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Bernadette
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こんな夢を見た。

私は船に乗っていた。どうやらそこは広い湖で、遙か向こうには連なる山々が見えたが、あいにく周りは白い霧で囲まれていた。小さな船からのぞき込んだ水面は、恐ろしいほどに青く澄んでいた。その澄んだ水も底を見通すことは出来ない。よっぽど深いのだろうその湖に魚も水草も見えなかった。
船には私の他にもう一人乗っていた。青白い頬の女性だ。白い服を着こみ、今にも霧にとけ込んでしまうのではないかと思ってしまうほどに希薄な空気を纏っていた。憂いを含んだ瞳はどこか宙を見ていた。
向かい合った女は今にも死んでしまいそうだった。しばらくすると、思った通り、女の体はくずおれた。力をなくした体がぐらりと傾き、船の中に倒れる。小さな船はきしみ声をあげたが、沈みはしなかった。
私は驚いて女を抱えあげた。青白い頬をいっそう白くしながら女はか細く息をしていた。こんな船の中でどうすれば良いのか分からなかった私は静かに動揺した。とりあえず声をかけようと口を開いたが、冷たい空気が喉をつう、と通っただけだった。

「おねがいがあります」

うっすら目を開けて女が言った。船のきしみ声に隠れそうな小さな声だった。

「わたしが死んだら、この湖に沈めてください」

そうして女は目を閉じた。その首筋に指を当てたが、僅かな温かさのみがそこにはあり、私は首を横に振るしかできなかった。
女を腕に抱えたまま、湖をのぞいた。底の暗闇がさっきよりも深くなったのではないだろうか。抱えた女の体がずしりと重くなったような錯覚を覚えた。私はどうすればいいのだろうかとぼんやり考えた。さっきまでの女のように宙に視線をさまよわせた。白い霧と浅い青空と、高い山が見えた。
女を湖に沈めるべきか、このままにしておくべきか。静かに考える。ちゃぷちゃぷと湖水が船に当たり、跳ね、女の頬にぽつりと落ちた。まるで涙のようだった。
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あの日、真っ白なシャツを羽織って笑っていた女性は今、目の前でパールピンクのドレスを身にまとっていた。
剥き出しの肩や華奢な手足、白い首筋。記憶の中の全てと被る。地面が一瞬揺れたように感じたがそれは僕の錯覚で、ただ眩暈がしただけだった。
何のてらいもなく、僕は彼女が綺麗だと思った。そして次の瞬間にはそれがかき消えどうしようもない感情に襲われる。悲しみなのか、怒りなのか、諦めなのか。あるいはそれら全てかもしれない。ぐちゃぐちゃになった僕の心は顔に作った笑顔を貼り付けさせた。初めまして。嘘がすらすらと口から出てくる。
彼女もまた、何事もなかったかのように微笑んだ。あの日見せた少女のような笑顔ではない、大人びた微笑だった。
それではこれで、と一礼し、僕はゆっくりと彼女の横を通り過ぎようとした。その時、騒がしいパーティー会場の中で、彼女の小さな声がはっきりと聞こえた。

約束なら、交わしていないでしょう?

ああ、そうだな。静かに目を伏せた。そうして僕らは、今まで会ったことを全て忘れて歩いていく。


(タイトルが椎名氏なのに内容が黒/夢なのは何故)
「追う必要はないぞ」

薬師の声を聞いたタイラが不思議そうな顔をして追い掛けようとしていた足を止めた。冷静そうに見えるが彼女は随分と焦っているようで、自分が靴を履いていないことに気付いていない。ソファーの横に積み上がった靴の箱から、適当なローファーを取り出しタイラに放った。そこでようやく素足に気付いたようだった。

