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 アスファルトに身を投げ出して横たわる人を見たことがある。住宅街の車通りの少ない、それでも人が幾人か通る道でだ。冬には珍しくもない、大粒の軽い雪がちらちら降る、灰色の空の日だった。
 その人は黒い服を着ていた。その頃はまだ幼く理解していなかったが、おそらく彼が着ていたのは喪服だったのだろう。ただ何も知らない幼いレンは、真っ黒い、という印象だけを持った。真っ黒な男は何をする出もなく両手を広げ、口を軽く開け、ぼんやりと空を見ていた。
 彼はだんだんと、白い雪に覆われていった。
「ねえ、おじさん」
 危ないよ、寒くないの。そう声をかけたはずだ。男は最初何も反応しなかった。もしかして死んでいるのか、ぞっとしたレンはもう一度、ねえ、と強く声を発した。そこでようやく男の口が開閉した。空中を見つめていた目がきょろりと動き、服と同じように黒い目がレンを見た。
「……やあ」
 答えた男の声は掠れていたが、悪意やレンへの害意はなかった。身を投げ出したままの男は目だけを動かしレンを見た。
「ねえ、大丈夫?」
 動く気配のない彼に、レンは焦っていたのだろうか。車通りがないとは言え来ない訳ではない。人も通る。レンから見ても道の真ん中に人が転がっているのはおかしなことだ。だというのに男は一切動く気配を見せなかった。
 男は笑った。
「心配してくれているのかな」
「うん、そうだよ」
 素直にうなずくと、男は更に笑みを深めた。
「ありがとう。でも大丈夫だ」
「ほんとうに?」
「本当に。慣れていなくて、少し、落ちてしまっただけだから」
 落ちてしまった、という男は、そこでようやく手を動かした。右手が持ち上がり、顔に当たってきた雪を億劫そうに払う。冷えているのだろうか、手は青白かった。
「落ちてきたの?」
「そう、落ちてきたんだ」
「どこから?」
 男は何も言わず、ただ笑みを浮かべて右手の人差し指を上に向けた。レンは指し示した方を見上げる。重い灰色の空がそこには広がり、同じように雪が舞っていた。
 空を指した男は笑っていた。
「天国からきたのね」
 やはり男は何も言わなかった。
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