シロウが来るのは土曜日の午後、高校の補習が終わった後だ。それなりのレベルの進学校に通うシロウ少年は、黒いエナメルバッグに教科書とノートと辞書とタオルとジャージを詰めて私が住む一軒家にやってくる。昼ご飯を用意するのは私だ。育ち盛りの少年は、人一倍の量を食べる。
パスタを茹でながらレタスの水気を切り、つやつや輝くトマトを切る。もうもうと上がる湯気を手で払いながら鍋の中身をかき混ぜた。あと数分で茹で上がるだろう。サラダボウルを取り出して、その中にちぎったレタスと六等分したトマトを入れる。それに油を抜いたシーチキンを載せればサラダの完成だ。シロウが愛してやまないゴマドレッシングと、私愛用の和風ドレッシングを食卓に出し、向かい合った席のちょうど真ん中にサラダを置く。
シンクの下からざるを出して水洗いし、鍋の中身をのぞき込んだ。ぐつぐつ茹だった透明な湯の中で、黄色のパスタがぐにゃぐにゃ曲がりながら踊っていた。そろそろ良いだろう。重い鍋の中身をざるにあけると目の前が見えなくなるほどの湯気が私を襲う。それに辟易しながらバターを入れて混ぜていると、ちょうど玄関から少年の声がした。ただいま、なのか、おじゃまします、なのか、はたまたこんにちは、なのか。残念ながらお湯が流れる音ではっきりとは聞こえなかったが、シロウの声であることは確かだった。
軽い足音は慣れた様子で洗面所に向かう。手を洗っているのだろう水音を聞きながら、私はアスパラと生ハムのソースにパスタを絡めた。あっさりとしたパスタを二つの皿に分け、ハーブで飾る。シロウの皿は私に比べて大盛りだ。その代わり、私の分にはハーブを多めに飾る。
古びた床を軋ませ、手を洗い終えたシロウがひょっこりと顔を出した。
「いらっしゃい。お昼ご飯出来たよ」
「なに?」
「サラダと生ハムのパスタ。生ハム食べたいって言ってたでしょ」
手を洗ってきたシロウは私の横にやってきて、嬉しそうに目を細めてパスタの皿を持って行く。二人分のフォークや箸が入ったカトラリーとグラスを出すと、それも持って行く。あとは取り皿を頼み、私は冷蔵庫からお茶を出した。運び終えたシロウは既に自分の席についていた。音量を抑えてつけたテレビからは当たり障りのない旅行番組が流れている。
私が彼の向かい側に座ると、どちらともなくフォークを手に取り、いただきます、と呟き合う。私とシロウの間にある会話は多くない。時々テレビの内容に触れ、それにシロウの学校生活や最近の出来事の話が混ざる。食事はごくごく静かなものだ。会話は続くときもあれば短く終わる時もある。それを寂しいと思ったことはない。私もシロウも、おしゃべりな性格ではないからだろう。
シロウは特に好き嫌いはないらしい。何を出してもぺろりと平らげる。食べっぷりは見ているこちらも気持ち良いもので、今日も私より多い量を、私より早く食べ終えた。何も残っていない皿を前に、シロウは私が食べ終えるのをゆっくり待つ。お茶をグラスに注ぎ直し、それを片手にテレビや私をぼんやり眺める。
私はちらりとシロウを見た。テレビに視線を向けた少年の横顔には、まだ微かな幼さが残っている。けれど男性らしい精悍さも含んだ顔かたちは、きっと同年代の少女たちには魅力的に映るだろう。爪を短く切りそろえた、大きな手がチャンネルを変えた。バラエティー番組につまらなそうな視線を投げかけるシロウは、しかし、今まで一度も浮ついた話を私に聞かせたことはない。聞かせるつもりがないのか、私に気を遣っているのか。はたまたそういう出来事がないのか。
テレビがまた旅行番組に変わり、スタッフロールが流れる。最後に白い花が映り、番組は終わった。名前の分からない白い花はいつも旅行番組の終わりにちらりと出てきて、奇妙に私の頭の中に焼きついて離れない。綺麗な花だ。花束か何かにされて人からもらったら、きっとすてきだろう。
皿にへばりついた生ハムの一枚を食べ終わると、また二人で小さくごちそうさまでした、と呟き合って食事は終わる。シロウは自分のと私のコップにお茶を注いでくれた。
「今日はクッキーにしようと思うんだけど」
「チョコチップと紅茶っぽいのが良い」
皿を重ねながら今日のおやつについて話すと、シロウは自分の希望を言葉少なに教えてくれる。そして彼はいつも通り二人分の食器をシンクへ運んだ。残ったお茶を飲み干しグラスを手に取り、ついたままのテレビを消す。私より頭一つ分身長が高いシロウは、窮屈そうに体を縮めて洗い物をしていた。
