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Bernadette
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 魔法使いが使えるのは、鍵を使った魔法なのだという。

「この鍵。これを使えば、どんな扉でも、その鍵で繋がった場所、に行ける」

 アンティークゴールドの輪に大量にぶら下がった鍵はいろいろな形や色や、飾りが付いている。魔法使いは慣れた手つきで一本摘んだ。銀色の、普通の鍵だ。マンションとか家とかの鍵とそう変わらない。
 前髪から雫が垂れる。突然の雨に濡れたから服と体を乾かそう、という話をしていたのだ。魔法使いは滅多に魔法を使いたがらないけれど、宿や休めるところが見当たらないから仕方なく、と言ったところだろう。私はこの国のことをよく知らないから、魔法使いのコートにしがみつき、彼の体に隠れるようにして作業を見守った。
 えい、と相変わらず気の抜けた声で彼は通りに面した扉の鍵穴に、銀色の鍵を差し込んだ。嵌るはずのないサイズだというのに、鍵穴に鍵がきちんと収まって、彼が手をくるりと回せばかちりと音を立てて錠が開いた。

「よし」

 満足そうに笑った魔法使いがノブに手を掛け扉を開いた。
 開けた先は、シャツを着た人達が慌ただしげに仕事をしている、どこかのオフィスだった。

「……」
「……」

 と思ったけれど、壁に掛かった濃い色の制服に見覚えがとてもあって、そう言えばこの人は他の魔法使いと警察の、両方に追い掛けられていたなあ、と思い出した。ぎょっとした顔でその場にいた人達がこちらを見た。それはそうだ。警察のオフィスの扉を、いきなり黒いコートの男と子供が開けたのだから。

「……間違えた」

 ぽかんとした表情をしていた魔法使いは、正気に返ってそんなことを呟いた。失礼した、バタン。扉は閉まってしまった。
 鍵を引き抜き、魔法使いはそのままのポーズで扉の前に立ち尽くす。

「……」
「……」
「……改めて」
「うん」

 そして何事もなかったかのように、別の銀色の鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。



まほうつかいがポカンとして「間違えた」とか言ってたら面白いwwbyたす子氏
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ねーC、親に捨てられた優等生と身に覚えのない罪で逃亡してる人物とのファンタジー書いてー。



「わたしは実は、魔法使いなのだ、よ」

 相変わらずどこか舌っ足らずな調子で、彼はふうふうと熱いティーカップの中身を吹き冷ましながら私に言った。年の割に話し方がこんななのは、実は数時間前に熱い缶ココアを飲んで舌を火傷したからである。それを見た私は思わず大笑いしたのだが、彼はいまだに根に持っているらしく、ここ数時間は少し不機嫌気味だった。
 そんな男は魔法使いなのだという。黒いコートを着た、この人は。
「まほうつかい」
「まほうつかい」
「うそだあ」
「なにを根拠に、うそだと言うのだね」
「それっぽくない」
「ひとを、見た目で判断しては、いけない。道端、で寝転がっている人が賢者の可能性も、なきにしもあらず、だ」
 全国チェーンのコーヒーショップの一番奥、薄暗い照明とコーヒーのにおい、私は目の前の温められたスコーンを崩す。ぽろぽろのスコーンはフォークで刺すたびにかけらになって、結局私の口にはあまり入ってくれない。思わず指先でつまんで口に放り込んでから、私はびくりと肩を震わせた。怒られる、と思ったからだ。
 けれど目の前の自称魔法使いは、やっぱりティーカップに息を吹きかけていた。私を叱る大人はここにはいないのだ。
「魔法使えるのね」
「まほうつかい、だからな」
「だから逃げてるの」
「そうかもしれない」
「あいまいね」
「秘密、だからだ」
「魔法も?」
「魔法も」
「使ってくれないの」
 私はこの人の名前を知らない。歳を知らない。どこから来たのか知らない。何も知らない。何を聞いても秘密、というからだ。ただ、彼は逃げている、とだけ教えてくれた。あとは彼の行動から推し量る。寒がり。温かい飲み物をよく飲む。甘いものが特に好き。一週間のうち、ココアを飲んだ回数は18回。コーヒーは0回。今飲み終わったのはミルクティー、これは3回。寒がりのくせに私にマフラーを貸しているものだから、しょっちゅう首元を擦っている。少しだけ申し訳ない。
 目の前の魔法使いは少しだけ悲しそうに笑った。
「わたしの魔法では、君が本当にほしいものを、与えることは、できない」
 だから、使わない、と言い切って、男の人はミルクティーを飲みきった。私の前にはいまだ食べ終わらないスコーンが三分の二。汚れた指先をナプキンで拭う。行儀が悪いと怒る人は、学校で頑張れば褒めてくれる人は、もういない。
 魔法使いがひょい、とスコーンのかけらを勝手にとって食べてしまった。私のスコーン、とつぶやけば、ごちそうさま、と返ってくる。そうじゃない。きっと私がほしいのはそういう言葉じゃないのだ。それを目の前の人に望むこと自体、間違っていると分かっているのに。
 滲んだ目の前で魔法使いの指先が踊る。ふわり、漂った白い煙はティーカップからあふれてきた。甘いミルクティーの香りがする。空っぽだったカップをまた両手に持ってふうふう息を吹きかけて。
「ゆっくり、食べなさい。なんなら別の、注文してきていい」
「別の」
「子供は食べ盛りだから、な」
 じゃあミルクティーがいい、と鼻を鳴らして言えば、魔法使いはにっこり笑ってよろしい、と指を鳴らした。


