トウギミが懐中時計を取り出し、開いて見せた。
短針は既に12を指し、長針はあと一歩。午前零時まであと一分だ。あと一分で今日が終わり、明日が今日に変わる。
カイエは視線を上げて壁に掛けられた絵画を正面から睨んだ。肖像画の中で女性は微笑んでいた。表面がくすんでいるのは火事にあった時の煤なのか、だがこの絵の持ち主が、それを処理しないのはおかしい。だとすれば元々この色合いだったのかもしれない。劣化と考えるには、この絵は新しすぎる。
「カイエ、あと十秒です」
トウギミが静かに告げた。
心の中で、一つ一つ数字を数え上げていく。
三、二、一。
〇を唱えた瞬間、くすんだ色合いの絵が燃え上がった。
「っあ」
思わず口から小さな声が出た。そうなると分かっていつつも驚きは隠せない。絵が燃えていた。激しい赤色の炎が陽炎のように揺らぎ、微笑む女性を覆っていく。
だがそれは幻だ。五歩分後ろに下がったカイエに、炎の熱は伝わっていない。
「トウギミ、熱いか」
「いえ、何も感じません」
「なら、これは」
カイエは唇を閉ざした。トウギミもまた無言で懐中時計の蓋を閉め、懐に戻す。女性の表情は変わらず、炎は燃え上がるだけで絵が焼け焦げた様子はない。
「哀れなことだ。この絵をどうにかしたところで、何か変わるって訳でも無かろうに」
短針は既に12を指し、長針はあと一歩。午前零時まであと一分だ。あと一分で今日が終わり、明日が今日に変わる。
カイエは視線を上げて壁に掛けられた絵画を正面から睨んだ。肖像画の中で女性は微笑んでいた。表面がくすんでいるのは火事にあった時の煤なのか、だがこの絵の持ち主が、それを処理しないのはおかしい。だとすれば元々この色合いだったのかもしれない。劣化と考えるには、この絵は新しすぎる。
「カイエ、あと十秒です」
トウギミが静かに告げた。
心の中で、一つ一つ数字を数え上げていく。
三、二、一。
〇を唱えた瞬間、くすんだ色合いの絵が燃え上がった。
「っあ」
思わず口から小さな声が出た。そうなると分かっていつつも驚きは隠せない。絵が燃えていた。激しい赤色の炎が陽炎のように揺らぎ、微笑む女性を覆っていく。
だがそれは幻だ。五歩分後ろに下がったカイエに、炎の熱は伝わっていない。
「トウギミ、熱いか」
「いえ、何も感じません」
「なら、これは」
カイエは唇を閉ざした。トウギミもまた無言で懐中時計の蓋を閉め、懐に戻す。女性の表情は変わらず、炎は燃え上がるだけで絵が焼け焦げた様子はない。
「哀れなことだ。この絵をどうにかしたところで、何か変わるって訳でも無かろうに」
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