識はいまいち私の中に根を張っていないのだ。おかげで埃を被っていた店主の救急箱がよく役に立っている。
絆創膏の白いガーゼ部分に赤い液体がじわりと滲んでいくのを見ながら、私はそっと置いた本に手を伸ばす。私の指を切りつけた憎い文庫本は少し色褪せた背表紙をさらしていた。
「またやったのか」
呆れたような声で、少し離れた本棚を整理していた店主がため息をついた。中年と言うには若いが、青年と言うにはもうちょっと歳をとっている、長身の男だ。白いシャツに黒いスラックス、その上に黒いエプロンを身につけ片手に本を抱えている。目つきが悪い上に少しばかり前髪が長いので、人相は良くない。
「学習しないヤツだな」
「たぶん、本に嫌われてるんだと思います」
言い返すと鼻で笑われた。鋭い目が笑ったことで更に細くなる。きっと私は苦虫を噛み潰した顔をしているだろう。馬鹿にされていることは明らかだが、彼の言うことは正論なのでそれ以上は反論できない。仕方なく文庫本に値札を挟む作業を再開する。店主はいつの間にか高い踏み台を持ち出して、その一番上に腰掛けていた。
芥川という男が経営している古書店での仕事は、主に掃除とレジ打ち、本の値札付け、あとはせいぜい梱包だ。単なるアルバイトの私は持ち込まれる本の価値など分からない。それは店主の仕事で、彼は人々が持ってきた本を査定して買い、売る時の値段を決める。私はそれを聞いて紙に値段を書いて本に挟む。そして時々指を切る。
さすがにもう、絆創膏の血のしみは広がっていない。
「谷崎さん、その山片付けたらあっちの棚よろしく」
「はーい」
店内は入り口の横にカウンターがあり、その真っ正面は棚の代わりにただのテーブルが設置されている。テーブルは和本を置くための場所だ。私は国文学専攻でもなんでもないのでよく分からないのだが、和綴じの本はふつうの本のように縦に置いてはいけないらしい。おかげで一番下の和本を取るときは大変だ。上に置かれた和本達をいちいち取り下げて抜かなければいけない。
とはいっても私が主に掃除や整理をするのはふつうの単行本や文庫本の棚だ。それに関しては少しだけ安心する。和本の扱い方はよく分からない。百年以上の年月を経た紙を自分で汚したり破ったりして台無しにしてしまうと思うとぞっとする。単行本や文庫本も値段が高い物はよくあるが、それでも和本と比べるとこちらの方が扱いやすいイメージがある。
最後の一冊に値札を挟み終わると、私はカウンターから出て奥の棚に向かった。全集ばかりがずらりと並んだ棚だ。それが作者順、巻数順に並んでいるか確認しながら、取り出しやすいように手前に引いていく。がたがたと音がしたのは、おそらく店主が金属製の踏み台を動かしたからだろう。彼は踏み台に腰掛ける癖がある。
このご時世どうなってるか分からないけど、葬儀屋で働く男とその葬儀屋に雇われているエンバーマー。
・葬儀屋
中年の男。知り合いからの紹介でエンバーマーを雇うことになる。未婚。あるいはバツイチでも良い。そろそろ四十歳が近い。
ツッコミ役かおっさん扱いされる役。むしろ後者。エンバーマーとの年の差は十歳かそこら。一人暮らし歴が長いので家事はある程度は出来る。面倒だとコンビニ飯。葬儀屋の割に意外とグロ耐性がない。(それだと仕事にならないか?)
