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Bernadette
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 考えてはいるけど多分生きない設定の墓場。主にハナツキ男とその周辺。
 キャラ一覧作った方良いのかねえ。

 そして実は永世とシラヌイはBL要員のつもりだったなんて言えない。

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 ルウは何も持っていなかった。乱れたセーラー服に裸足で、真っ赤な目。いつもはさらさらの髪の毛は無残な有様で、涙を流す目と頬は真っ赤だった。
 ルウは言った。わたし、もう、いえにかえれない。じゃあどうするの? 問いかけた私にルウは言う。
 夜街に行く。


 夜街の入り口は、山を登った先にあるらしい。でも、ふつうの登山道からは行けない。登っている途中に獣道に入らなければならないらしいけれど、一体どの辺りを指しているかなんてさっぱり分からなかった。
 でも、ルウの足取りは確かな物だった。私が貸したスニーカーにセーラー服で、草がぼうぼうに生い茂った山道を無言で登った。私は彼女にジャージを貸そうかと申し出たが、彼女はかたくなに拒んだ。行けるか分からないところに行こうというのに、食糧も何も持とうとしなかった。だから私は動きやすいジャージに、ルウと私の分のパーカーと食べ物とタオルをリュックに詰めて背負った。
 山道は一歩を踏み出すのさえ大変だった。びっくりするほど息が切れて、私もルウも足を何度も止めた。持ってきた水が役に立った。休憩の度に彼女に水を差し出すと、ルウは何度もありがとう、と小さな声で言った。
 山の中腹に来た辺りで、ルウはいきなり登山道を外れた。どうしたの、と聞くと、こっちに夜街があるみたい、と答えた。私は半信半疑のまま、彼女の背中を追った。セーラー服の細い背中が妙に、確信に満ちていた。


 イサナは変わった男だ。夜街を歩き回り見張る宵待衆の彼は、ほかの宵待衆よりも外に行く機会が多い。別に誰も、夜街すらもそれを止めないので、きっと許されていることなのだろう。三日に一度は必ず門をくぐり山道を行き、鳥居をくぐって外に出る。時々私を抱いて、だ。
 イサナはチョコレートが好きだ。一日一枚、多いときだと五枚、板の形状をしたそれを貪り食う。ぱきんぱきん、と鋭い歯で折って、無表情に飲み込む。なぜ板チョコばっかりなのかというと、それが一番効率がよいからだという。ゴミも最小限で済むし、味も無難なのだと言っていた。彼が外に頻繁に行くのは、このチョコレートが欲しいからだというのも理由の一つだ。
 宵待衆の詰め所の屋根に乗り、のんびりあくびをしていると、黒い布で顔を覆ったイサナが私を呼んだ。見回りが終わったのだ。入れ違いにトオツが詰め所から出て、イサナと見回りを交代する。イサナよりも一回り大きな体はするりと街の中に消えていった。
 詰め所に入るイサナを追って、私は屋根から降りて彼の足にすり寄った。ごろごろと喉を鳴らすと、彼の手が私を抱き上げる。チョコレートの匂いが染み着いた手だ。甘い匂いは、私は決して食べないけれど嫌いじゃない。ごろごろ、ごろごろ。
 詰め所には今はイサナしかいない。夜街の見回りだけではない、夜街に続く入り口の見張りもしなければならないからだ。たぶん、もう少ししたら別の見回りが帰ってくる。そうしたらイサナはまた行くのだろう。彼は私を抱いたままチョコレートを取り出し、黒い布をつけたまま食べ始めた。小気味の良い音を立ててチョコレートが割れる。甘い匂いがする。
 軽い足音がしたのは、彼が今日の分の板チョコを残り四分の一まで減らした時だった。
 私はイサナの腕を蹴って降り、入り口まで近づく。イサナが首を傾げながら後ろをついてきた。足音は躊躇いがちに近づいてくる。目を凝らすと、詰め所に向かって子供がぼんやり歩いてきていた。
 にゃあ、と私はイサナに向かって鳴いた。あの子供、どうするの?
 気付いたイサナはチョコレートを仕舞い込むと、慎重に足を踏み出した。


