こんな夢を見た。
四角い棺に入っていた。その棺はわたしの体には少し小さく、どちらかというと浴槽に浸かっているようだった。ただし棺と言う名の浴槽に満たされているのは水ではなく、鮮やかなピンクの花であった。
花の香りで満ちていた。
上体を仰け反らせ、狭い棺の中で体を伸ばす。顔に何かが当たった。見上げると、暗闇からピンク色の花が降ってきているのだった。薔薇のように花びらが幾重にも重なったその花の名前をわたしは知らない。見たこともない。花の匂いは甘やかで、黒く囲まれた棺の周りに僅かな音をたてながら降り積もっていった。
喪服を着た男がいた。
黒髪を後ろに撫でつけたまだ若い男は静かな目で棺に入ったわたしを見ていた。煙草を口に銜えていた。煙がゆったり流れ始めると、降り続けていた花の雨が止んだ。雪のように積もった花に足を埋め、男はわたしをじっと見つめていた。
わたしもまた彼を見つめていた。
彼はゆったりと微笑んだ。苦笑のような、子供をあやす大人のような笑い方だった。お前のことは分かっているよとでも、言いたげなまなざしをしていた。
腕を伸ばし、近付いてくる彼の手首を掴む。さくりさくりとまるで雪を踏むような足音を響かせながら彼は煙草をくゆらす。掴んだ手首は想像していたよりも細く、袖から伸びた手は青白かった。
掴まれた手とは逆の手で、彼は煙草を持った。いまだ煙の上がる煙草は不思議とさっきから減っていない。だが火はいまだ赤くくすぶり、黒色に慣れたわたしの視覚を刺激した。
お前の言いたいことは分かっているよ。彼の目が言う。
彼の手が、煙草を持った手が、わたしの棺に近付いてくる。棺の中の花に近付いてくる。身を埋めるピンクの花は浴槽のような棺の中で、しかし水ではない。葬ってくれ。わたしは言う。お前のその火でわたしを葬ってくれ。
紙に火がつくよりもたやすく花は燃え上がった。花から花へ火が燃え移る様は素早かったが、わたしの目にはひどくゆっくりと映った。炎は花に埋もれたわたしの体も同じように灰に変えていく。わたしはいまだ彼の手首を掴んだままだったが、彼は棺の傍に寄り添うように片膝をついて、燃える火を眺めていた。
すまないな、とわたしは言った。もうしばらく待ってくれ。そうしたらわたしは真っ黒に燃えて灰になるだろう。そうしたらお前にぜんぶやろう。もう少し待っていてくれ。
彼は微笑んだ。その笑みが悲しげだったことに、目が焼かれ始めてようやく気付いた。さようなら、とわたしと彼の口が同時に動いたところで、すべて見えなくなった。
四角い棺に入っていた。その棺はわたしの体には少し小さく、どちらかというと浴槽に浸かっているようだった。ただし棺と言う名の浴槽に満たされているのは水ではなく、鮮やかなピンクの花であった。
花の香りで満ちていた。
上体を仰け反らせ、狭い棺の中で体を伸ばす。顔に何かが当たった。見上げると、暗闇からピンク色の花が降ってきているのだった。薔薇のように花びらが幾重にも重なったその花の名前をわたしは知らない。見たこともない。花の匂いは甘やかで、黒く囲まれた棺の周りに僅かな音をたてながら降り積もっていった。
喪服を着た男がいた。
黒髪を後ろに撫でつけたまだ若い男は静かな目で棺に入ったわたしを見ていた。煙草を口に銜えていた。煙がゆったり流れ始めると、降り続けていた花の雨が止んだ。雪のように積もった花に足を埋め、男はわたしをじっと見つめていた。
わたしもまた彼を見つめていた。
彼はゆったりと微笑んだ。苦笑のような、子供をあやす大人のような笑い方だった。お前のことは分かっているよとでも、言いたげなまなざしをしていた。
腕を伸ばし、近付いてくる彼の手首を掴む。さくりさくりとまるで雪を踏むような足音を響かせながら彼は煙草をくゆらす。掴んだ手首は想像していたよりも細く、袖から伸びた手は青白かった。
掴まれた手とは逆の手で、彼は煙草を持った。いまだ煙の上がる煙草は不思議とさっきから減っていない。だが火はいまだ赤くくすぶり、黒色に慣れたわたしの視覚を刺激した。
お前の言いたいことは分かっているよ。彼の目が言う。
彼の手が、煙草を持った手が、わたしの棺に近付いてくる。棺の中の花に近付いてくる。身を埋めるピンクの花は浴槽のような棺の中で、しかし水ではない。葬ってくれ。わたしは言う。お前のその火でわたしを葬ってくれ。
紙に火がつくよりもたやすく花は燃え上がった。花から花へ火が燃え移る様は素早かったが、わたしの目にはひどくゆっくりと映った。炎は花に埋もれたわたしの体も同じように灰に変えていく。わたしはいまだ彼の手首を掴んだままだったが、彼は棺の傍に寄り添うように片膝をついて、燃える火を眺めていた。
すまないな、とわたしは言った。もうしばらく待ってくれ。そうしたらわたしは真っ黒に燃えて灰になるだろう。そうしたらお前にぜんぶやろう。もう少し待っていてくれ。
彼は微笑んだ。その笑みが悲しげだったことに、目が焼かれ始めてようやく気付いた。さようなら、とわたしと彼の口が同時に動いたところで、すべて見えなくなった。
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