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Bernadette
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 最初はただ背中が痛んだだけだった。寝ている間にぶつけたか、何か腫れ物でも出来たか、その程度に思っていた。
 怪我でも腫れ物でもなんでもないと知ったのは一週間経って、なお痛みは引かず逆に強まっていくことに気付いてからだった。
 羽化が始まっているらしい。


 羽化が始まった人間は、特定の施設に入らなければならない。持って行けるのはトランク一つの荷物のみで、それに服と、楽譜を入れた。施設は何でも揃っているらしい。ピアノの一つでもあるだろうと思ってだった。
 最後に、伸びた髪の毛を切った。爪も切った。家に置かれたオルガンで何曲も弾いた。指よりも先に背中が痛み、最後は何のフレーズにもならなかったが、弾いた。満足とは思わなかった。この先で満足するまで弾けるかは分からなかった。空っぽな気分だった。羽化するということは、予想以上に体の負担になっていた。好きなはずのピアノも好きなだけ弾けないのは苦しかった。
 施設に行けばその苦しみもなくなると言っていたが、到底信じられなかった。
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・謳え、(歌え、)
・永劫回帰
・二時間食べ放題980円(ドリンクバー別)
・通い路
・路
・なまえなんていらない
・水底より愛を込めて
・君を待つ
・地の底より
・落ちる速さについて
・踊る人形
・わたしはあなたのかみさまになりたい
・さよなら、
・spin doll
・こんなにも近いのに
・あまりにひどい
・夏幻
 某@ラスゲーに久しぶりにたぎった結果が数年ぶりの二次創作という。
 最近ブームの大天使とヒトだった悪魔の話。
過去の物をサルベージ。いつか使う。


「ねえギンコ。私達、双子よね」
「そだよー」
「一卵性よね」
「? うん」
「顔も遺伝子レベルも同じよね。元を辿れば一人の人間なのよね」
「うん……」
「なのに、どうして体格は違うのかしら……どうして私の方がスタイル悪いのかしら……」
「カナギちゃん、もしかして」
「いいえギンコそれ以上言わないで。何も言わないで食事を減らして」
「……明日から、カロリー低めの食事にするよ。俺、頑張るから、だからそんな悲しそうな目をしないでカナギちゃん……」

「それはな、憎いっていうんだ。まあ覚えとけ、損はねぇ」

「二人合わせてオセロ!」
「ひっくり返る?」
「ひっくり返すぜ!」
「うわあー止めろー黒くなるー」
「ならねえよ」
「オセロの黒い方ノリ悪いな、のれよ」
「無理」
「オセロの黒い方、俺、腹減った」
「そうか」
「白いご飯に砂糖載せて食べたい」
「!?」
「!?」

「ふむ、ところでタイラは何をしているのかな」
「カンゴの邪魔しないように邪魔してる」
「つまりプレッツェルを半分に折ってる」
「……ちょっと待てい。そりゃ私のプレッツェルか」
「あ、次は半分を半分にし始めた。しかも一本食った」
「いえーいいただきっ」
「タイラよ、プレッツェル折るの止めちゃくれないか。ついでにセーラー服は脱ぎなさい」
「え、だんだん楽しくなってきたのに。あとここでセーラー脱いだら、下着になっちゃうんだけど」
「あ、このプレッツェルうまー」
「黒崎君、君も私のを勝手に食わんでくれ。タイラ、やっぱり脱がんで良い」
「えー」
「えー」

「花火は八時からだ」
「……」
「林檎飴はこの茂みを出て左方向、向かって右で売ってる。人を食うようなお前でも、墓参りくらいはするだろ」
「……」
「あの人に買っていけばいいよ。死人は何も食えないけどね」

「…………70……いや、75点」
「はあ?」
「傷跡ある方が味あって良いけど、この傷跡は綺麗じゃないな、無粋だ。あとは、爪がもう少し長いと最高。他は良いな。ほどよく筋肉ついてるし、手首のラインは芸術的。庭に生やしておきたいくらい」
「おい……」
「さーて救急箱はどこかなー」