 ワンピースを着た子供は茫洋とした目でふらふらと歩いていた。詰め所から出てきたイサナに気付いた様子もなく、惰性のように足を踏み出しては地面を蹴り、踏み出しては蹴る。裸足だった。
 イサナは無言で子供の肩をつかんだ。子供は何も反応しない。動きを止めようともしない。イサナが強く揺さぶる。どことも知れないどこかを見ていた子供の目が緩やかに瞬いた。
「もしもし?」
 耳元で声をかけると、また瞬きをした。ぱちぱち。ぱちぱち。私はにゃあと鳴く。子供の目が私を見た。
「……ねこ」
 そうですよ、私は猫ですよ。イサナが身を引いた。子供は夢から覚めたように顔を上げ、おそるおそる周りを見渡した。乾いた髪が頭を振るたびに揺れる。不安げな顔をした子供は小さな手でワンピースの裾をつかみ、目を潤ませた。
「ここ、どこ」
 綺麗なものですね、と男は言う。
 白い着物を着たタマズサの髪を一房、シラヌイの手がとった。骨張った男の手は、まだ十歳といくらかを過ぎたくらいのタマズサのそれと比べれば格段に大きい。タマズサはシラヌイの手が好きだ。銀色の毛並みを思い出させる白い手だ。だが女のような弱さはない。彼の男らしい手は暖かい。
 焼けた色合いの尻尾を振る。タマズサは目を細めて彼の手を取った。それに頬を擦り寄せればシラヌイは優しく髪の毛を撫でてくれる。彼の隣で丸まって眠りたいと思ったが、そうすれば着物が乱れてしまうだろう。重く真っ白な着物をまた着る苦労を考えて止めた。

「きれい?」
「ええ、綺麗ですよ」

 お世辞でもなんでもない、彼の心からの言葉だと言うことをタマズサは知っている。彼は滅多に表情を崩さない。冷たい印象を受ける白い面は、しかし慣れたタマズサには怖いものではない。むしろ表情がかすかに揺れる、その小さな変化から彼がどう思っているのか読み取れるくらいには成長した。
 そして成長したタマズサの目は、彼の表情が僅かな悲しみに沈んでいるのを認めた。
 細やかな雨が降る音がする。空からは白い日差しが降り注ぎ、糸のように細い雨が反射する。日照雨だ。シラヌイの手がタマズサの小さな手から逃れて外に伸ばされ、雨を掴むように二、三度開閉する。ふわりと視界の端で揺れたのは、彼の銀色の尻尾だった。雨が気持ち良いのか、同じように銀色の耳も上下した。

「狐の嫁入り、ですね」

 いつもと変わらない調子を装った声は、しかしそうではない。タマズサは自らの体を見下ろした。まだ成熟しきっていない体に纏った白い着物は日差しのように眩しく、同時に忌々しい。
 だからタマズサは彼の手に縋るのだ。降り出した雨が止む頃、きっとタマズサは彼と引き離されてしまうだろう。嫁入りなどしたくはない。だが、それを口に出すことはタマズサには出来ない。既に決められたことはもう覆せないのだ。

「ねえ、シラヌイ」

 こうして甘えることが出来る時間は、もう残り少ない。
 ねえシラヌイ、連れてって。このまま手を握りしめて、どこかに連れ去って。飛び出しそうになった言葉を喉の奥で飲み込んだ。それを言ったら、彼は手を振り払ってしまうような気がしたのだ。飲み込んだ言葉が喉に突っかかって何も出てこない。呼びかけた言葉は宙に消える。
 それ以上言おうとしないタマズサの髪の毛を、シラヌイは撫で続ける。

「……タマズサさん」
「……うん」
「あなたは、とても綺麗です」

 男の手が髪を辿り、焦がした砂糖のような耳に触れた。壊れ物に触れるような手つきに悲しくなる。目の奥が熱かった。両手で彼の空いた手を包み込み、一層強く握りしめる。
 雨が去る気配が近付いている。日照雨が止めば、タマズサは嫁入りをする。

 存在し得ない物が存在して、あり得ないことがあり得る。だからこそ私はここに来たのだ。
「その子は」
 アマザカリはずんずん進む。
「その子は、アンタの腹を突き破って生まれてくるだろうな」
 私の腹を蹴る子供は何も知らず、藻掻くだろう。人の体の中は住み続けるには狭い。だから藻掻いて藻掻いて、外の世界に一人立とうとするだろう。その時私はきっと息をしていない。
 私は私の腹を撫で嘯いた。
「それで良いんだ」
 もとよりそのつもりなのだ。私は生きるつもりなど毛頭無い。この子さえ無事に生まれれば何も問題はない。ただ、そう、私が死んだ後、この子がどうなるか、それが今となっては唯一の心配だ。
「夜街の住人は、たとえ外の世界に出たとしても、その縁は切れないという」
 諦めたようにアマザカリは言った。
「アンタが死んだのなら、その縁は、きっとその子が受け継ぐんだろうよ。どんな形であれ。その子は夜街に呼ばれてやって来る。帰ってくる。なぜなら夜街がその誕生を許したからだ。夜街は、一度許した者にはとことん甘いからな」
「まるで人のような物言いだな」
「そりゃそうだ。夜街は生きてるんだ」
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