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Bernadette
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彼が意識を取り戻したと聞いて駆けつけた病室は、花の匂いがした。ベッドの上で体を起こしている彼は白い入院着を着ていて、その腕から点滴のチューブが伸びている。私が入ってきたことに気付いているだろうに、彼はぴくりとも動かずぼんやり宙を眺めていた。
花の匂いがした。彼の手が花を握りしめていた。見舞いには到底そぐわない、真っ赤な薔薇だ。ベッドの上とその辺りに赤い花びらが散っていた。

「おはよう」

ドアを閉めてゆっくり近付く。彼の顔がこちらを見た。うっすら開いた唇が不健康に青ざめていた。頬は白い。生きているのか分からない彼は、けれど生きているし血も流れいてるようだった。薔薇を握りしめている手から、僅かに血が流れているのが見えた。
かさり。花びらを踏みつぶす。彼の横に立ち尽くす。どろどろに濁った闇色の目が私を見た。

「それで、死ねなかったのね?」

一瞬の間を置いて彼は頷いた。そして視線を逸らし、自分が手にした薔薇へと向き直った。そして何も言わないまま薔薇の花びらをむしり取り始めた。哀れな薔薇はその赤色を散らされ、あっという間に花のない植物へと成り下がる。そこまで見て、私はそれが花屋で売られているような物ではなく、誰かが直接刈り取ってきた薔薇なのだと気付いた。みずみずしい緑色の茎にはたくさんの棘が並んでいた。

「水、が、くちからはいってきて、苦しかった」
「そう」
「でも、死ななかった。なんか、よく分かんないけど。よく分かんないけど、車にひかれたときのこと、おもいだした」
「そう」
「だんだん苦しいのがきもちよくなってって、でも体中きもちわるかった。水、まずかった。目、あけたら手がみえたけど、たぶん、あれは」

そこまで言って彼は別の薔薇を手に取った。花びらが半分ちぎり取られたそれを更にちぎり取る。

「んで、きづいたら救急車っぽいのにのせられて、でもすぐに真っ暗になった。真っ暗。死んだと思ったのに」
「でも、死ねなかったのね」

無言は肯定。握りしめられた花びらが乾いた音をたてた。彼の細い手が私に差し出されたので手を出すと、手のひらにぐしゃぐしゃの花びらが載せられた。
花の匂いがする。彼の折れそうなうなじを見て、私は自分が安心しているのか失望しているのか分からなくなった。彼のそのうなじや白い頬や青白い唇にこの薔薇のような赤い液体が流れているのは確かで、けれどそれは私の心に平穏をもたらす訳じゃない。
いっそ目覚めなければ良かったのにね。唇だけを動かして呟いた。彼が意識を無くしたまま、そのままの白さでいてくれたら良かったのにね。死ねない彼がもう二度と動かなければ良い。こうして、彼が死のうとする度に胸が締め付けられるような苦しさも、無事だったことを知らされた時の安堵も、何も感じなくなれば良い。
そうして私はきっと、彼の隣で微笑んでいるのだろう。動かず、ただ人形のようにそこに存在する彼をそうしてやっと、心の底から愛せるのだろう。


ねえ、でも、それはただの人形遊びに過ぎないんじゃない?
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黒崎(ジャック)
・女装青年
・長髪
・年下の彼女がいる
・「僕」
・きれると「俺」


黒崎(知一)
・ラノベの主人公みたいなタイプ
・苦労性
・「俺」


黒崎(知一その2)
・中学生
・沖縄人
・無口
・「俺」
・きょういちという兄貴がいる


黒崎(「」)
・地毛が赤い
・大食い
・金魚掬いが得意
・「俺」


黒崎(誠也)
・一回死んでる
・「俺」


黒崎(「」その後)
・年下の幼馴染みを捜している
・25歳くらい
・留学したので英語はネイティブ並
・紅茶好き
・手先器用
・タバコは吸わない
・眼鏡
・「俺」


黒崎(黒友)
・高校生
・タバコ吸う
・人脈広い
・大食い
・「俺」


クロサキ(IB)
・唯一の女
・黒友黒崎の女版
・大食い
・「わたし」
ベルベットに似たなめらかな花びらは真紅だった。近付けば近付くほど、咲き誇る薔薇の匂いがまとわりついてくる。一点の汚れもない花は、今がもっとも美しい瞬間なのだろう。赤い薔薇に顔を寄せると、よりいっそう香った。
左手で一本、ぱきりと折る。棘が手袋越しに手のひらを傷つけたが気にしなかった。もう一本、もう一本と折る。今が盛りの花を折る。やがて折った薔薇は両手に抱えるほどになった。
二瓶はしばらく抱えた薔薇を見つめていた。まるで花束のような薔薇の束は、折られてもまだ生き生きと赤色を主張している。
だが二瓶は、折られた花の命が長くないことを知っている。
目を閉じる。瞼の裏の暗闇に花の真紅が焼き付いて離れない。棘のある茎を掴む手が痛んだ。目を開ける。手のひらの痛みを知りながら、二瓶は花をぐしゃぐしゃとむしり取り始めた。
むしり取られ握りしめられた花びらは無残に変形し、ごみのように地に落ちた。二瓶の足下が赤く彩られていく。薔薇の匂いが悲しげに風に流れていった。