「つまり、どういうこと?」
「つまり、そういうこと」

薬師も自分のスニーカーを、ことさらゆっくり履く。既にローファーを履いたタイラはドアを開けて外に出ている。焦るなよ、とのんびり言うと、つまりは、とタイラが遮った。

「追わなくて良いのは、そういうこと?」
「追わなくて良いのは、そういうこと」

いつものように答えると、ようやく納得したのかタイラは大きく息を吐いた。鍵を閉め、エレベーターの下行きのボタンを押す。一階上からエレベーターが到着し、ドアが開いた。二人で乗り込み、一階に降りた。さっきまで降っていたはずの雨は止み、青空が見えていた。
マンションの前に人だかりが出来ていた。タイラが無言でマンションから出る。その背を追いながら薬師も人だかりの方へ向かう。事故だ、人が、という声が聞こえた。
タイラの足が止まった。人と人の間から、道に直角になるように止まった車と、道路に転がる誰かが見えた。人と車が衝突したのだと一目見て分かった。転がる誰かの方はちょうど人混みが邪魔になって顔が見えなかったが、ダークグレーの袖が見えた。そして、その手に握られたナイフも見えた。
救急車を呼んでくれ、誰か、飛び出しだ、ありゃ即死だろ。目撃者が口々に言う。タイラは無言でそれを見ていた。薬師は事故現場から目をそらし、ただタイラの方を向く。

「な、言ったろ」
「そうだね。こういうの、必然とかって言うのかな」
「人によっては運命とか言うんじゃねえの。どっちにしろくだらない」
「そうだね、人の生死なんてくだらないことだね」
「そうさ、俺があの人があと何分で死ぬのか分かってたってことも、くだらないことだ」
「分かりながらあの時、止めなかったってこともくだらないこと?」

 タイラはからかいを含んだ声と笑顔で、薬師の顔をのぞき込んだ。面倒そうにそれを手で払い、薬師は答える。

「いや、それは大切なことってヤツだ」
時計を見る。時計を見る。時計を見る。チクタク歩く秒針を殺す。時計を落とす。力強く踏みつぶす。足下でガラスが粉々に割れた。
カウントを始めよう。180秒。こうしている間にも時間はどんどん過ぎていく。あと何秒だ? あと160秒。3分あるならカップラーメンでも作ってりゃいいんじゃねえの? 俺は嫌いだけど。安っぽいし。不味いし。
あと140秒。140? 139じゃなくて? そんなことどうでも良いだろう。頭の中で秒針が歩く。うるせえ黙れ。お前なんてお呼びじゃない。
あと120秒。あと2分。生ゴミに香水をぶちまけたような悪臭がする。鼻がもげそうだ。息を吸うことすら面倒で、気持ち悪い。呼吸を止めてみようか。ああでも、カウントをしなければ。カウント、カウント。0になるのをひたすら待つ。
あと97秒。中途半端。それならキリの良い時間まで沈黙でもしてみようか。



あと60秒。あと1分。カップラーメンもあと1分。少し固めが好きなら今から食えば良いんじゃね? ただし自己責任でな。
あと40秒。心臓が高鳴った。緊張、安堵、そして高揚。もうちょっと頑張ってくれ。あと35秒でなんとかなるからさ。
あと30秒。フライングオーケー?
あと20秒。ノー。
あと10秒。だってほら、もう少しだし。
あと5秒。フライングしても意味ないだろ?

なあ、そうだろう?

あと0秒。

さあ始めよう。はじめまして、さようなら。
二瓶は花が嫌いだ。昔、二瓶自身がそう言っていたことを八坂は覚えている。
だから、彼の手に白い花が握られているのを見てひどく驚いた。

「花、嫌いじゃなかったんですか」
「嫌いだな」

マーガレットだろう白い花を一輪、二瓶はしげしげとそれを見つめていた。

「花は美しいが、それは永遠に続く訳ではないからな」

花占いをするかのように、ぷちぷちと花びらをもぎ始めた。その表情はいつも通りにも見えたが、どこかふて腐れたようにも見えたのは八坂の見間違いではないだろう。

「でも、だから、綺麗だって言えるんだと思います」
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