「聞け、八坂!」
「はいなんでしょう」
「ついにエンムを手に入れたぞ!」
「エンムってなんですか」
「たまたま電車に乗ったのが良かったらしい。隣りに座った少年がうなされていてな、気になって見てみたらエンムだったのだ!」
「いや、あの、エンムとは何なのでしょう二瓶さん」
「これは噂以上に素晴らしい。入手が困難なだけある。最近の養殖の悪夢などとは比べ物にならない出来だ!」
「悪夢って養殖出来る物だったんですか」
「これだからこの商売は止められない。今は気分が良い。行くぞ八坂、仕事だ」
「はい。……ってエンムってなんなんですか、そもそも悪夢に養殖なんてあるんですか。二瓶さん、二瓶さーん」

「あつい、ねえ」
 スイが感嘆したように言った。そこは感動するところじゃないだろう、とサユルが答えると、彼女は繋いだ手をぶらぶら揺らした。
「あついと、生きてるって感じがするんだ。汗、ながれるし。心臓が動いてるのがよくわかる」
「お前は死んでないよ」
「うん、生きてる」
 真新しいキャミソールワンピースの、ずれたストラップをスイの片手が掬う。しなやかな白い手だった。人並に日焼けしたサユルの手とスイの手は面白いほど色が違う。繋いだ手がよりいっそうそう思わせているのかもしれない。
 確かに暑いな、と声に出さずに同意する。
「海、遠いな」
「そうだね。あるくのは、すこし、無謀だったかな」
 ちらりと横を歩く少女の足を見る。ターコイズブルーのサンダルを履く足はゆっくりだが歩き続けている。更に自分の足を見た。すり切れボロボロになったスニーカーは現役で、まだまだ歩けると主張していた。歩くのが苦手なスイの為に、また少し速度を落とす。僅かな心遣いに気付いたらしいスイが、手を軽く握り返してきた。
 松林を横目に歩き続けると、一際強い風が吹いた。潮の匂いを含んだ風は海が近付きつつあることを二人に伝えて去っていく。緩くまとめたスイの髪がさらさら音をたてて宙に舞った。サユルの短い髪の毛も同じように揺れ、額に浮かんだ汗が風で僅かに乾く。
 スイが小さくハミングをしていた。周りの音に掻き消されそうなほど小さな声を聞き逃さないよう耳を澄ませ、それでいて気付かないふりをする。聞いたことのないメロディに、やがて聞いたことのない言葉が重なった。スイの歌声は不思議と甘く耳に残る。穏やかだが、それでいてもの悲しいメロディだった。
 海に行きたくないな、と不意に思った。また少し歩くスピードを落とす。スイは上手く歩けない足を引きずるようにしながら、ただ歌い続けている。怪我をした訳でも欠陥がある訳でもない白く細い足は、必死で地を踏みしめている。
「なあ、スイ」
 アンデルセンの人魚姫は、恋した相手にもう一度会うために、自分の声と引き換えに激痛の走る人の足を得たという。そして恋の叶わなかった人魚姫は泡になって消えてしまった。声と役に立たない足はそれを対価とするにはあまりにバランスが悪いのではないか。幼い頃からサユルはそう思い続け、それは今も変わっていない。
 だがスイは、声をなくし、泡になった哀れな人魚姫ではない。
「おれ、海、行きたくないなあ」
 力を込めて繋いだ手を握る。スイは歌うのを止め、ただ悲しげに微笑んだ。サユルは唇を噛みしめ、そしてただ歩き続ける。
 スイは人魚姫ではない。恋のために声をなくし、不自由な足を手に入れ、泡となって消えるストーリーなど存在しない。だが、歩き慣れない足を捨て、遙か遠い海の向こうへ帰ることは確かで、そしてそれを変えることはサユルには出来ない。スイが歌う。誰にも分からない、スイにしか分からない言葉で。
 金色の日差しが降り注ぐ、その上を仰いだ。きっと海は、高く昇った太陽の光で輝いているのだろう。そして少女はそこに消えていくのだ。別れの時は近い。
 スイの細い指がサユルの指に絡み、そして強く力が込められる。答えるようにサユルもまた力を込めた。痛いほど強く繋いだ手はお互いの体温でひどく熱い。それでも離そうとは思えなかった。
 もの悲しくも甘い歌は止まない。
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