「にへいさん」

少女の声がした。

「なに、してるの?」

舌っ足らずな少女が薔薇の木と薔薇の木の間から、不思議そうに二瓶を見ていた。真っ白なワンピースを着た少女が顔を出している、その薔薇の木の花は白だった。
途端薔薇に興味をなくした二瓶は、握りしめていた手をぱっと離した。薔薇の束が乾いた音をたてて足下に広がった。

「なんだ、いつから見ていたんだ、八坂」
「お花、ばらばらにしてるとこ」

とことこ近付いてきた少女は二瓶の足下の薔薇を一瞬寂しそうに眺めたが、その視線はすぐに二瓶の手に移った。驚いたように目を見開いた少女に二瓶は首を傾げ、自分の手を見た。棘で傷つけたのだろう、白い手袋に血の色が染みついていた。

「たいへん。洗わないとばい菌はいるよ」
「大丈夫だ」
「だめ。いたいでしょ」
「そうだな、確かに痛い」

自分の腰ほどしかない少女の頭に、いつものように手を載せようとして止めた。少し悩んで、また新たに薔薇を折った。今度は手を傷つけないよう、葉と棘を抜く。

「八坂、手を出してみろ」
「はーい」

素直に差し出された手の上に、その薔薇を載せた。少女の後ろでは白い薔薇が咲き誇っている。振り返る。赤い薔薇は物を言うことも出来ずただ咲き続けている。少女の手の中の薔薇もまた、咲き続けている。だが、二瓶はその花が、永遠に美しいままではないことを知っているのだ。

「きれい」

それを知らない少女は無邪気に笑う。匂いを確かめるように口付ける姿を見ながら二瓶は自分の手を握りしめた。花びらに似た赤色が染みついた手袋越しに、人肌の温かさはなかった。
ミートソーススパゲティを食べたいが、ミートソースがないとタカに言うと、彼は黒崎の冷蔵庫を勝手に開けた。黒崎が止める間もなく冷凍庫も開けられ、勝手に中を見られた。

「作れば良いんじゃね?」

手を突っ込み、タカが冷凍していた挽肉を取り出した。

「ああ、その手があったか」
「だろ、タバスコもあるし作れば良いだろ」
「……へ?」

じゃあ作るか、とソファーから立ち上がったところで、黒崎ははて、と首を傾げた。タバスコは冷蔵庫の中だが、それとミートソースがどう関係あるのか、分かりかねたのだ。

「タバスコ?」
「タバスコ」
「なんで? いや、食べる時にかけるけどさ」
「え、作る時使わないか?」
「まあ、食べる時に使うくらいなら最初から入れるってのもアリだけど」
「だってミートソース赤いじゃん」

沈黙。

「……なあ、タカ。お前、ミートソースの材料言ってみ」
「挽肉とタバスコだろ?」

更に沈黙。

「…………」
「え?」

はたして彼に何から言えば良かったのか分からなかった黒崎は、そのまま無言でミートソースを作ることにした。
こんな雨の日は古傷が痛む。そう言って彼の手が髪の毛を掻き上げた。左のこめかみにひきつった傷跡が一つ。赤紫に歪んだ線は肌色には到底なじまない。

「痛みますか」
「それなりに」
「じゃあ、雨の日は大変でしょう」
「そうだな。雨は嫌いだ」

そっと吐いた息はため息だった。彼の左手が髪の毛を離し、傷跡はまた隠れた。いつも通りの彼の横顔に戻る。
霧雨はけぶるように街を濡らしている。手持ちぶさたにビニール傘を回すと、しずくがビニールをつう、と伝って落ちた。

「雨、止むと良いですね」

目の前で信号が、赤から青に変わった。人混みが一斉に向こう側へと渡っていく。足音と水音、そして声。彼の手が動いたかと思うと、傷跡をなぞるように指がこめかみを這った。痛みますか、ともう一度聞くと、痛い、と答えが返ってきた。雨は止まない。
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