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Bernadette
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ひらめきで作られた物は無難な物よりも最悪に傾いた物の方が多いと黒崎はよく思う。そう思うようになった原因は、その黒崎の前で苦笑いを浮かべていた。
笑ってる場合じゃないだろ、と沈黙を断ち切るように呟いた。

「なにこれ」
「食べ物」
「食べ物ですらねえ」

白い皿に盛られた焼きそばらしき物体を指さす。タカが気まずげに視線を逸らした。

「なにこれ」

もう一度尋ねる。

「食べ物のはず」

揺らぎが生じてきた。

「食べ物ですらねえ」
「食べ物のはずなんだよ」
「まったくそう見えないんだが」
「眼鏡買ったら」
「まずはお前が買った方良いよ」

焼きそばのソースの匂いに混じって魚の生臭いような美味しいような微妙な匂いが漂ってくる。顔を寄せて焼きそばらしき物体を観察すると、煮干しの頭らしき物が見えた。
何かを言う気力が無くなり睨みつけると、タカは慌てたように弁解を始めた。

「食べる物と食べる物を混ぜたんだから食べ物のはずなんだ。カクテルだってそうだろ」
「カクテルとお前の思いつきの料理を一緒にするな」
「いや、大丈夫だって。大丈夫。見た目グロいけど食えるって」
「味の保証は」
「食えば分かる」

差し出された割り箸を無言で受け取り、二本に割る。黒崎に倣ってタカも割り箸を割った。しかし二人の手はそれ以上動かず、宙に浮いたままだった。
煮干し焼きそばは二人の目の前で、外見だけは美味しそうな湯気を放っている。
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 あたしの目の前で缶のプルタブを開ける、その手が好き。
「どうぞ」
「ん」
 クリームソーダ色の爪。せっかく塗ったネイルが剥がれないようにと、彼は静かに笑ってプルタブを開けてくれた。恥ずかしいような嬉しいような気持ちでいっぱいになって、言葉少なに受け取りそっと口を付ける。温かいカフェオレはいつもより甘い気がした。
 彼も温かい飲み物を選んだけれど、それはあたしとは違う、ブラックコーヒーだった。苦い香りが隣のあたしにまで届いてくる。普段は甘党なのに、ブラックコーヒーなのが不思議だった。
「ね、なんでブラックなの?」
 するりと口からでた疑問は、彼を困らせたようだ。言葉を探すように視線が泳ぐ。答えにくい事情があるのかと思ったけれど、そういうわけではないみたいだ。
「昔は、男で甘党なのが恥ずかしかったから、我慢してブラックに近いのを飲んでた。確か中学生くらいの頃」
「若いねー」
「俺はまだ若いよ」
 茶化すと、やはり困ったように笑って見せた。
「でも、今は? 普通に甘党のままでしょ」
「甘党だな。なんでだろ。分からない」
 結構真剣に悩み始めたので、慌てて止めた。
「別に良いよ、真剣に考えなくて」
「そう?」
 小さく首を傾げて、彼はコーヒーに口を付けた。あたしは缶を握りしめて暖をとる。北風が冷たい。マフラーに口元を埋めると、カフェオレの香りがした。
「さむーい」
「寒いな。今日は雪が降るかも。電車止まるかな」
「考えることが現実的すぎるよ」
「俺はリアリストなんです」
「嘘つき」
 ふざけ半分で彼のマフラーを引っ張ると、予想以上に体が傾き彼の顔が近くなった。
 あ、ブラックコーヒーの香り。
「・・・・・・あたしもブラックコーヒー、飲んでみようかな」
「ん?」
 あたしの唐突な呟きに、彼は不思議そうな顔をした。なんでもないとごまかしてマフラーを離した。コーヒーの香りは冷たい風に吹かれてあっさりと消えてしまう。名残惜しい気分を無理矢理カフェオレと一緒に飲み込んだ。その横で平然とノンシュガーの、彼。
 クリームソーダ色の爪を見る。明日は彼のような、ブラックコーヒーのような、そんな黒にしてみようか。
「ねえねえ、明日、マニキュア塗って。黒いの」
「俺が?」
「あたしの爪を塗るの。ずっと前やってくれたでしょ」
「俺、そんなに上手くないぞ。知ってるだろ」
「良いの、見てるこっちは楽しいから」
 そういえば、小さい頃はブラックコーヒーを飲める人は大人に見えていた。けれど実際はそんなことなどないのだ。あたしはまだ苦いコーヒーは飲めない。
 けれど、そういう意味でなら彼は大人なんだろう。じゃあ、あたしは子供のままで良いや。
「失敗しても知らないからな」
 小さくため息をつく彼は、やはりブラックコーヒーの香りがした。



