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Bernadette
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艶やかな白い携帯電話は光らない。
開く。煌々とした画面に新着メールの文字を探したがある訳がなく、ただ持ち主の心を乱すだけだった。
メールが来ない。いつもなら今頃来るはずのメールが来ない。毎日のように、よく話題が尽きないなと呆れと感心の混じる、メールが来ない。

(おかしいな)

毎日届くメールをうっとうしく思う、それに変わりはない。届き始めたその日から、無駄なメールばかりがメールボックスを埋めていった。疎ましい、と返事を送ったこともあったし、最近は返信するのさえ面倒になって何も返事を送っていない。それでも届く他愛もない電子の手紙が今日は届かない。今日に限って、届かない。
そう、疎ましいはずなのに。

(おかしくなんか、ない)

認めよう、と思った。疎ましいと思っているのはただの意地だ。きっと、とっくの昔にメールを心のよりどころにしていたのだ。そうでなければ、誕生日に送られてきた一際華やかなそれに鍵を掛けることもない。送られてきた写真をSDカードに保存することもない。認めてしまおう、毎日同じ時間に届くそのメールが、本当はとても嬉しい物であることを。
だから、どうか、どうか。
震える指が動く。勝手に新規メールを選択し、数少ないアドレスから一人選ぶ。何か書こうとして、何を書けばいいのか分からなかった。だから、白紙のまま送信ボタンを押した。
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 体がだるい。気持ちが悪い。世界がぐるぐるまわっている。

「死にそ」

 意味のある単語を吐き出すのさえ面倒くさい。口を開けば意味のない呻きだけが上がる。吐く息が熱い。体の中にこもった熱を口から吐き出しているような気がした。

「死ぬの?」

 冷静に聞き返されてつまらない気分になった。それも一瞬のことで苦しさが上回る。ベッドの横に椅子を移動させ、座っている少女を見た。

「死にそう、だ」
「そう」

 あくまで冷静だ。

「でも、死なれたらわたしはきっと泣くだろうね」
「、へえ」
「どうでも良いことで死んだあなたを思い出してそのたびに泣く。水分の無駄。それってとっても面倒くさい」

 だから、と少女は言う。

「だから死なないでね」
oe
 消毒液とガーゼとテープをビニール袋に、小林は薬局を後にした。湿った空気は梅雨の匂いがする。すぐそばのベンチに座っている黒崎がぼんやりとした視線を宙に向けていた。彼の頬には三本、赤い線が走っている。ペイントでも何でもない、滲んだ血の色だ。ビニール袋を音をたてて揺らすと、彼の目が動いて小林を見た。隣に吉田はいない。どこに行ったのか、問う前に黒崎の指が薬局の反対側を指した。
 自販機、そしてその前に立つ灰色のような銀色のような頭が見える。
「……ん」
 濡れたベンチをタオルで拭き、黒崎の横に腰掛ける。買って来た消毒液を取り出したところで、脱脂綿を買い忘れたことに気付いた。また買いに行こうかとも考えたが、それに気付いた黒崎がポケットティッシュを取り出してくれたのでそれを使うことにした。嗅覚を刺激する匂いに顔を顰めながら、消毒液でしめらせたティッシュを黒崎の頬に当てた。彼の顔も同じように顰められたのが見えた。
「痛いか?」
「痛いな。ドSめ」
「なんとでも言え」
 軽口をたたけるくらいには彼も落ち着いたようだった。内心安堵のため息をつきつつガーゼとテープの封を切る。頬の傷を隠せるか心配していたが、ガーゼはなんとか覆える程度の大きさだった。黒崎自身にも抑えてもらい、ガーゼを頬に当ててテープで固定した。真っ白なガーゼは悪目立ちするが仕方ないと割り切ってもらうことにした。
OE
 頬にガーゼを当てて帰宅した家主はひどく不機嫌そうな顔をしていた。それでも床に寝転んでいた41を見る目はいつものように穏やかで、表情と目の感情が違うことに41は目をぱちぱちさせた。
「ただいま」
「おかえりぃ。どうしたそれ」
「殴られた」
「え?」
 素直に驚いた。またまばたきをする。家主はふいと顔を背け、着ていたジャケットをハンガーに掛けた。冷蔵庫を開け缶コーヒーを取り出す。横顔には悪目立ちする白いガーゼが存在感を主張していた。
「めずらしー。黒崎らしくない」
「俺もそう思う。人様の事情に頭突っ込んだ結果がコレだよ」
「ふぅん?」
 プルタブが開けられた。
「41はさ、この部屋にいて不便?」
 コーヒーの匂いがした。彼が飲むコーヒーはいつでもブラックだ。
「へ、なんでさ」
「いや、なんとなく」
「嘘つけ」
「ああ嘘だな」
「んでなんだよ」
「答えたくなかったら」
 答えなくて良い、と家主は言う。
「俺は別に、不便とか感じないけどなあ」
 だから答えた。
「……そうか」
「なに、心配だった?」
「ちょっとだけな」
 今更なことだと41は笑う。
「不便とか感じてたらとっくの昔に消えてるよ」
O E
 人間は考える葦であると言ったのは誰だったか。
 だとすれば思考しない人間は、一体何なのだろうか。葦でなければ人間でもないのだろうか。思考することは頭を使う。エネルギーを使う。それを面倒だと思った時点で人間以下に成り下がってしまうとしたら、由々しき事態だ。
 しかし、由々しき事態だからといって何か出来る訳でもないのだが。
 何かを考えよう、と考えるのを止めた。確定した昨日のことも不確定な明日のこともすべて、流れることしか能のない時間に任せてしまえばいい。自分はただそこにいて呼吸をしている。人間は考える葦である。だから考えることをしない自分という存在は人間以下、葦ですらないと言うことになる。
 それで良いと認めてしまった時点で何かが変わったような気もしたが、それはどうでも良いことだ。ベッドの上で寝返りを打つ。閉めたカーテンの隙間から差し込んでくる光が眩しかった。

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