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Bernadette
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 夏野聖。わたしよりふたつ年上で、男。灰色のような青色のような不思議な目をしている。背が高い。顔の彫りがすこし深い。髪の毛の色が薄い。意外と肌が白い。でもひ弱ではない。眉間にしわがよっている。でもたぶんそれはまぶしいからで、不機嫌なわけではない、とおもう。
 今日は風が強い。風が吹くたび、目の前で色素の薄い髪と私の長い黒髪が揺れた。終わりかけた夏の、暑さをはらんだ風は耳元でごうごうと鳴っていた。声が聞こえない。そもそも聞こえなくて良い声なのかもしれない。耳をふさごうと思ってやめた。そうしたらきっと聖がわたしをよぶ声も聞こえなくなるから。
 そうしてふさがれなかった耳に届いたのは潮騒だった。
 海が近い。



 こんな夢を見た、と聖は言った。
 彼は夜の海にいた。海に浮かんでいた。まわりに陸のかげはなく、海は穏やかに凪いでいた。ちゃぷちゃぷと耳元で水の音がして、彼はただ波に揺られていた。暗い空には月が満ちた形で浮かんでいた。
 やがて、水面を刻むように雨が降りはじめた。それは激しいものではなく、静かな、細い雨だった。それでも月が見えていたから、まるで狐の嫁入りのような雨だった。
 彼の横にはもうひとり、ゆらゆらと揺れていた。彼のいもうとだった。彼によくにたいもうとは何も言わなかったけれども、彼とつないだ手をはなすことはなかった。時折いもうとの長い髪が波で揺れて彼の頬や肩を撫でた。水面に浮かんだ、色の薄い髪の毛は月明かりに照らされてとてもきれいだった。
 いもうとは何も言わず、静かに目を閉じていた。彼もまた、同じように目を閉じた。やがて波が二人をゆっくりと運んでいった。遠くへ、遠くへ。
 海の向こうにはきっと、二人の知らないところなのだろう。けれどおそろしさはなかった。二人はただ手を繋いだまま流されていく。その先になにがあるかは分からなかったけれども、二人一緒なら怖くはないだろうと、そう思っていた。

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