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Bernadette
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・「わたし」と彼の話
・彼の友人達の話
・「わたし」と「私」の話

つまり楽園は人によって違うのです

・愛し方、愛され方の相違
・ここがわたしたちのらくえんです
・二人きりの世界を作るカップルと、愛し合っているのに告げない二人組、それをただじっと見ているだけの人

・真っ向から反論したら殴られた
・どっちが正しいのか分からない
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夏冬
・物の話
・珍品コレクターとその助手の大学生
・珍しい物とそれにまつわる人の話
・昼間のイメージ

春秋
・どっちがどっちなのかはまだ未定
・ホラー
・人の悪意や存在されては困る諸々
・夜のイメージ


・それぞれ一月単位で考えて、計12の話が出来る。
・そんなに書けるのか
・いや無理だろ
夏野と冬峰
→夏と冬
・六月、七月、八月、十二月、一月、二月
・雨と人魚と海、雪と遭難と雪解け
・日照雨にはもう遅く
・深海、沈没、浮上せず
・人魚姫は歌わない
・師が走る
・雪花
・積もる埋める溶ける解ける

・春瀬と秋山
→春と秋
・三月、四月、五月、九月、十月、十一月
・桜と花見と藤の花、残暑と月見と金木犀
・咲かぬ桜とその末路
・愚者の宴(四月)
・紫木を厭う
・去らぬ暑さと長月の夜
・兎は月面で薬屋の夢を見るか
・金木犀はただ咲くのみ
女・二十代、カフェ店員、純情
男・三十代、サラリーマン、純情


 君からはコーヒーの香りがする、と言われた。
 白いシャツも黒いスラックスもカフェの香りが移り、まるで香水のように体にまとわりつく。それを隠すように羽織ったコートに彼は鼻を近づけ、すんすんと香りを嗅いでいた。子供じみた動作に小さく笑うと、男の綺麗な目と合った。

「なに?」
「子供みたいだなって」
「随分と大きな子供だ」

 横を駆けていったのは二人の子供だった。閉園が近づき始めた遊園地の、明るいライトが子供の背中を照らしていた。それを目で追うと、子供達は親らしき人影に突進していた。
 男と二人並んで歩く。めまいを起こしそうなほどきらきら輝くメリーゴーランドを通り過ぎ、目指すのは観覧車だ。仕事の後、ただ二人で歩くことすら幸福な気分になるのは浮かれ過ぎだろうか。ふと横の男に視線を向けると、彼からコーヒーの香りが漂った気がした。

「あなたからも」
「うん?」
「あなたからも、コーヒーのにおい」

 それをとらえたのは勘違いだったのだろうか。今度はスーツの袖を鼻に近づけ、男は首を傾げた。やはり子供のような動作だった。だが笑う顔は子供ではない。からかうように唇の端を持ち上げ、彼は囁く。

「君の匂いが移ったのかもしれない」

 一瞬で頬が熱くなったのが分かって顔を背けると、男が声に出さず笑う気配がした。勢いよく顔を背けたせいか、自分の髪の毛からコーヒーの香りが微かに漂った気がした。

 身の丈に合わない木製の柄の、先端についた鋭い金属を振り下ろす。到底リズミカルとは言えない拙さで、小さな体中を使って、持ち上げては振り下ろし、持ち上げては振り下ろす。ツルハシの先端が固い地面に突き刺さり、そのたびに鈍い音を立てた。
 少女は無言で地面にツルハシをぶつけ続ける。真っ黒なアスファルトは時々小さな欠片となって飛び跳ねた。履き古した編み上げブーツはアスファルトと同じ黒で、それが時々混ざり合って、少女の足がアスファルトと繋がっているようにも見えた。ただ皮のてらてらとした輝きだけが、自分は地面とは違うのだと主張している。
 額を流れ、頬を滑り落ち、汗が一粒アスファルトに落下した。

「……」

 そこでようやく頭を上げ、ツルハシを動かす腕を止めた。少女はぜえぜえと荒い息を吐き、ツルハシを杖のようにしてそれに自分の体重を掛けた。黒く穿った地面を見つめ、大きく溜息を吐き、そのまま力が抜けたようにずるずると座り込む。穴を中心に蜘蛛の巣のように割れた地面は日差しを受けて暖かい。ツルハシから手を離して地面につければ、汗ばんだ手が更に熱を吸い込んでいくようだった。
 少女は恨めしそうに放り出されたツルハシを見、割れた地面を見、そして上を見上げる。

「つかれたあ」

 もう一度溜息をついてそう叫ぶと、馬鹿にしたような、からかうような、そんな響きを持った男の声が後ろから聞こえた。

「だから言ったろ、お前にゃ無理だ」

 少女より一回りも二回りも大きい男は腕を組み、もう点くことがないだろう街灯に体を預けていた。男は唇を歪めて笑う。カーゴパンツのポケットから手袋を取り出し自分の手にはめると、悠々とした足取りで少女に近づいてくる。
 少女が精一杯の力で持ち上げたツルハシを、彼は軽々と持ち上げ自分の肩に載せて見せた。手慣れた様子でツルハシをくるくる回し、もう片方の手で座り込んだ少女の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「ほれ、立ち上がれ。あとは俺がやる」

 そもそもこれは俺の仕事だからな、と肩を竦めた男に促され立ち上がる。熱い手のひらをはたくとぱらぱらとアスファルトの破片が落ちた。流れた汗を指先で拭い、少女は立っていた場所を男に譲る。車も人も通らない幅の広い道路の中央には、男と少女二人きりだった。
 色褪せ掠れた白線を踏みつけ、少女は道路の続く先を見た。どこまでも続くのではないか、と不安さえ抱く道を壊す男の真意を少女は知らない。ツルハシを振り下ろす男の横顔を見ながら、どこかに繋がっているのだろう道が途切れるのを淡々と眺めているだけだ。時折、持ち慣れないツルハシを持ち上げ男の仕事を遊び半分に手伝いながら。
 少女のそれより格段に重い音を立ててツルハシが地面に振り下ろされる。地面が割れる。道はもう続かないと叫ぶようにひび割れた。男の黒いブーツはアスファルトと同じ色をしていて、それは少女も同じだった。
 ツルハシが空を切り、地面を割る音がただ響く。
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