私の母は夢見がちな人で、そう言ってしまえば私の父も同じくらい、夢見がちな人だった。
いや、それは言葉が違うかもしれない。その子供である私が言うのも信用がないが、二人はどこか現実感がない。
父と母の馴れ初めは、父が勤めていたケーキ屋だという。
「あなたと結婚したら、わたし、毎日美味しいケーキが食べられるのかしら」
そんなことを言った母に、父は是と答え、まもなく二人は結婚した。その二年後には私が生まれた。
そして今日も父と母と私が揃った食卓にはケーキが並ぶ。父が母のために作ったケーキが。それを母は本当に美味しそうに食べる。父はそれを見て微笑む。私もまたケーキを口に運ぶ。けれど母のような表情を浮かべることは出来ない。なぜならケーキは母のためのものだからだ。私のために作られてはいないケーキは他人の味がする。結局二人の世界は二人だけで回っていて、私は一人ぽつんと取り残され、ケーキは半分食べてすぐ止める。
甘いはずの生クリームが口の中でべとべとと、まるで呪いか何かのように私の舌に絡みついた。
いや、それは言葉が違うかもしれない。その子供である私が言うのも信用がないが、二人はどこか現実感がない。
父と母の馴れ初めは、父が勤めていたケーキ屋だという。
「あなたと結婚したら、わたし、毎日美味しいケーキが食べられるのかしら」
そんなことを言った母に、父は是と答え、まもなく二人は結婚した。その二年後には私が生まれた。
そして今日も父と母と私が揃った食卓にはケーキが並ぶ。父が母のために作ったケーキが。それを母は本当に美味しそうに食べる。父はそれを見て微笑む。私もまたケーキを口に運ぶ。けれど母のような表情を浮かべることは出来ない。なぜならケーキは母のためのものだからだ。私のために作られてはいないケーキは他人の味がする。結局二人の世界は二人だけで回っていて、私は一人ぽつんと取り残され、ケーキは半分食べてすぐ止める。
甘いはずの生クリームが口の中でべとべとと、まるで呪いか何かのように私の舌に絡みついた。
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