・エンバーマー
三十いくかいかないかの若い女性。普通に下ネタも出してくるけどエンバーミングで人の裸見てるから仕方ない。さっぱりしてる割に時々泣く。自分の仕事がなかなか社会に認知されなくて悲しいけど頑張る。自分の職業に誇りを持っている。
アメリカ辺りで資格を取っているはず。日本に帰ってきたのは数年前。エンバーミング技術はなかなかの物だが、何故か自分の顔のメイクだけは致命的に出来ない。ファンデーション塗ることすら多分出来ない。他はたいていオールマイティーにやる。
「今更人の裸見てもどうこう思いませんよ」
「お前まだ若いだろうに……」
「あいにく男も女も上も下も見慣れてますんで。ついでに人の外側も内臓も」
「おいやめろ昼飯は焼き肉だったんだ」
「しかし不可抗力とは言え人の裸見るのもなんだかなあ」
「なんですか女の体見たこともない童貞なんですか。まさか四十近いのにそんな訳はないでしょう。だからって興奮されても困りますが」
「口悪いなオイ。お父さん娘の事が心配になってきたよ」
「誰がお父さんですか」
「でもいるんじゃないのか、人の裸見すぎて不能になるとか」
「どうなんでしょうねえ。見るって言ってもあれですよ、損壊酷いパターンが多かったので、あっちは」
「たとえば」
「顔半分ぱーん」
「……」
「……」
「……」
「顔半分ぱー」
「もう良い」
・葬儀屋
中年の男。知り合いからの紹介でエンバーマーを雇うことになる。未婚。あるいはバツイチでも良い。そろそろ四十歳が近い。
ツッコミ役かおっさん扱いされる役。むしろ後者。エンバーマーとの年の差は十歳かそこら。一人暮らし歴が長いので家事はある程度は出来る。面倒だとコンビニ飯。葬儀屋の割に意外とグロ耐性がない。(それだと仕事にならないか?)
・エンバーマー
三十いくかいかないかの若い女性。普通に下ネタも出してくるけどエンバーミングで人の裸見てるから仕方ない。さっぱりしてる割に時々泣く。自分の仕事がなかなか社会に認知されなくて悲しいけど頑張る。自分の職業に誇りを持っている。
アメリカ辺りで資格を取っているはず。日本に帰ってきたのは数年前。エンバーミング技術はなかなかの物だが、何故か自分の顔のメイクだけは致命的に出来ない。ファンデーション塗ることすら多分出来ない。他はたいていオールマイティーにやる。
「今更人の裸見てもどうこう思いませんよ」
「お前まだ若いだろうに……」
「あいにく男も女も上も下も見慣れてますんで。ついでに人の外側も内臓も」
「おいやめろ昼飯は焼き肉だったんだ」
「しかし不可抗力とは言え人の裸見るのもなんだかなあ」
「なんですか女の体見たこともない童貞なんですか。まさか四十近いのにそんな訳はないでしょう。だからって興奮されても困りますが」
「口悪いなオイ。お父さん娘の事が心配になってきたよ」
「誰がお父さんですか」
「でもいるんじゃないのか、人の裸見すぎて不能になるとか」
「どうなんでしょうねえ。見るって言ってもあれですよ、損壊酷いパターンが多かったので、あっちは」
「たとえば」
「顔半分ぱーん」
「……」
「……」
「……」
「顔半分ぱー」
「もう良い」
本を作ろうと言い出した少年二人。
・別に少年二人じゃなくても良い。
・少女二人でも、少年少女でも良い。
・名前は二人ともカタカナで、なんとなく日本っぽいけど日本じゃないような、微妙な空気。
・図書室に篭もりっきりの一人と、美術の成績だけは良い少年。
・あれこれって薬師と山崎じゃ
・豆本を作る要領で、本を作ってみようといきなり言い出す。
・俺と彼はそんなに仲が良かった訳じゃありません。
・別に少年二人じゃなくても良い。
・少女二人でも、少年少女でも良い。
・名前は二人ともカタカナで、なんとなく日本っぽいけど日本じゃないような、微妙な空気。
・図書室に篭もりっきりの一人と、美術の成績だけは良い少年。
・あれこれって薬師と山崎じゃ
・豆本を作る要領で、本を作ってみようといきなり言い出す。
・俺と彼はそんなに仲が良かった訳じゃありません。
設定を詰める。
・羽化とは何か
五歳から十五歳までの子供達の間に起こる現象。体のだるさから始まり発熱や昏睡などが起こることもあるが、最終的には背中から白い翼が生えてくる。原因は不明。これは子供達にしか起こらず、今のところ成人した人々には見られない。
羽化現象は多く起こっているわけではないが、世界中で観測されている。現在羽化が起きたのは千人程度。現象自体は三十年ほど前から起こっていた。
翼の大きさは人それぞれだが、色は白であることは変わりない。また、翼が生えていても飛ぶことは出来ない。羽化した子供達は成長しても翼がとれるということはなく、一生そのままである。ただし、羽化と共に体に様々な変化が起きている子供達も存在し、例えば成長が極端に遅くなってしまったり、生殖機能を失ってしまったり、体から色素が抜けてしまったり、と言った例が見られる。
