オープントゥ・パンプスは、海に似た色をしていた。
手にしたそれを上から、下から、横から眺める。エナメルの独特の艶が店内の明るい照明を反射して輝いた。細いベルトにはアンティークゴールドの金具がついている。シンプルだが品の良い、落ち着いたパンプスだ。一目で気に入ったそれを履こうとして、ヒールの高さに気づいた。
姿見の前に立ち、蓮は自分の姿を見た。癖のある黒髪は長くない。クリーム色のVネックセーターにシンプルなジーンズ、そしてスニーカー。女にしてはだいぶ身長が高い。履いているスニーカーはぺたんこで、それでも背が高いという事実は変わらない。手にしたパンプスはざっと五センチほどのヒールだ。単純計算でも結果が酷いことになる。どうしようもない気分になった。
何より、蓮は普段から高いヒールを履かないようにしている。慣れない靴を履けばどんなことになるか、分からないはずがない。
どうしようもない気分のまま棚に戻そうとして、手が止まった。手の中の深海色が誘惑するように、目を離せなくなった。蓮は小さく唸った。買っても良いのだろうか。誰ともない誰かに許可を取りたくなった。
「お客様、もしよろしければ試着してみては?」
タイミングを計ったように女性店員が笑顔で話しかけてきた。
それが決定打になったことは言うまでも無い。
椿屋に入ると、甘い匂いがした。一瞬遅れてコーヒーや紅茶の香りが混じる。飴色の床に一歩踏み出すとかつん、と固い音がした。自分の足音に自分で驚きながらなるべく音を立てないように歩く。その蓮の姿を店主が不思議そうな目で見ていたかと思うと、顔を背けてくつくつと笑い始めた。自分の顔が苦虫をかみつぶしたような表情になるのが分かった。顔を逸らし、慎重に歩く。
「転ぶなよ」
「転びませんよ」
「どうだかな」
手にしたそれを上から、下から、横から眺める。エナメルの独特の艶が店内の明るい照明を反射して輝いた。細いベルトにはアンティークゴールドの金具がついている。シンプルだが品の良い、落ち着いたパンプスだ。一目で気に入ったそれを履こうとして、ヒールの高さに気づいた。
姿見の前に立ち、蓮は自分の姿を見た。癖のある黒髪は長くない。クリーム色のVネックセーターにシンプルなジーンズ、そしてスニーカー。女にしてはだいぶ身長が高い。履いているスニーカーはぺたんこで、それでも背が高いという事実は変わらない。手にしたパンプスはざっと五センチほどのヒールだ。単純計算でも結果が酷いことになる。どうしようもない気分になった。
何より、蓮は普段から高いヒールを履かないようにしている。慣れない靴を履けばどんなことになるか、分からないはずがない。
どうしようもない気分のまま棚に戻そうとして、手が止まった。手の中の深海色が誘惑するように、目を離せなくなった。蓮は小さく唸った。買っても良いのだろうか。誰ともない誰かに許可を取りたくなった。
「お客様、もしよろしければ試着してみては?」
タイミングを計ったように女性店員が笑顔で話しかけてきた。
それが決定打になったことは言うまでも無い。
椿屋に入ると、甘い匂いがした。一瞬遅れてコーヒーや紅茶の香りが混じる。飴色の床に一歩踏み出すとかつん、と固い音がした。自分の足音に自分で驚きながらなるべく音を立てないように歩く。その蓮の姿を店主が不思議そうな目で見ていたかと思うと、顔を背けてくつくつと笑い始めた。自分の顔が苦虫をかみつぶしたような表情になるのが分かった。顔を逸らし、慎重に歩く。
「転ぶなよ」
「転びませんよ」
「どうだかな」
PR
この記事にコメントする