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Bernadette
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「追う必要はないぞ」

薬師の声を聞いたタイラが不思議そうな顔をして追い掛けようとしていた足を止めた。冷静そうに見えるが彼女は随分と焦っているようで、自分が靴を履いていないことに気付いていない。ソファーの横に積み上がった靴の箱から、適当なローファーを取り出しタイラに放った。そこでようやく素足に気付いたようだった。

「つまり、どういうこと?」
「つまり、そういうこと」

薬師も自分のスニーカーを、ことさらゆっくり履く。既にローファーを履いたタイラはドアを開けて外に出ている。焦るなよ、とのんびり言うと、つまりは、とタイラが遮った。

「追わなくて良いのは、そういうこと?」
「追わなくて良いのは、そういうこと」

いつものように答えると、ようやく納得したのかタイラは大きく息を吐いた。鍵を閉め、エレベーターの下行きのボタンを押す。一階上からエレベーターが到着し、ドアが開いた。二人で乗り込み、一階に降りた。さっきまで降っていたはずの雨は止み、青空が見えていた。
マンションの前に人だかりが出来ていた。タイラが無言でマンションから出る。その背を追いながら薬師も人だかりの方へ向かう。事故だ、人が、という声が聞こえた。
タイラの足が止まった。人と人の間から、道に直角になるように止まった車と、道路に転がる誰かが見えた。人と車が衝突したのだと一目見て分かった。転がる誰かの方はちょうど人混みが邪魔になって顔が見えなかったが、ダークグレーの袖が見えた。そして、その手に握られたナイフも見えた。
救急車を呼んでくれ、誰か、飛び出しだ、ありゃ即死だろ。目撃者が口々に言う。タイラは無言でそれを見ていた。薬師は事故現場から目をそらし、ただタイラの方を向く。

「な、言ったろ」
「そうだね。こういうの、必然とかって言うのかな」
「人によっては運命とか言うんじゃねえの。どっちにしろくだらない」
「そうだね、人の生死なんてくだらないことだね」
「そうさ、俺があの人があと何分で死ぬのか分かってたってことも、くだらないことだ」
「分かりながらあの時、止めなかったってこともくだらないこと?」

 タイラはからかいを含んだ声と笑顔で、薬師の顔をのぞき込んだ。面倒そうにそれを手で払い、薬師は答える。

「いや、それは大切なことってヤツだ」
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