*逃亡どこいった
*身に覚えのない罪どこいった
ねー加藤瑞樹、頭は良いのに酷く鈍感なやのつく自由業の人と無機物に憑いてる生真面目な幽霊が小さな奇跡を起こす話書いてー。



「まったく、あなたは愚かな人ですね」

 少しばかり古びた型の音楽プレーヤーが、いやみったらしく俺の耳へと語りかける。抗議の意を込めてイヤフォンをずらせば、ふん、とさらに不機嫌そうな吐息が重なった。この音楽プレーヤーは残念なことに、音楽ではなく俺への嫌味再生機と成り果てている。困った物だ。金がないわけではないが、毒々しい赤色が好きで買ったというのに、また新しく買うのはひどく面倒だ。
 俺を愚かだと評価したこの奇妙な、喋るプレーヤーの表面を弾いた。当然、無機物なのだから固い音がする。
「叩いてどうするんです。プレーヤーが壊れるだけですよ」
「うるせえな。黙ってろよ」
「いいえ、黙りませんよ」
 それに壊れたって、私はいつまでもしゃべり続けますよ。そう言った声はぼそぼそとして覇気がない。そもそも幽霊に覇気なんぞあってたまるか、という話だ。
 俺の音楽再生機には、幽霊が憑いている。
「あなたも分かっているんでしょう。こんなことしたってどうにもなりませんよ」
「黙ってろって言ったろうが」
「黙らないと申し上げたはずですが?」
 またこれだ。いやみったらしい声。ねっとりと絡みつくような。何が悲しくて俺はこんな、非科学的なものと対話しなければならないのか。よれたスーツの胸ポケットから煙草とライターを取り出して火をつけた。白い煙がもうもうと上がり、周りの空気に吸い込まれる。壁に背を預ければ、疲労でボロボロの体が悲鳴を上げた。
 早く家に帰って布団と仲良くしたいところだ。出来ればの話だが。
 慌ただしく走る人々と、逆に一歩も動かず、カメラさえ構えてみせる人々と、そこから少し離れて燃える邸宅を眺める俺と喋るプレーヤー。今頃あの中では俺の上司やら何やらが燃えているんだろうか。つい半日前までいた場所が炭と化す。それは妙に現実感が無く、俺は一体何を失ったんだろうか、とか、何をするべきなんだろうか、とか、お頭を助けに行くべきなんだろうか、とか、そういうことが頭の中を駆け巡ってはあっという間に消えていった。
 因果応報。つまりはそういうことなのだろう。他人を不幸にする職業を無理矢理に続けてきた結果がこれなのだろう。俺はどうやら職を失ってしまったようだ。これは困ったことだ。だが、もう歩く気力はない。ずるずると体が落ちていく。それでも手の中の煙草とライターと、音楽プレーヤーだけは落とさなかった。
「あなたは愚かだ」
 まだ言ってくるのか、お前は。
「あなた、頭は良いはずなのに。変なところで馬鹿なんです。その頭をもっと別なところで動かしてたらきっと、良い人生を歩めていたでしょう。どうしてこんな、因果な商売に身を窶してしまったんです」
 知るか。そんなの、俺にだって分からない。だからといって今更普通の人生を送れると思っているのか。十年以上境界線のぎりぎりを歩き続けてきた人間が、まっとうな人間に戻れると思っているのか。
「戻れますよ。その手伝いくらいして差し上げます。……体がないだろなんて、馬鹿なことは言わないで下さいね」
 黒い煙が白い煙に変わり、人の声が渦巻いて、もう何もかも捨てて眠ってしまいたかった。そうして今更のように、俺はすべてを失ってしまったことを知る。明日からどうやって生きていこうか。そもそも歩き方は覚えているか? 俺は呼吸の仕方さえ、忘れてしまうんじゃないか?
「まあ良いでしょう、そんなこと。さあ早く帰りましょう。帰り道が分からないのでしたら、道順を教えて差し上げましょうか」
「……もう、なんなんだおまえは」
「さあ、なんなんでしょうね。ただの幽霊ですよ」
「とっとと成仏しちまえ。俺のプレーヤーを返してくれ」
「気が済んだら成仏しますよ。気が済んだらね」
 ふふ、と笑う気配がした。それはあのねちっこい声ではなくて、小さな小さな悪戯をした幼い子供の無邪気なそれと、計算高い女の駆け引きのそれが混ざり合った声だった。
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