・成人前後のイメージ。
・女の子一人称。
・真冬。
 退屈なら死んでも良いというのが綺堂の口癖だ。
「やることないなあ」
 その綺堂は今、黒崎の目の前でアップルパイを解体していた。フォーク一本で器用にパイ生地をどんどんとはがしていくのは見物だったが、しかし褒められた行為ではない。甘い色のリンゴが現れたところで、黒崎はそのリンゴが解体の憂き目に遭う前に自分のフォークで突き刺した。憮然とした表情になった綺堂を無視して口に放る。
「ひどい、私の」
「知ってる」
 仕返しとばかりに、綺堂のフォークが黒崎のガトーショコラに伸びてきた。解体、あるいは突き刺される前に皿を持ち上げ救出する。綺堂の期限が目に見えて悪くなった。
 平日の午後、ランチタイムを過ぎた喫茶店にはどことなくけだるげな空気が漂っていた。店内に流れるフレンチポップの甘さが、更にそうさせているのかもしれない。談笑よりも本や新聞をめくる音の方が耳によく届いた。カウンターの向こうにいるはずの店員は、今は奥に行ってしまったようで姿が見えなかった。
 黒崎への反撃を諦めたのか、綺堂は不機嫌そうなままフォークを置いた。
「ねえクロちゃん、私、暇なんだけど」
「俺はそうでもない」
「そればっかり!」
「だって俺、暇なの好きだし。忙しいのやだ」
「忙しい方が良いじゃない、だって、暇だと死んじゃいそう」
「暇で死んだ人はきっといないよ」
「絶対いる」
「いないって」
 意味のない言い争いを続けながら冷めかけたコーヒーを口にする。シュガースティック半分の砂糖が入ったコーヒーは、まだ苦いとしか感じられない。
 向かい側に座る綺堂は、自分のアイスティーにシロップとミルクをどちらも二個ずつ入れていた。甘過ぎじゃないかと思ったが、彼女はそれでちょうど良いらしかった。
 黒崎の視線に気づいた綺堂が、ようやくいつもの表情に戻った。その目には、無邪気ないたずらっ子の笑みが浮かんでいた。
「無理しないで、砂糖全部入れちゃえば良いじゃない」
「これで十分だよ」
「うそつき。甘党のくせに」
「きーちゃんほどじゃないし。あと、ブラックコーヒー飲めるようになりたい」
「どうして? 甘いのじゃ駄目なの?」
 今度は、黒崎が不機嫌になる番だった。別に良いじゃないか理由なんて、と早口でまくしたて、コーヒーを啜る。しかし綺堂はそれで話を終わらせるつもりはないらしく、どうしてどうして、と体を乗り出してくる。それを徹底的に無視していると、やがてテーブルの下で綺堂の足が黒崎の足を踏み始めた。
「や、止めろよ。制服汚れるじゃん」
「私は気にしないもん」
「俺は気にする」
「じゃあ私も、クロちゃんがブラックコーヒー飲む理由を気にする」
「何それ、ひどいじゃないか」
「ひどくないよ」
 しばらくひどい、ひどくないと意味のない言い争いを続け、ついでにテーブルの下で攻防戦を繰り広げ、黒崎のコーヒーが完全に冷める頃になってようやく二人は言い争いと攻防戦を止めた。
 どういう訳か勝ち誇ったような表情の綺堂が、数分前の話題をまた蒸し返す。
「それで、どうしてブラックコーヒーなの」
 アイスティーの氷がからからと音を立てる。自分でも分かるほど機嫌の悪そうな顔で、黒崎は小さく答えた。
「だって俺、男だし。甘党だとおかしいじゃん。だからコーヒーぐらいは砂糖なしで飲めるようになりたい」
 それを聞いて綺堂は笑うのではないかと黒崎は思っていたが、しかし綺堂は笑うどころか、悲しそうな顔をした。
「えー、甘党のままでいてよクロちゃん」
「なんで」
「だって、クロちゃん甘いもの食べなくなったらつまんない。一緒に喫茶店来ても楽しくないよ」
 だから甘党のままでいてよ、と綺堂は言う。 
「そんで、いつか一緒にケーキバイキング行こう」
 どう反応するべきか迷う黒崎を知ってか知らずか、綺堂はアイスティーを飲み干し、解体していたアップルパイを食べ始めた。なんとなく黒崎も、ガトーショコラにフォークを刺す。綺堂の言葉を脳内で消化しながらガトーショコラを口に運ぶと、チョコレートの甘さが残っていたコーヒーの苦さと混じりあって不思議な味がした。
 目の前の綺堂はさっさと自分の分のアップルパイを食べ終えていた。
「ねえクロちゃん、前言撤回。暇だから今から行こう、ケーキバイキング」
「へ?」
「この辺あったでしょ」
「いや、あったはずだけど。ていうかこの格好で? しかも俺、今月のお小遣いヤバい」
「私もヤバいよ!」
「駄目じゃん!」
「えーい気にしない。もーらいっ」
「あっ」
 自分の詰め襟の学制服と財布の軽さを嘆く黒崎の目の前からガトーショコラが消えた。綺堂が隙をついて奪ったのだ。黒崎の手が伸びる前に、それは綺堂の口の中に消えてしまった。
「ひどい、俺の」
「知ってる」
 少し前会話をそのまま再現した自分達に呆れながら、黒崎はため息をついた。そして、コーヒーを一気に飲み干す。それを確認した綺堂はさっさと会計に向かう。慌てて鞄をつかみ、その背中を追いかけた。
 口中に広がった苦みは、まだ慣れない。
 まあ良いか、と黒崎は思った。



・14歳くらいがイメージ。
・きーちゃんとクロちゃん呼びだった頃。
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