・羽化した子供達はどうなるか
背中に翼が生えると普通の生活が困難になり、また、地域によっては差別の対象ともなる。故に保護のためにとある孤島に作られた施設に送られる。
子供達は翼が生えたまま成長するが、基本的にはそのまま施設に残ることになる。島の外にでることはほとんどないため世間一般と意識がずれていることもある上、そもそも施設による保護が当然であるという認識があるために彼ら自身外に出たい、という欲求が少ない。幼い内から安全かつ物質的に不自由ない生活を過ごすため、外への興味がない場合が多い。どちらにしろその感覚は一般人とは離れていることに間違いはない。
成長してからは施設の一員として働くことも可能。未だ調査中ではあるが羽化した人々はあまり寿命が長くない傾向があるので、実際は三十才以上は存在しない。ただしこのことは人々には伏せられている。
・施設について
羽化した子供達を保護するための施設で、子供達への教育も施している。子供達のストレスにならないよう、必要な物は全て揃えられている上に、足りなければすぐに用意される。地上の楽園と呼ばれることもあるが、これは羽化した子供達の外見が伝承における天使に近いことと、彼らに対するこれらの保障などからつけられた通称である。
施設は孤島にある。この島はもともと個人が所有していた物だが寄付という形で施設の所有地とされた。小さな島で、中心に施設が建っている。周りを森林に囲まれ、施設で働く人々の監視の元で施設に入った人々は外に出ることが出来る。
施設に入るに辺り、子供達は手首にバンドを着けることになる。これはいわゆる発信器の役割を果たしており、勝手にどこかに消えることのないよう防止の意味合いで装着を義務づけられる。
外との情報交換はテレビやインターネットを経由している。特に統制はしていない。子供達と外との交流はインターネットでのみ行われる。
子供達が島の外に出ることは年に二、三回程度ありそうだが、この時はたいてい肉親に会いに行くのが目的。島には施設構成員と羽化した子供達以外は入れない。入ってもせいぜいが政府や機関に属する人達のみ。
・ミシェルとヴィルジール兄弟について
金髪に緑の目をしている。フランス人だが、外見から先祖はおそらく北欧辺りだと思われる。
両親とは年に一度会っている。それ以外ではメールのやりとりを、ヴィルジールがこっそりしている程度。ミシェルは両親を嫌っているが、それは彼らに捨てられたという意識に基づいている。実際に両親が彼らを捨てたかどうかは不明。両親は仕事が忙しい。
七歳の時に施設に入った。一卵性双生児で見分けがつかないため、便宜上ミシェルが髪の毛をオールバックにしているが、性格が違うため意外と簡単に分かる。
ミシェルは基本的には快活で礼儀正しく、典型的な「良い子」。成長すると一人称は「僕」になり、性格にあまり変化はない。よく笑う。
ヴィルジールは幼い頃はいつもミシェルの後ろに隠れ、引っ込み思案だった。成長するとミシェルの後ろに隠れることはなくなったが、明るいミシェルとは正反対に物静かで、ミシェルが動ならこちらは静。成長すると一人称が「私」になる。笑うことは笑うが、大声で笑うことはほとんど無い。
・ダフネについて
一般的な家庭で育った。一般的といっても普通よりいくらかお金に余裕がある、といった程度。幼い頃からピアノを習っていた。そのため、施設に入った後もピアノを弾き続けている。
毛先がウェーブがかっているおかげで綺麗に、かつふわふわとした髪型になる。施設に来た当初はボブショートだったが、それ以降は切りそろえつつも伸ばしている。目の色はヘーゼルが妥当なところで、環境によってはダークグリーンに見えたりイエローに見えたりと様々である。母親は美しい青色の目をしているが、自分がそうならなかったことを密かに不満に思っている。
十三歳とだいぶ成長してから施設に入ったため、施設内部と世間のズレに苦しむ。結果として人に必要以上に踏み込まない、慎重な性格に育った。人当たりは悪くないがとても仲が良いという人は少なく、たいてい一人で過ごす。一番交流が多いのは双子、特にヴィルジールである。一人称は変わらず「わたし」のまま。
・羽化とは何か
五歳から十五歳までの子供達の間に起こる現象。体のだるさから始まり発熱や昏睡などが起こることもあるが、最終的には背中から白い翼が生えてくる。原因は不明。これは子供達にしか起こらず、今のところ成人した人々には見られない。
