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Bernadette
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 部屋の隅に飾っていたフォトフレームの中で笑っていたのは誰だったか。安っぽい金色のネックレスはその時の流行物だった。何一つ本物の存在しないジュエリーボックスの中身を満たすのがまるで自己アピールのようだった。染めた髪の毛を結っていたシュシュはもう色褪せているだろうか。着なくなってしまったあの制服は、使わなくなった鞄の中身は、どうなっているのだろう。
 さらさらとした雨は晴れた空から落ちてきていた。通り雨かもしれない。店の軒先で眺めていると、ふと、そういえば二年経ったんだなあ、と今更のように思い出した。
 夏野、という少女が死んだのは、二年前の三月だった。


「今年で20歳か」
 冬峰に言われて、ああそうですね、と夏野は答え、すぐに、
「女に歳の話題はタブーですよ」
 と返した。
「気にしているのか? お前が?」
「実は、まったく気にしていません」
「だろうと思った」
 霧のような雨に打たれて帰ると、私室に篭もりっきりだった冬峰がリビングのソファーに腰掛け新聞を読んでいた。開口一番それだった。冬峰がそうなのはいつものことだったが、いきなり歳の話が出てくるのには驚きを隠せなかった。
「そういう冬峰さんは何歳なんですか」
「さて、何歳だったかな」
「はぐらかさないでくださいよ、二年前からそればっかり」
 
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・いろんな人が出てくる。
・shortと違うのは、一人一人に詳しい設定がついてることぐらい?
・不思議なことはたくさんあるし、憂鬱なこともたくさんある。
・不思議編と憂鬱編?
・黒友メンツもぞろぞろ登場させたい。

・不思議編
・収集家冬峰と、死んだ人間夏野。あり得ないことはないしなんでもあり得る。
・古書店組も欲しい。
・鴇崎古書店店主とタカとモトイ。
・悪夢商人二瓶と弟子の八坂。

・憂鬱編
・こっちの方が人数多くないか
・小林、吉田、羽住、黒崎→大学生四人組
・誰一人として他三人の下の名前を知らない四人組。
・大学生、高校生中心だけど今更高校生キャラ作るのもなんだか
 こんな夢を見た。

 雨が降り出しそうな灰色の空の下、私が駅前のベンチに座っていると、横に男性が並んで座った。ふいとそちらを見ると、男性は白髪が交じり始めた黒髪を後ろに撫でつけた、壮年の男性だと言うことが分かった。ごくごく自然な動作で足を組んでいた。威圧感や迫力はないが、凍ったように静かな水面を思わせる静謐さが私の方まで届いて駅前の喧噪を忘れさせた。
 勿論彼は私の知り合いではない。だがどこかで会ったような既視感があった。しかし話しかけるほど私の神経は図太くはない。視線を行き交う人々に向けた。どこに行くかも分からない彼らを、私はおそらく彼と共に眺めていた。
 人の流れがだんだんと、一つの波になり始めた。駅が砂の城のように溶け出し形を忘れ、そこには何も残らなかった。足を載せているはずの堅いアスファルトも柔らかになり、それは水に変わった。灰色の空が驚くほどの速さで色を取り戻し夕暮れ時の色に変わった。私と男性は二人並んでそれを眺めていた。ベンチだけは変わらず、褪せた色と形のままだった。
 目の前に広がっているのは夕暮れで赤と橙の混じり合った色合いの海だった。
「綺麗ですねえ」
 ちらりと横を見ながら言うと、彼は頷いた。
「ええ、綺麗ですね」
 さっきまで歩き、走り、話し、止まっていた人々の群れが穏やかに揺れる海となっているのだ。もう少しで夜になる、その手前の色合いは燃えるようだった。眩しい、と思った視界がぼやけ、何事かと目元に触れると、私は泣いていた。
「悲しいですか」
 彼が言う。
「分かりません」
 私は素直に答えた。
 さざなみの音が聞こえた。
「あなたはきっと、恐ろしいのでしょう。この海が」
 彼が立ち上がった。ちゃぷん、と足下の海水が跳ねた。正面から見た壮年の男の顔を見てようやく既視感の奇妙なベールが取れた。これはまるで、私ではないか。
「私は行きますが、あなたはどうしますか」
「どうしましょうか」
「そのままでいたいのですか」
「いいえ、いたくはありませんねえ」
 つられて私も立ち上がった。水の上で立つのは空を飛ぶように不思議な感覚がした。一歩踏み出す度に水が私の足を絡め取る。彼の横に並んで、私は先の無いほど続く海を眺めた。絡め取る海水もさざめく波も、全て元は人だったのだと思うと、私の歩を捕まえるこれらはもしかしたら、遠いどこかに私が置いてきた何か、誰かだったのかもしれない。
 私は悲しかったのかもしれない。何もかも後ろに置いていき、静かに老いていく自分が悲しかったのかもしれない。そして他の人々も同様に老いていく。おなじだけの速さで歩いているはずなのにいつかまったく違う速さになるそれが、悲しかったのかもしれない。
 夜が来る。
 裾を濡らす水を振り払うように私は足を踏み出した。いつのまにか、彼は消えていた。一瞬見下ろした水面に映った私は白髪交じりの髪の毛を後ろに撫でつけた、壮年の男だった。
「写真を撮ろうか」

「笑って」
 慈愛に満ちた目で笑う、その人に憧れた。同時に泣きたくなった。こんなにも綺麗に笑うことの出来る人だったのだ。私にも出来たかもしれない笑い方は、しかし、今の私には到底まね出来ない。どうやって笑えばいいのか、さっぱり分からない。ファインファーを覗くようになって何年経ったのだろう。覗かれることがなくなって、何年経ったのだろう。
 それでもこの人は笑うのだ。優しく私の手を取り、温かな体温で私に触れるのだ。
 カメラに張り付く人が片手をあげる。こっちを見て、と明るい声を上げた。二人並んで座り、レンズへとひたすらに視線を向ける。見慣れたガラスレンズが今だけは見慣れない、仕事道具ではない何かになっていた。
「それでは撮りますね」
 群衆に一人取り残された幼子のような不安さでレンズを見つめる。膝に置いた手に温かい手が触れた。隣のその人が重ねた手は、もしかしたら、取り残された子供の親のものなのかもしれない。
 私は笑えるのだろうか。
「笑って」

 その場の一つの選択でどんどんと未来が変わっていくのなら、私がいまこうやって泣くことをひたすらに耐える、そう選択したことも、何か未来を変えうることなのだろうか。
 泣いた私と泣かなかった私の分岐は、一体何を生み出すのだろう。


 あなたは誰なんですか。
 私はあなたです。今このときに泣くことの出来なかった私です。


 それではさようなら。死ね。


 君の未来は存在しないけれど、私は存在するのです。いくつにも枝分かれした分岐の、その内の一つの可能性なのです。
 君のその選択が、今、君の一つの可能性を消した、それだけです。


 馬鹿なことを考えてしまったんじゃないだろうか。私はまだ生きているのだ。


 そうして私は静かに泣いた。誰もいない道端で、あるはずのない傘を差した。鮮やかな赤色の傘がけぶる街並にひどく鮮やかに咲いていた。離れていく傘は空色で、雨が止んだ後はあんな綺麗な色が広がっているんだろう、と、泣きながら思った。
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