※サークルの原稿として提出しようと考えているけれども書き終えられないような気がする
パスタを茹でながらレタスの水気を切り、つやつや輝くトマトを切る。もうもうと上がる湯気を手で払いながら鍋の中身をかき混ぜた。あと数分で茹で上がるだろう。サラダボウルを取り出して、その中にちぎったレタスと六等分したトマトを入れる。それに油を抜いたシーチキンを載せればサラダの完成だ。シロウが愛してやまないゴマドレッシングと、私愛用の和風ドレッシングを食卓に出し、向かい合った席のちょうど真ん中にサラダを置く。
シンクの下からざるを出して水洗いし、鍋の中身をのぞき込んだ。ぐつぐつ茹だった透明な湯の中で、黄色のパスタがぐにゃぐにゃ曲がりながら踊っていた。そろそろ良いだろう。重い鍋の中身をざるにあけると目の前が見えなくなるほどの湯気が私を襲う。それに辟易しながらバターを入れて混ぜていると、ちょうど玄関から少年の声がした。ただいま、なのか、おじゃまします、なのか、はたまたこんにちは、なのか。残念ながらお湯が流れる音ではっきりとは聞こえなかったが、シロウの声であることは確かだった。
軽い足音は慣れた様子で洗面所に向かう。手を洗っているのだろう水音を聞きながら、私はアスパラと生ハムのソースにパスタを絡めた。あっさりとしたパスタを二つの皿に分け、ハーブで飾る。シロウの皿は私に比べて大盛りだ。その代わり、私の分にはハーブを多めに飾る。
古びた床を軋ませ、手を洗い終えたシロウがひょっこりと顔を出した。
「いらっしゃい。お昼ご飯出来たよ」
「なに?」
「サラダと生ハムのパスタ。生ハム食べたいって言ってたでしょ」
手を洗ってきたシロウは私の横にやってきて、嬉しそうに目を細めてパスタの皿を持って行く。二人分のフォークや箸が入ったカトラリーとグラスを出すと、それも持って行く。あとは取り皿を頼み、私は冷蔵庫からお茶を出した。運び終えたシロウは既に自分の席についていた。音量を抑えてつけたテレビからは当たり障りのない旅行番組が流れている。
私が彼の向かい側に座ると、どちらともなくフォークを手に取り、いただきます、と呟き合う。私とシロウの間にある会話は多くない。時々テレビの内容に触れ、それにシロウの学校生活や最近の出来事の話が混ざる。食事はごくごく静かなものだ。会話は続くときもあれば短く終わる時もある。それを寂しいと思ったことはない。私もシロウも、おしゃべりな性格ではないからだろう。
シロウは特に好き嫌いはないらしい。何を出してもぺろりと平らげる。食べっぷりは見ているこちらも気持ち良いもので、今日も私より多い量を、私より早く食べ終えた。何も残っていない皿を前に、シロウは私が食べ終えるのをゆっくり待つ。お茶をグラスに注ぎ直し、それを片手にテレビや私をぼんやり眺める。
私はちらりとシロウを見た。テレビに視線を向けた少年の横顔には、まだ微かな幼さが残っている。けれど男性らしい精悍さも含んだ顔かたちは、きっと同年代の少女たちには魅力的に映るだろう。爪を短く切りそろえた、大きな手がチャンネルを変えた。バラエティー番組につまらなそうな視線を投げかけるシロウは、しかし、今まで一度も浮ついた話を私に聞かせたことはない。聞かせるつもりがないのか、私に気を遣っているのか。はたまたそういう出来事がないのか。
テレビがまた旅行番組に変わり、スタッフロールが流れる。最後に白い花が映り、番組は終わった。名前の分からない白い花はいつも旅行番組の終わりにちらりと出てきて、奇妙に私の頭の中に焼きついて離れない。綺麗な花だ。花束か何かにされて人からもらったら、きっとすてきだろう。
皿にへばりついた生ハムの一枚を食べ終わると、また二人で小さくごちそうさまでした、と呟き合って食事は終わる。シロウは自分のと私のコップにお茶を注いでくれた。
「今日はクッキーにしようと思うんだけど」
「チョコチップと紅茶っぽいのが良い」
皿を重ねながら今日のおやつについて話すと、シロウは自分の希望を言葉少なに教えてくれる。そして彼はいつも通り二人分の食器をシンクへ運んだ。残ったお茶を飲み干しグラスを手に取り、ついたままのテレビを消す。私より頭一つ分身長が高いシロウは、窮屈そうに体を縮めて洗い物をしていた。
※サークルの原稿として提出しようと考えているけれども書き終えられないような気がする
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