羽化現象は多く起こっているわけではないが、世界中で観測されている。現在羽化が起きたのは千人程度。現象自体は三十年ほど前から起こっていた。
翼の大きさは人それぞれだが、色は白であることは変わりない。また、翼が生えていても飛ぶことは出来ない。羽化した子供達は成長しても翼がとれるということはなく、一生そのままである。ただし、羽化と共に体に様々な変化が起きている子供達も存在し、例えば成長が極端に遅くなってしまったり、生殖機能を失ってしまったり、体から色素が抜けてしまったり、と言った例が見られる。
・羽化した子供達はどうなるか
背中に翼が生えると普通の生活が困難になり、また、地域によっては差別の対象ともなる。故に保護のためにとある孤島に作られた施設に送られる。
子供達は翼が生えたまま成長するが、基本的にはそのまま施設に残ることになる。島の外にでることはほとんどないため世間一般と意識がずれていることもある上、そもそも施設による保護が当然であるという認識があるために彼ら自身外に出たい、という欲求が少ない。幼い内から安全かつ物質的に不自由ない生活を過ごすため、外への興味がない場合が多い。どちらにしろその感覚は一般人とは離れていることに間違いはない。
成長してからは施設の一員として働くことも可能。未だ調査中ではあるが羽化した人々はあまり寿命が長くない傾向があるので、実際は三十才以上は存在しない。ただしこのことは人々には伏せられている。
・施設について
羽化した子供達を保護するための施設で、子供達への教育も施している。子供達のストレスにならないよう、必要な物は全て揃えられている上に、足りなければすぐに用意される。地上の楽園と呼ばれることもあるが、これは羽化した子供達の外見が伝承における天使に近いことと、彼らに対するこれらの保障などからつけられた通称である。
施設は孤島にある。この島はもともと個人が所有していた物だが寄付という形で施設の所有地とされた。小さな島で、中心に施設が建っている。周りを森林に囲まれ、施設で働く人々の監視の元で施設に入った人々は外に出ることが出来る。
施設に入るに辺り、子供達は手首にバンドを着けることになる。これはいわゆる発信器の役割を果たしており、勝手にどこかに消えることのないよう防止の意味合いで装着を義務づけられる。
外との情報交換はテレビやインターネットを経由している。特に統制はしていない。子供達と外との交流はインターネットでのみ行われる。
子供達が島の外に出ることは年に二、三回程度ありそうだが、この時はたいてい肉親に会いに行くのが目的。島には施設構成員と羽化した子供達以外は入れない。入ってもせいぜいが政府や機関に属する人達のみ。
・ミシェルとヴィルジール兄弟について
金髪に緑の目をしている。フランス人だが、外見から先祖はおそらく北欧辺りだと思われる。
両親とは年に一度会っている。それ以外ではメールのやりとりを、ヴィルジールがこっそりしている程度。ミシェルは両親を嫌っているが、それは彼らに捨てられたという意識に基づいている。実際に両親が彼らを捨てたかどうかは不明。両親は仕事が忙しい。
七歳の時に施設に入った。一卵性双生児で見分けがつかないため、便宜上ミシェルが髪の毛をオールバックにしているが、性格が違うため意外と簡単に分かる。
ミシェルは基本的には快活で礼儀正しく、典型的な「良い子」。成長すると一人称は「僕」になり、性格にあまり変化はない。よく笑う。
ヴィルジールは幼い頃はいつもミシェルの後ろに隠れ、引っ込み思案だった。成長するとミシェルの後ろに隠れることはなくなったが、明るいミシェルとは正反対に物静かで、ミシェルが動ならこちらは静。成長すると一人称が「私」になる。笑うことは笑うが、大声で笑うことはほとんど無い。
・ダフネについて
一般的な家庭で育った。一般的といっても普通よりいくらかお金に余裕がある、といった程度。幼い頃からピアノを習っていた。そのため、施設に入った後もピアノを弾き続けている。
毛先がウェーブがかっているおかげで綺麗に、かつふわふわとした髪型になる。施設に来た当初はボブショートだったが、それ以降は切りそろえつつも伸ばしている。目の色はヘーゼルが妥当なところで、環境によってはダークグリーンに見えたりイエローに見えたりと様々である。母親は美しい青色の目をしているが、自分がそうならなかったことを密かに不満に思っている。
十三歳とだいぶ成長してから施設に入ったため、施設内部と世間のズレに苦しむ。結果として人に必要以上に踏み込まない、慎重な性格に育った。人当たりは悪くないがとても仲が良いという人は少なく、たいてい一人で過ごす。一番交流が多いのは双子、特にヴィルジールである。一人称は変わらず「わたし」のまま。