忍者ブログ
Admin*Write*Comment
Bernadette
[185]  [183]  [182]  [181]  [180]  [179]  [178]  [177]  [176]  [175]  [174
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 何日も細々と降り続く雨のおかげで、煙草が湿気てよろしくない。くわえるだけくわえ、火をつけていない煙草を揺らしているその向こう側では今日も雨が降っている。霧に似た細かな雨は、しかし止む気配を一向に見せない。
「困ったもんだ」
 山と山に挟まれる夜街は、水が集まりやすい地形だ。一度に降る量が少ないとは言えこのまま降り続けるのには少々不安が残る。治水はなされているし、今まで水の害に遭ったことはほとんどないが、それでもこの雨は気になった。それに、雨の中の仕事ほど面倒なものはない。
 嘯く墓守は縁側に座ったまま、大きなため息を吐いた。それに反応したのは膝にのっていた黒猫だ。ぴくりと小さな耳を震わせ、金色の目を瞬かせる。主人の憂鬱を感じ取ったか、黒猫は気遣わしげに顔を上げて見せた。
 二つに分かれた黒い尻尾が揺れ、猫が口を開く。
「どこか悪いの。痛むの」
「うんにゃ、どこも悪くないし痛くない。強いて言えば、いつも通り目が自由すぎて困っているくらいだ」
「ならいつものことね」
「そうさね、いつものことだ」
 猫とのんびり言葉を交わし、墓守は煙草をまた揺らす。膝の猫はあくびを一つ、また丸まった。墓守の膝は彼女の特等席だ。しばらくのせているおかげで膝が重く痺れているが、体温がぬくぬくと温かい。雨で冷えた空気は重く沈むようだ。どんよりとした空の色と相まって、何もしようとする気が起きない。猫もまた、動かない主人に付き合ってか眠る以外のことをしようとはしなかった。

 そのけだるい静寂を破ったのは、躊躇うような足音だった。

 真っ先に反応したのは猫だ。さっきと同様ぴくりと耳を動かし、目を見開いて膝から降りた。とてとてとかわいらしい足音をたてて猫は廊下を玄関の方へ歩いていく。
 墓守は痺れの残る足をさすりながら、煙草に火をつけた。深く吸い込み白い煙を吐く。火がつきにくい煙草はどことなく雨の味がする。
 ややあって、離れていった足音が、もう一人分を伴って戻ってきた。
「いらっしゃい」
 墓守は重い腰を上げて立ち上がり、やってきた客人を迎える。吸いかけの煙草は灰皿で潰し、残るのは苦い後味だけだ。猫が甘えるように墓守の足にすり寄ってきた。仕事は果たした、と言わんばかりの様子で、客人にはもう見向きもしなかった。
 黒猫に先導されてやってきたのは、十五にも満たない少女だった。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
メール
URL
コメント
文字色
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
  • ABOUT
ネタ帳。思いついた文章を投下するだけの場所。
  • カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
  • プロフィール
HN:
瑞樹
性別:
非公開
  • ブログ内検索
Copyright © Bernadette All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]