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Bernadette
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 星間鉄道の車内はいつでも薄暗い。温かな色合いのライトだけでは、宇宙の暗がりをテラスには心許ないからだ。窓の外で煌めく星々のような輝きは、列車にはない。
 コンパートメントで向かい合う男が膝で広げているのは、黒いよく分からない何かだ。絵本のような厚みの板を二枚、繋げ合わせて開いたような形をしている。表面はてらてらしていて、あまり見たことのない材質だ。そのうち一枚には文字が書かれたたくさんのボタンがはめられ、もう一枚にボタンはない。代わりに、ボタンを押す度にそちらに何かが表示される。そして音が鳴る。
 男のそれは、音楽を再生するものらしい。再生するだけではなく、自分で音楽を弾くことも出来るという。僕の星にはなかったものだ。見た限りではレコードの一枚も入らなさそうな大きさだというのに、どういう訳かその板からは音楽が聞こえる。それもヴァイオリンの旋律が流れたと思えばコントラバスの重低音が響き、ティンパニの迫力に満ちた音が重なる。まるで中にオーケストラがまるまる入っているようだ。
 それに合わせて男は歌う。遙か遠くの星からやってきて、そしてまたどこかに去っていく。彼は旅人であり、唄歌いだと言う。
 今も男がボタンを押す度に聞いたこともない音楽が流れる。男は真剣な表情で、かちかちとボタンを押していた。美しい男だ。見たことのない色合いの髪の毛を緩く一つにまとめ、水のように澄んだ目はただひたすらに、板に向いている。男は僕よりも身長が高いのだが、実際の所戦うと僕よりよっぽど弱い。仕方のないことではあるが、男は何も自衛手段を持っていない。
「どうかしましたか」
 僕の視線に気付いたのか、男が不意に顔を上げた。
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