忍者ブログ
Admin*Write*Comment
Bernadette
[89]  [88]  [87]  [86]  [85]  [84]  [83]  [82]  [81]  [80]  [79
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 美術大学に所属している身で言うのもなんだが、個性を主張するほど没個性的になっていく気がする。自分と同じように美術大学に入ってきた皆さんはどうやら個性的でありたいと願って美術を志しているらしい。口々に言う彼らを見ていると、だんだんとくちばしをぱくぱくさせる鳥のように見えてきて仕方ない。彼らの外見はまったくと違うけれども鳴き声はまったく同じなのだ。どうせならファルセットの一つでも出してみればいい。
 かくいう私はそういうことをこれっぽっちも考えずに入学してきたので、個性を叫ぶ周囲の中では少しおかしい存在だったかもしれない。私が美術大学を目指した理由は、結局造形に関して学びたいという、当然と言えば当然の理由だった。そんな人間が個性的と言われているこの皮肉さといったら。ご愁傷様。

 ミロのビーナスがある。
 あの像には両腕がない。それは周知の事実だ。
 では、あの失われた両腕を再現してみるというのは?
 おそらくそんなことを言えば失笑されるだろう。自分も十分理解している。再現するなど不可能なのだ。何せ、誰もその両腕がどんなものだったのかを見たことがないのだから。見たことのない物をを想像し、造形する。それが本物に限りなく近くなることはあるだろうけれども、結局は本物ではないのだ。しょせん想像の一つでしかない。
 おそらく私がしようとしているのもそういうことなのだろう。頭部と胴体、右腕。それ以外を私は作り出そうとしている。本物など見たことなど無いのに想像だけで再現しようとしている。勿論、不可能だと言うことは分かっているのだ。
 それでも必死で造形を学び、手を粘土で汚し、塗料で斑になる。私を突き動かしているこの衝動は一体何なのか。もしかしたら恋、なのかもしれない。

 私がその人形を見つけたのは、おそらく十歳前後だろうその人形と同じくらいの歳だったと思う。
 死んだ祖父が持っていた蔵の、一番奥に、豪奢な椅子に座っていた。座っていたと言うよりおかれていた、と言った方が良いかもしれない。人形は埃一つ被っていなかった。
 等身大の人形は、薄墨色の着物を着ていた。だがその体が不完全であることは着物の上からでも分かった。憂いに満ちた顔、首筋を辿って上半身、着物の袖から覗く右手。しかし左手はない。そして足もない。
 とても綺麗な人形だった。等身大の人形などマネキンぐらいしか見たことがなかった。黒とも灰色ともつかない瞳を縁取る長い睫毛、薄桃色の唇、長い黒髪。現実的すぎる造形は不気味を生み出すが、現実と想像のぎりぎりのラインの上に成り立つ人形だった。
 幼い私はその人形を見て心に決めたのだ。この人形が無くした左腕と両足を探そう。見つからないというのなら作り出そう。この人形を完成させよう。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
メール
URL
コメント
文字色
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
  • ABOUT
ネタ帳。思いついた文章を投下するだけの場所。
  • カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
  • プロフィール
HN:
瑞樹
性別:
非公開
  • ブログ内検索
Copyright © Bernadette All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]